【第1話:月夜に、ストーマを晒す】
夜中に目が覚めた。
部屋の隅で、冷蔵庫のモーターが静かに唸っている。
布団の中で、俺は腹に貼り付いたストーマ袋を指先で撫でた。
これが俺の生きている証だ。
でもこれが、俺を人間じゃない気分にもさせる。
46歳、無職、癌サバイバー。
寝起きに突きつけられる自己紹介なんて、ロクなもんじゃない。
腰を上げ、ゆっくりと団地のベランダに出た。
空気は重く、夜は深い。
遠くで、救急車のサイレンが小さく鳴っている。
シャツをめくりあげる。
月明かりの下で、俺は自分のストーマを晒した。
誰にも見られていないとわかっているけど、
それでも、どこかに誰かがいて、見てくれているような気がした。
俺はまだ、生きている。
それだけを確かめたかった。
