「また来たい」の作り方~俺はこうして板室の関係人口になった~【第二章】
第二章|「まぜてください」と言ったら、最初の役割が生まれた
さて、前章で中潟は、この計画に参画することを決めました。
それが2022年3月頃のこと。
ゲストハウスLeu.がオープンしたのは2025年4月なので、ここからまだ3年あります。
2026年現在、月に10日ほどLeu.に滞在し、「板室の関係人口筆頭」を自称している中潟ですが、こうなるまでの3年間、私たちは一体何をしていたのでしょうか。
そして、中潟は何の役に立てたのでしょうか。
これまでも散々書いてきましたが、地域に関係するということは、その地域に何らかの役割がある状態だと私は思っています。
それが誰かから与えられたものなのか、自分で勝手につくったものなのかは別として。
「まぜてください」と言った中潟に、最初に与えられた役割は、ものすごく簡単に言うと、
「お金の話をする」
でした。
理念だけでは、本社の決裁は動かない
Leu.の運営には「本社」というものがあります。
Leu.には100%出資する親会社があり、その会社が本業とは別の事業としてゲストハウスを経営し、現場の運営を私たちが担う、という形です。
前章で書いた「本社へのプレゼン」とは、今ある旅館を改修して新しい価値を生み出すことを、親会社に了承してもらうためのプレゼンテーションでした。
そこで私が資料を見て思ったのが、
「お金の話がないな」
ということでした。
理念もコンセプトも面白い。
「人となりが交わる場所、新しい寮の提案」
「働くために住むのではなく、イキガイのために住む」
「多様な働き方を提案し、挑戦できる世の中を那須からつくる」
今あらためて読んでも、方向性は現在のLeu.につながっています。
でも、プレゼンを聞いた人がどれだけ「良いね」と思っても、それだけでは会社として次へ進めません。
何部屋つくるのか。
一泊いくらにするのか。
稼働率はどのくらいを想定するのか。
宿泊以外にどんな収入源をつくるのか。
毎月いくらかかるのか。
そもそも改修にはいくら必要なのか。
その投資を何年で回収できるのか。
会社に判断してもらうためには、少なくとも仮の答えを用意する必要があります。
当然です。
そこで、理念や構想は金澤、経営と仕組みづくりは加藤さん、経理や財務は中潟、という大まかな役割分担ができました。
まだ存在しない施設の収支を考える
次に本社へプレゼンをするのは2022年7月。
それまでの数か月間、とにかくシミュレーションを繰り返しました。
「何部屋あって」
「稼働率はどれくらいで」
「一泊いくらで」
「宿泊以外に何を売って」
「毎月いくらかかって」
「改修にいくらかけて」
「何年で回収するのか」
まだ何も決まっていないので、当然、正確な数字など出せません。
それでも、一つひとつ仮の数字を置き、空いている穴を埋めるようにして、平面だった構想を少しずつ立体的にしていきました。
当時の資料を見ると、宿泊だけではなく、カフェ、ショップ、レンタル、シェアオフィス、さらには那須地域の企業と働き手をつなぐ人材マッチングまで、収入源として考えています。
当時置いていた仮説は、月間売上214万円。
一方で、光熱費、人件費、清掃費、仕入れ、システム管理費などを積み上げ、損益分岐点は月商約150万円と試算していました。
今見ると、
「本当にショップだけで月50万円も売れるのか」
と思うような数字も入っています。
現在のLeu.とは違う計画もたくさんありますし、今なら違う考え方をする部分もあります。
ただ、このとき必要だったのは、絶対に外れない数字を出すことではありませんでした。
まだ決まっていないことに、一度仮の数字を入れてみること。
そうすると、何が足りないのか、何を決めなければならないのか、どこに無理があるのかが見えてきます。
数字は未来を正確に当てるためというより、構想を具体的にして、次に考えるべきことを見つけるために使っていました。
ちなみに、当時作ったロードマップでは、すでに2025年度の開業を目標に置いています。
実際にLeu.がオープンしたのは2025年4月10日。
間にはいろいろなことがありましたが、最初に置いた時期だけは、ほぼそのまま実現しました。
考えれば考えるほど「OKが出なそう」になる
収支を考えれば考えるほど、現実も見えてきました。
想定する売上や効果に対して、必要な改修の規模が大きすぎる。
かといって、使える場所だけを少しずつ直すスモールスタートでは、施設の魅力を十分につくれず、大きなチャンスを逃してしまいそうでした。
理想は、思い切ってお金をかけてビッグスタート。
しかし、このコンセプトで一体何年かければ投資を回収できるのか。
計算すればするほど、
「うーん、これはOKが出なそうだな……」
という気持ちになっていきました。
そもそもLeu.が目指していたのは、普通のホテルではありません。
宿泊料金をいただき、客室を回転させ、その利益だけで改修費を回収する。
その考え方だけでは、最初から成立しにくい計画でした。
Leu.がつくろうとしていたのは、那須で働く人の拠点であり、大学生のような若者が地域と出会う場所であり、何かに挑戦したい人が試せる場所であり、人手を求める地域の事業者と働き手がつながる場所です。
では、その価値を誰が評価するのか。
宿泊売上には直接表れない価値に、どこまでお金をかけられるのか。
お金の計算を始めたことで、逆に「この施設がお金以外に何を生み出すのか」を、より具体的に考えなければならなくなりました。
楽しくもありました。
まだ存在しない施設に値段をつけ、その中で起こることを想像し、事業として組み立てていく。
一方で、数字を入れるたびに現実へ引き戻されます。
それでも、時間は待ってくれません。
今の自分たちに出せる最大限、実現可能性が高いと思える資料をつくり、2022年7月、本社へプレゼンに行きました。
けちょんけちょんにされると思っていた
正直、けちょんけちょんにされると思っていました。
ところが、予想に反して返ってきたのは、
「コンセプトは良いね」
「その方向で進めよう」
という反応でした。
もちろん、何でもそのまま承認されたわけではありません。
当日の議事メモの冒頭には、はっきりと、
「HOTELとしての出資の回収は現実的ではない」
と書いてあります。
やっぱりそうですよね、という話です。
でも、その後に出た結論は、計画を小さくすることではありませんでした。
「実験を重ねて、一気に投下する」
「もう少しビジョンを大きく見せましょう」
「長期的なことを考えると、スモールスタートというよりビッグスタートしましょう」
私たちが悩んだ末にたどり着いていた結論と、本社の考えが同じだったことに、まずホッとしました。
同時に、会議ではさまざまなアイデアも出ました。
大学のゼミ合宿やスポーツ合宿を受け入れられないか。
テストキッチンとして使えないか。
カフェや対面ビジネスを学ぶ場にできないか。
駐車場にキッチンカーを呼べないか。
マルシェや場所貸しはできないか。
3階に二段ベッドを置き、月3万円の「試住体験」ができないか。
今のLeu.につながっているものもあれば、実現しなかったものもあります。
ただ、このとき初めて、議論が「建物をどう改修するか」から、「ここで誰が、どんなことを試せるのか」へ広がった気がします。
「つくる」より先に「試す」
とはいえ、方向性は認められても、「では、いくらかけるのか」という具体的な話までは進みませんでした。
こちらは「どのくらい出してもらえるのだろう」と思い、本社は「どのくらい必要なのだろう」と考えていたのかもしれません。
お互いにけん制していたのか、その時点ではまだ判断材料が足りなかっただけなのか。
いずれにしても、すぐに大規模な改修へ進むのではなく、このコンセプトが本当に成立するのかを確かめるため、夏休み期間に実証実験を行うことが決まりました。
現状の建物へ大学生を受け入れ、自炊しながら滞在してもらう。
どんな過ごし方をするのか。
どのような設備が必要なのか。
合宿で利用するとしたら、いくらなら支払えるのか。
そもそも、私たちが想定しているような人たちは本当にここへ来るのか。
まだ完成していない場所だからこそ、実際に人を受け入れて確かめてみることになりました。
次のアクションは、実証実験に参加してくれる人を見つけること。
そして、受け入れの形をつくり、その結果からLeu.の実現可能性を探ることです。
振り返ってみると、中潟に最初に与えられた「お金の話をする」という役割は、単に収支表をつくることではありませんでした。
理念に仮の数字を与えること。
数字を入れたことで見えてきた無理や不足を整理すること。
そして、頭の中にしかなかった構想を、実際に試せる状態まで持っていくこと。
「まぜてください」と言って加わった中潟に、最初の役割が生まれました。
そしてLeu.は、建物をつくるより先に、まず人を泊めてみることになりました。言ったら、最初の役割が生まれた
