【第7話:「捨てたスニーカーは、俺よりもマシな顔をしてた」】
雨に濡れて、道端に転がっていたスニーカーが、俺に似てた。
いや、正確に言えば、あいつの方がまだ小綺麗で、まっすぐに顔を上げていた。
俺は、もうずいぶん前から、顔を上げるのが怖くなってた。
「最近どう?」って聞かれるたび、喉の奥が詰まる。
言いたいことなんて山ほどあるのに、
言えば、誰かの機嫌を損ねる気がして、何も言えなくなっていった。
人の顔色ばかり伺って、
自分の心はずっと、靴の裏みたいに擦り切れてた。
ある日、バス停のベンチで座ってたとき、
横にいたおばあちゃんが俺のストマを見て、ふっと目をそらした。
その瞬間、自分が「異物」になったような気がした。
胸がぎゅっと締め付けられて、世界が真っ黒になった。
でも、そんな日の夜、スマホでたまたま読んだ一文が、
俺をギリギリ引き戻した。
「悲しいって言える人は、まだ生きる余白がある人だ」
泣いた。涙じゃなくて、しょっぱい嗚咽みたいなやつ。
俺はまだ、悲しいって思えるんや。
じゃあ、それでええんちゃうか。
次の日、あのスニーカーを見に行ったら、
もうなかった。
代わりに、空だけがやたら晴れてた。
