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『馬とくらす』ということ〜前編〜

心身ともにささくれ立ったり、はたまたズドーンと落ちたり…ジェットコースターのような自分を御すことができぬまま、40年以上生きてきた。

それでも、自分がそういう…ガチガチの理詰め脳のくせに激しく感情に影響される、感覚や感情が多くの他人に比して10倍過敏な人間であるのだと理解してからは、外界からの刺激を遮断したり、ほいほい安請け合いしないように気をつけたりするようになった。

とはいえそう簡単に状況は改善しないというか、次から次へと別の自律神経失調症状は溢れてくるし、相変わらず自分の生を自分で生きられていないような虚無感に覆われているし、他人と比べて焦ってばかりの毎日だ。


馬がいればすべて解決するのに…!


なぜそう思うようになったのか、根拠は不明。
でも、こんなクサクサした気持ちも、なんとも言えない具合の悪さも、馬さえいれば吹き飛ぶと思う。

ガチの馬好きって、そうじゃない?

「馬とひとつ屋根の下での暮らし」に憧れて『小さなウマ飼いになる』『家で馬を飼う』『そだててあそぼう85ウマの絵本』などの書籍を集めたり、個人で馬を飼っている人のSNSをフォローしたりするようになって久しい。

しかし現実はどうだ?
ちょうど結婚に向けて実家を出たのと時を同じくして、飼っていたウサギを虹の麓へ送った。
死別がつらいから、もう生き物と暮らすことはない…そう覚悟を決めて、虫も魚も含めて一切のペット飼育不可のアパートを選んだ。
心身ともにボロボロで、家事どころか自分の世話もままならず、ヘルパーさんに頼る生活。

馬と暮らすなんて、夢のまた夢…
いいんだ、叶わなくても「馬飼いになりたいんだー」って、言い続けて終わるとしても。
そう言っていられることが幸せなんだから。

そう思っていた。
言い聞かせていた、のかもしれない。

馬と暮らす、馬と生きるワークショップに参加する


タイミングというのは不思議なもので…
うまテラスメンバーさんから「こんなイベント見つけました!」と送られてきた内容がこちら。

馬と暮らす、馬と生きる〜 2泊3日で学ぶ、あなたらしい馬との暮らしをデザインするワークショップ 〜
2025年8月8日(金)13時〜10(日)13時 於・三陸駒舎(さんりくこましゃ/岩手県釜石市)

三陸駒舎さんは、ホースジャーナリストのYURIEさんのお誘いで参加した今年1月のホースセラピーに関するオンラインセミナーで登壇されていたのを視聴していた。
隣県だし、他で見ないようなことをやっているようだし、いつか行ってみたいなと思っていた。
とはいえ児童福祉領域のホースセラピー施設なので、行くとしたらわが子の発達支援関係で何か潜り込めそうなプログラムがあったらかな〜…と思い、頭の片隅の小箱にそっとしまっていた。
ら、思いの外早くにその箱を取り出す時が来たのだった。

見通しが立たないことに不安を覚えるタイプの私にとっては、参加前に得られた事前情報は非常に少なかった。

場所は岩手県釜石市の山奥
寝泊まりは築100年を超える古民家にて男女別
参加者は最少1人〜最多5人の少人数制
参加者みんなでごはんを作って一緒に食べる
最初に馬について基本的なことは教える
馬の世話をしたり、放牧場で柵を張る作業をする
馬との暮らしの実現に向けて話し合うワークがある

とまあ、このくらい。

子どもを連れて行こうかとも思ったが、先日函館の牧場でアブが怖くてパニックを起こしたし、ワークの時間におとなしく話を聞いていられる子ではないので、今回は自分だけ行くことに。
実際行ってみたら本当に自然豊かな環境だったので、虫が大の苦手なわが子など連れて行ったら、何もできずに帰宅する羽目になっていたかも…。

曲り家(まがりや)とゆかいな仲間たち


車のナビで距離優先にしたら、寄ろうと思っていた遠野市内のラストコンビニをスルーしてお昼ご飯をゲットしそびれる…というトラブルに見舞われつつ、落石注意のくねくね山道に怯えながら自宅から3時間あまり。
Googleで見た駐車場とおぼしき場所に停車し、外作業用の衣服やタオル等のアメニティ類も持参のため、普通の旅より物量の多い2泊3日分の荷物を抱えて古民家へ続く坂をのぼる。

左が母屋、右が厩。

のぼりきったと思ったら、ヌっと黒い影が現れてびっくり。犬もいるのか。

ラブ♂若い盛りで元気いっぱい

実はここには馬以外にも動物たちが人と一緒に暮らしている。
というか、いまは馬は昼夜放牧地で過ごしているため馬房はからっぽで、家の敷地には馬以外の動物しかいない。
とっても静かで気配がなさすぎて、前を通ったのに居ることに気づかなかったもう1匹。秋田犬。

ツル♀

こちらも「ごはんくれ」って言うときしか声を聞かず基本的に気配がないので「そこにいたの?!」とびっくりする白黒にゃんこ。
猫アレルギーの利用者さんがいるため、土間と板の間のあいだに侵入防止扉が設置されている。
帰り際に足に首をスリスリしてきたカワイイやつ。

モモ

ここにまさかのおもいっきり愛玩用のウサギがいるとは思わなかった。
最後に飼っていたウサギと地の毛色が同じで、懐かしいなあ。
夕方には土間のバスケットに収容して、逃げないよう&モモちゃんに襲われないように厳重に蓋をする。

ラビ

そういえば事前の案内で「犬と鶏が早朝から鳴くので気になる方は耳栓持参推奨」とあったっけ。
むかし実母の実家に鶏、七面鳥、ヤギ、犬がいて、なんとなく状況を想像できた私としては覚悟してたほどうるさくないぞ?と思ったら…雄鶏たちはあまりにうるさいため裏山に移動させられていたのだった。ゴメンネ。
卵を産まない雄鶏は近々シメるかもしれないらしい。
鶏は鶏でも、ここにいるのは烏骨鶏の群れだった。
全員にそれぞれ名前がついていて、烏骨鶏マスターのスタッフはすべて見分けがつくそうだ。すごい。

烏骨鶏ファミリーのうちの1羽

母屋にたどり着くと、ほかの参加者のみなさんはすでに到着して談笑していた。
私以外に3人、今回の参加者は全員女性のようだ。
ううっ…出遅れた…若干の入りづらさを感じつつも、極めて明るくつとめながら、挨拶代わりに手土産のバター餅と、馬の尻尾っぽいのを選んだいぶりがっこを差し出す。

参加した理由や生きてきた背景も様々で、住んでいる場所もバラバラ。
今回参加しなければ知り合うことのなかったであろう面々である。
私から見ればみんなそれぞれすごく才能があって、世の中の役に立つシゴトをしていて、やりたいことに一生懸命で、そのうえでさらに馬と一緒に何か事を興していきたいという気持ちがあって…とてもキラキラしていてうらやましい。
私みたいに、自分が癒やされたいがために馬とくらしたいたいんだよね〜って、お気楽に参加してるんじゃない。
これが私の悪い癖というか認知の歪みというか…それに意味があろうがなかろうが、すぐ他人と比べて劣等感抱いてうじうじしたり焦ったりしてしまう。
内心にそんなものを抱えながらのスタートだった。

このワークショップを開催してくださるのは、三陸駒舎の代表でありこの古民家の家主・黍原(きびはら)さん。
馬のことを知らない状態から、復興支援を入り口にこの地域とつながり、子どもたちの笑顔のためにホースセラピーを含む三陸駒舎という空間と時間を提供している。

別に元来の「馬好き」というわけではないので、我々参加者のガチの馬好き前のめり具合に若干引いている感もあったように思う(笑)
飄々として一見ゆるい雰囲気に見えるが、馬のことになるとピリッと厳しくなる瞬間が多々あり、私としては実は48時間一瞬たりとも油断ならなかった…というのはココだけの話。

奥様と娘さんはちょうど娘さんの流鏑馬合宿のため遠征していて不在であった。
馬ネイティブ(物心ついたときから当たり前に馬がいる環境で育った)娘さんは流鏑馬の大会で多くの優秀な成績を修めていて、居間には賞状が並んでいた。
馬場や放牧地には練習用の的があり、三陸駒舎の随所に娘さんの存在を感じる機会があった。

今回不在の奥様に代わり、ワークショップに参加する私たちと一緒に寝泊まりしてご飯の支度など生活の面倒をみてくださったのが、非常勤スタッフのこずえさん。
車で到着したときに最初に声をかけてくださった。
黍原さんに、私が持病で重いものを持てなかったり他の人と同じようには動けないことを不安に思う旨をお伝えした際「重いものは持てないけど働いてるスタッフもいるので大丈夫。タイミング合えばその方とお話できたらいいですね。」と伺っていた、そのスタッフというのがこずえさんだった。
健康バリバリ元気モリモリでなくても馬の作業に関わっている方がいるというのを知れたのも収穫だし、ご本人とつながることができたのは私にとって今後大きな支えになるだろう。

馬の世話や放牧地の整地を中心となって行っているのは、首都圏から移住してきたアッキー&いくみさん夫妻。
一緒にごはん食べたり、男鹿のお気に入りの大将がいるお店の話をしてくれたり、アブキャップ取り付けについてったらお茶目な一面が垣間見られたりして楽しかったなー。

それから、研修生としてのここでの最後の日々を一緒に過ごすことになった、いのりさん。
1週間の研修が終わったあとに、やっぱりもっとここにいたい!ということで3ヶ月の研修のため戻ってきたという。
そういう、何か馬とやりたいことがある人の受け皿としての柔軟さも、ここ三陸駒舎の魅力のひとつだ。

最終日には、夏休み中だという弟さんを連れていらした、スタッフの美琴さんにもお会いすることができた。
おがわじゅりさんのTシャツを着ていた私に「ボロがちゃんとBOROって書いてあるのがいいですね!」と話しかけてくださった辺り、あ〜これはガチの馬好き仲間だな!と思った。

用意されたプログラムのない3日間


そんなゆかいな仲間たちと、出入りするスタッフさんたちと、参加者のみなさんと文字通り寝食を共にする、いわば大人の合宿。
最初に「今回のワークショップのプログラムは〜…」みたいな感じで“何日の何時にナニナニをします”といった説明などありそうな気がするだろう。
それが、このワークショップには無い。

まずは自己紹介、と言いつつ、このワークショップに参加するに至った動機を説明するにはそれぞれの生きてきた背景から語る必要があって、みな様々なみちのりでここに集まっていることを共有した。

そのあとは黍原さんから「みなさんが知りたいやりたいと思うことをやっていきたい」というお話があった。
いつもの馬とのくらしのサイクルの中に我々参加者も入れてもらいながら、そこで得たものや感じたことを言語化して共有するというのがこのワークショップの全体像となるとのこと。

単に「用意したプログラムを体験してもらうお客さん」だったらあり得ないと思うが、最終日には他の団体の企業研修が入っており、それを受け入れて一緒に馬とのワークを行うことも予定に含まれていた。

「私たち参加者のために特別に作られたプログラムではない」からこそリアルに馬とのくらしを経験できると思うし、そのくらしの環の中に入れてもらえるということの貴重さを思うと鳥肌が立つくらいワクワクしたのだった。

馬とのくらしを実際に体験する


基本的には朝・昼・夕の1日3回、馬にごはんを作って食べさせることが生活の軸となる。
馬のごはんが終わったら、人のごはんを作ってみんなで食べて片付ける。
合間に発生する作業をお手伝いしながら体験させてもらい、訊きたいことがあれば都度教えてもらう。

2泊3日のくらしの渦に投入された洗濯物みたいにぐるぐる回って、気がついたら脱水して干されてた…という感覚なので、いちいちメモも取っていないし、正直いつ何をどの順でどのくらいやったかは覚えていない。

中日の振り返りの時間にも話したが、私は普段とても体調が悪くて、1日の半分は起き上がれずに横になっているような生活だ。
それがこの日は朝6時前から夜10時くらいまで動いて食べて話して、結局寝るのも0時過ぎ。
ふだんの3倍くらい起きているし、やっていることの項目としては10倍以上になると思う。

体験させてもらったことを挙げてみる。順不同。

馬の朝昼夕飼い
馬以外の動物たちの世話
馬場での引き馬
放牧地⇔馬場の移動
調馬索での運動(&ボロ掃除)
ブラッシング
ドライビングの見学
削蹄の見学
新たな放牧地の電柵張り
現放牧地→新放牧地への移動
他の研修団体の方と一緒に追い運動

ざっとこんなところだろうか。
作業に入る前に厩まわりの説明を受け、周辺の放牧地を巡って歩き回ったので、その様子をお伝えしていったん記事の前編として区切りたいと思う。

かつての馬とのくらしを今に伝える曲り家の厩

厩の中に2つの馬房があり、馬のごはんである牧草やビートとそれを計量するためのカゴがある。

牧草の計量

馬のごはんにはそれ以外に、便秘予防として「あまに煮」を加えている。
お腹がゆるめの体質の子には与えない。

https://www.nbr.jp/amanini

このあまに煮はパッケージにも馬の絵が描いてあって、完全に馬用飼料として販売されているのだが…食べた人でお通じが良くなった例があるという。
「でも味がしないしおいしくないよ」とは言われたものの、好奇心旺盛な我々ガチの馬好き参加者は食べてみずにはいられない。
確かに口に入れたときはただ味のないドロッとした物体だったものの、豆やゴマが好きな私は噛んでいるうちにほのかな甘さと風味を感じた。
便秘予防になるなら、馬にあげるついでに自分もちょっとつまみ食いするくらいならいいかも。※自己責任で。

4頭×2食分のビート用バケツ

昼ごはんは牧草のみ。
牧草の量も、放牧地の草の残り具合によっては調整する。

馬柵棒(ませんぼう)や、取り外して馬を出し入れする機能がある壁板などの設備のほか、馬を農耕に使っていた時代の貴重な道具もそのまま残されていた。

片方はコンクリ床

敷料はどこかからもらえれば費用はかからずに済む。
米ぬかなら近所の精米所で手に入るからいいなあと思ったが、水を吸いやすいので、オガ粉の方が使い勝手が良いらしい。

深く掘られた床

昔はこのように深く掘った床に敷料をもふもふに入れて、ひと冬過ごしていたのだそう。

馬柵棒のストッパー部分

厩の外には後づけの蹄洗場がある。
基本的には柱を2本立ててロープを着ければ完成。

蹄洗場(洗い場)

でも、日除け雨避けにやっぱり屋根は欲しいなと思った。
積雪を考えると、角度や強度の計算が必要か。
もしくは冬は取り外せるようにするのもアリかも。

洗い場の屋根

厩には4方向から出入りできるようになっていて、道具置き場も兼ねている。
道具を洗う水場の水源はほかの牛農家さんと共同なので、使い過ぎに注意なのだそう。
ちなみに人の飲用にも使う生活用水は井戸水で賄っているため、水道料金はかからないし、真夏でも冷たくて気持ちいい。

いよいよ馬たちに会いに行く

さて、先に書いたが、この家の敷地にいま馬はいない。
徒歩5分くらい(とはいえ普段まったく歩かないというか歩けない私にはもっとかかったように感じた)の放牧地に馬たちはいた。

馬は全部で4頭

左から
ポニーの笑馬(えま)
どさんこのアサツキ
どさんこ×ポニーのヤナ
どさんこのピーナッツ

日本在来馬は比較的小型とはいえ、やはりどさんこはこう見ると大きく感じる。
飼うなら在来馬がいいなと思うし、気候的にもどさんこが最適かなとは思ってはいるのだが。
そんな思いが出たのか否か、私はなにかとアサツキにお世話になる機会が多かった。

放牧地がいっぱい

まさかそんなに何ヶ所も何ヶ所も放牧地がたくさんあると思っていなかったので、初日からこんなに歩くことになるとは…と面食らった。

この地区にも耕作放棄地は多くある。
草丈が伸びればその向こうの山からクマやシカなどの害獣も降りて来やすくもなる。
そもそも少子高齢化で耕作放棄しているのだから、草刈り作業も容易ではない。
そこで、馬がごはんとして草を食べることで草刈りができる代わりに、その土地を貸してもらうというWIN-WINの交換条件が成り立つというわけだ。

放牧して、馬があらかた草を食べ尽くしたら、次の放牧地に移す。
馬が食べないヨモギやノバラ、ハルジオン、ヒメジョオンといった草は、人の手で除去する必要がある。

放牧地BEFORE
放牧地AFTER

4頭いるので、まる一昼夜もあれば小さな放牧地ならだいたいきれいに食べ尽くしてしまうそう。

のちに、次の放牧予定地に電柵を立てて、馬を移動するという作業も体験させてもらうことになる。

次の放牧予定地

どさんこはミヤコザサを食べて北海道の冬を生き抜いたと言われている。
それに近い竹の葉はどうかというと、もちろん食べる。
これを刈り取って食べさせることもあるそうだ。

近くの竹林

くらやみに、馬といる

以前、私の一番の愛読書は河田桟著『くらやみに、馬といる』であると書いたことがある。
文章から感じられる空気感は想像の中のものでしかなかったわけだが、くらやみの中の馬の世界に入って行く体験をするチャンスがやってきた。
初日の夜、みんなで夜の放牧地にいる馬を見に行こう!ということになったのである。

満月イブなのでもしかしたら月あかりの馬が見られるかも?と思ったが、ちょうど木の影になって、辺りは真っ暗だった。

明かりを消し、息を潜め、足音を抑えてそっと放牧地に近づく。
よーく目を凝らしてみると、4つの影がうごめいているのがわかる。
くらやみに目が慣れてくると、どさんこ2頭の白い体がぼんやりと浮かび上がる。
虫の音と、馬がカサカサと草を揺らし、時折ボリボリと咀嚼する音だけが聞こえる。

できることなら何時間も、朝まででも、そこにずっと居たくなる心地よさだった。

やっとこの世界に溶け込めそう…

というタイミングで、じゃあ戻りましょうかということになった。ぐぬぬ。
そうだ、私たちは初日からもうヘトヘトだし、明日は早いし長丁場なんだ。

その夜は、アドレナリンが出過ぎて交感神経バキバキな上に、寝具のチョイスをミスって寒さでまったく眠れなかった。

あのままくらやみの中、馬の隣で眠ってしまった方が、よほどよく眠れたかもしれないな…と思う。

月あかりの馬(黍原さん撮影)

〜後編へ続く〜





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