心の王国
「やーいやーい!弱虫!」
「すぐ泣いてんじゃねーよ!!」
そんな言葉と笑い声が飛び交ったこの部屋が
僕は一番嫌いだ。
僕の嫌いな場所、教室。
僕の好きな場所、自分の部屋。
入学式の時、まだ僕は
これからの季節を楽しみにしていた。
友達だって作りたかった。
勉強も頑張ろうとしていた。
でもそれは、突然の雪崩のように
勢いよく崩れ落ちた。
それは、入学式の2か月後。
期末テストを終えて、答案が返された日。
科目は現代文。
「この間のテスト、採点したから返すぞー」
先生のその一言で、
教室中はあっという間に煽る空気に変わった。
現代文の先生は、クラス順位を
黒板に書くという残酷なやり方をする。
「このクラスの平均点は、87.5点だ。
皆、よくやったな。あまりできなかった奴は、
この後の模範解答を聞いて復習しろよ~」
再テストというものは無いが、
平均点より10点以上下回ると、
課題が出される仕組み。
先生が淡々と、順位と名前を
黒板に書いていく。
暫くして、僕の名前が書かれた。
最下位だ。
僕は、現代文が大の苦手。
人の気持ちを汲み取るとか、
物語を読んで理解する、想像するとか
全くできない。理解できない。
かといって、どう勉強したらいいのかも分からない。
「うわ、お前最下位?マジ?」
「67点とか雑魚じゃん笑」
「ちょっと、流石に言いすぎでしょ笑
たしかに雑魚だけど笑」
中学1年にもなってそれかよ。
小学生じゃあるまいし、発言もほどほどにしろって
僕は思う。
でも、口にはしない。
昔から、家族でさえ
思っていることを伝えられない。
自分の考えをうまく伝えられない。
そう、いわゆる”無口”でいじめを受けている。
「おいっ、なんかいいなよ。」
隣の席の子がそういってくれた。
でも、思うように口が開かない。
それからは、その子も黙ってしまった。
僕、見捨てられたな。
その日の授業全部が終わって、
部活動にも入っていない僕はすぐに帰宅。
早速、返却されたテストを母に見せた。
「他の科目は出来るけど、現代文だけが
イマイチよね~…惜しいんだけどな…」
僕の母は、決して強く言うことは無い。
怒鳴られたことも無い。
ただただ、優しく肯定してくれてる。
でも僕は、自分の口で気持ちを言えない。
いじめにだって立ち向かえない。
周りからは”感情が見えない”とも言われる。
本当に、その通りだと思う。
自分の部屋へ行き、現代文の復習課題へ。
うーん…どうにもこうにも分からない。
人の気持ちなんて。
そう思い悩みながら、ふと本棚を見た。
マンガも絵本も、小説も、
バラバラにぐちゃぐちゃに並べられた本。
何の気なく、並び替え始めた僕。
その中に、見慣れない本を見つけた。
それは「心の王国」
あれっ、これってたしか、
お兄ちゃんがくれた本だったっけ?
僕の兄は数年前、
交通事故で亡くなった。
それ以来、父・母・僕の3人暮らし。
兄はとにかく明るくて、
誰にでも優しくて、素直だった。
そして両親は”誰にでも優しかった”と話す。
僕は当時小学生。
幼すぎた僕は、からかってばかりの
兄貴しか知らない。
そんな兄の事を思い出して、
「心の王国」に触れた。
少し埃かぶった本をゆっくり開くと、
目の前が真っ白になった。
思わず目を瞑った。
そこから数秒間何かが起きていた。
何かは分からない。
…ん?誰かいるのか?
人の声のような、妖精のような…
甲高い声というのか?
「きみ、だいじょうぶ?」
「けがはないみたい。」
「ぼくらのおうちに、つれていくかい?」
「いや、ひとまずようすみようよ」
1人じゃないな?
複数人いるな?
巨人とか怪物とか、辞めてくれよ…
ゆっくり目を開いた。
そこには、カラフルで丸くて、
ふわふわした何かがいた。
「やーっとぼくたちにきづいた!」
「しかたがないよ、ねむってたんだし」
「ひょうじょうがおだやか~!」
「やさしそうなひと!」
「まえに、であったひとと、すごくにてる!」
えっ、今、何て言った?
「前に会った人にすごく似てる」だと?
それって、もしかして、兄貴の事か?
真相を確かめたくて仕方がない。
でも、言えない。
「ねぇこのこ、もしかして」
「あー、おはなしがにがてかも?」
「えっ!?何で分かったの!?」
僕から咄嗟に出た言葉だった。
「ようやく、しゃべってくれましたね!」
「そりゃあ、みてたらわかるさ!」
エスパーなのかコイツら。
てか、何匹いるんだよ。
ん?匹?人?わかんねーや。
「あなた、おなまえは?」
「湊(みなと)だよ。頼義湊(よりよし みなと)」
「やっぱり!!まえ、ここにきてくれたひとと
おなまえがそっくり!」
「きょうだいってやつか?」
「そうかも!まえのこ、なまえなんだっけ」
「たしか…よりよし…ゆきと!!」
「ゆっきーってよんでたね!」
「それ、僕の兄ちゃん!!」
こうして僕らの会話は増えていった。
そして、僕は気になっていたことを聞く。
「ねぇ、ここってどこ?」
すると、何者かが
「ここはね、”こころのおうこく”だよ!」
心の王国?この本のタイトルだよな?
読んでないから、どんな世界か分からないや。
「ここのせかいは、だれも、だれのことも
わるくいわない。それと、じぶんのことは、
ちゃんとじぶんでつたえる。そういうせかい!」
今までの僕には、絶対にない事だな。
「じぶんとひとって、ひとりひとりちがうから、
ただみただけじゃわからないもん!」
何を言っているのか、僕にはさっぱり。
「みなと…だっけ?ぼくをみてごらん」
言われた通りにする僕。
「ぼくのすきないろ、わかる?」
”わからない”っていいたい。
口が開かない。
「そのきもち、そのままいってみな!」
「こえがでないのかな?」
「つたえるのが、にがて?」
「よし、くちぱくでいってみてよ!」
口パク??そんなんでいいの?
でも、確かに声は出せそうにない。
「”こえをだしていわなきゃ”っておもうと、
あいてにつたわったらどうなるか、
それをかんがえちゃって、こわくなるよね」
「それなら、まずは”こえにださずに”いってみればいい!」
「つたわるひとには、つたわるってか?笑」
「それだけでも、だいぶちがうよ?」
「がんばってみよ!みなと!」
「ふれー!ふれー!みーなーと!!」
「なんだか、ゆっきーのときとおなじだね」
えっ、兄貴も無口?そんなわけない。
だって兄貴は、皆からの人気者で、
素直で無邪気で、誰にでも優しいって母さんが…
「ゆっきーのときも、たいへんだったよね」
「ゆっきーもさいしょ、ぜんぜんはなしてくれなくて」
「そしたらゆっきー、はなせなくてないちゃった」
「そこでやっと、ゆっきーのきもち、わかったよね」
兄貴と僕、本当は似ているのか?
見た目も、性格も。
じゃあ、僕も頑張れば、
兄貴みたいになれるって事?
「じゃあ、もういっかいきくよ!
ぼくのすきないろは?」
僕は、口パクで言った。
”わからないよ”
「お!できた!」
「さっすが!みなとすごい!」
「じょうたつまで、べりべりはやはや!」
出来た。僕にも。
なんでだろう。言えた。
今までは、呆れられたのに…
否定されつづけてきたのに。
「やっぱり、あきらめずに
こわがらずに、いってみるもんだね!」
「いわれて、きらわれるなら、
それはもう、そこまで!」
「そんなんできるようなひと、
ともだちっておもえない!」
…うん。
たしかにこの子たちの言うとおりだ。
仲良くしていて大切なら、
ずっと一緒に居ようと思うなら、
僕の苦手なことも
この子たちのように受け止めてくれるはず。
何も言わなければ分からないって、
そういうことなのか。
「じゃあ、こんどこそ、
こえにだしていってみよう!」
「ぼくのすきないろ、わかる?」
僕は一度、深呼吸をして、
ゆっくり言ってみた。
「ごめん、わからないや。」
「おおおお!!すごいじゃないか!」
「すたんでぃんぐおべーしょんってやつ!」
「それはちょっとちがうとおもうけど」
思わず、僕はそのやりとりに
笑ってしまった。
「あっ!みなとがわらった!」
「みなと、そのちょうし!!」
「みなとがいま、”たのしんでる”ってのがわかる!」
「ひとのきもちって、かならずどこかに
”ヒント”がかくされているよ!」
「くいずもそうでしょ?かならずヒントがある!」
そうか、僕はそのヒントを、
現代文の授業とテストで
掴めていなかったんだ。
「ひとのきもちって、かならず
うごきとか、かおにでるからさ!」
なんか、それっぽいことを
授業で言ってた気がする。
「みなと、こんどは、
ちがうしつもんをするよ!」
「みなとはいま、なんでなきそうなの?」
「じぶんがかんがえるままに、いってみて!」
自分が考えるまま…か…
「さっきのちょうしでいってみて!」
「くちぱくでもいいよ!」
「がんばれー!みなとー!」
なんだか、幼いころの僕の運動会を
全力で応援しに来た母さんみたいだ。
「はい、しんこきゅう!!」
一度ゆっくり深呼吸して…
「うまく言えないけど…その…
嬉しかったんだ。気持ちを言えて。」
「おおおお!すごいぞ!」
「いやーこれはだれもがほれるねー笑」
「みなと、てんさーい!!」
ここまで褒めてくれるのか。
なんだか、大丈夫な気がしてきた。
「なにかあったら、いつでもこのおうこくに
おいでね!」
「みんなまってるよ」
「まぁ、できるようになって、せいちょうして
くれたほうが、いいんだけどね。」
「あれ、それ、ツンデレってやつ?」
やっとこの王国を理解した気がする。
この王国は、心に迷いが出来た時、
心の中で躓いたときに来て、
解決したら現実に戻るのか。
寂しいけれど、これが”成長”ってことだな。
「皆、ありがとう。僕、頑張ってみるよ。」
「もうじゅうぶん、がんばってるよ」
「あとはうちらで、まほうをかけるだけ!」
「そうそう、これからも、みなとはみなと!」
「よし、みんな、みなとにむかって…」
おいおい、なにが始まるんだ。
「ちちんぷいぷいの、ぷーい!!」
…は?そんなんで僕が現実にいくとで…
…本当に戻ってる。
しかも、辺りは真っ暗で
もう夜の7時。
母さんの声が聞こえる。
「みなとー!ご飯だよ!」
この時が、最高の練習チャンスかも。
美味しそうな母の手料理。
食べる前に、僕は深呼吸をして、
こう話した。
「母さん、兄貴ってどんな人だったの?」
「どうしたの急に笑
まぁいいけど…最初は湊と同じように、
あまり口を開いてくれなくてね…
でもある日、今の湊と同じように
”父さんって昔、どんな人だった?って
聞いてきたのよ。
きっと、幸人も湊も、お父さんに似たのね笑」
そうか、父さんか。
確かに物静かで、時々笑ったり、怒ったりする。
それと同じだったのか。
でも、思えば確かに、父さんはいつも
何を考えているのか、思っているのかが
分からない。
僕も同じように見えていたのか。
「ありがとう。母さん。教えてくれて。」
「いいのよ。お母さんはね、
湊がどんなことを言おうが、
悪く言うつもりも、嫌うつもりも無いよ。
だって、貴方を生んだのは私だもの。
これ以上、大切な物は無いわ。」
この時の母さんは、目元も口も微笑んでいた。
心からそう思っているのかもしれない。
「母さんに1個聞きたい。」
「なーに?」
「母さんは、友達でも、家族でも、
思ってることを言うのって
怖くないの?」
「そりゃあ、大人になった今でも怖いわよ。
でもね、何かしらの形で伝えないと、
人は誰しも、他人のことなど分からないのよ。
”どう思われても良い!大切にされたら万々歳!”
くらいの気持ちで立ち向かってるかな。」
母さんでも、怖いものってあるんだな。
翌日。僕は普通に学校に行った。
いつもの”嫌いな”教室。
「来たよ、弱虫」
「無口男」
「”みなと”じゃなくて”むおと”」
「それなら”無音”だろ?笑」
またいつものクダリ。
何度見たってつまんない。
「ほら、言わないの?思ってること。」
隣の席の子も、いつも通り言ってくれる。
よし、今日こそ言うぞ。
”ぼくの心”
「無口で悪かったな。うまく言えないけど、
僕にだって心くらいある。ロボットじゃない。
いつも同じ言葉言われるのも、流石に飽きた。
これでどう?」
”悪く思うなら、嫌えばいい。大切にされたら
万々歳!”母さんのポリシーで行くことにした。
すると、思いもよらない出来事が起きる。
「そうだよ。毎日毎日同じこと言って、
よく飽きないよな。それに、”静かに流す”っていう
対応にしたって、湊の方が大人だよ。」
隣の席の子が、そう言った。
続けて、同じクラスの女の子集団も、
「私たちも、言わないだけで思ってたよ。
普通に静かに過ごすだけで、そんなに言う事ある?
人の事言う前に、自分たち見直したら?」
「私は、物静かな方が話したくなるから、
湊くんと仲良くしたいけどね~」
なんだ、僕が分かってなかっただけで、
皆、思ってくれてたんだ。
隣の席の子がいつも言ってくれた
「何かいわないの?」も、ヒントだったんだ。
これまで分からなかったことも、
こうして分かるって、なんだか良いもんだ。
”分からない”ってのも、悪くない。
でも、伝える方がよっぽど良い。
悪くないな、この世界。
この生活も、誰かの為じゃなく
自分の為にあるんだ。
自分の為に仲良くしてくれる人と
友達になろう。
すると、隣の席の子が
「湊、今度一緒に遊ぼうぜ。
ずっと誘いたかったんだ。」
「おう!もちろんいいよ!」
「湊君!この間の現文のテストどうした?
もしかして苦手?教えてあげるよ!」
こうして僕は、自分の気持ちを
クラスメイトに伝えることが出来た。
仲良くなれてる。
心の王国、悪くないな。
分からないなら一度、
分からないまま進んだって良いのか。
こんな感じでね。
今度また、「無口」というレッテルを
誰かに貼られたら、こう言ってやる。
「じゃあ、またね」ってな。
僕の今は、きっと、悪くないはず。
ー終ー
【余談】
やっぴー!どうも、なみぽん。です!
短編小説風第4作目となりました。
「心の王国」ですが、
今回は結構ファンタジーに仕上げてみました!
前作の「私」よりも、より一層
ファンタジー要素を組み込んだ作品にしたつもりです笑
ファンタジーと言う部類は、私の中でも
結構作るのが苦手なもので…
私が描いているものは、果たしてそう呼んでいいのだろうか
と、途中で葛藤したこともありました。
今回、物語の”基礎”にしたのが…
「なみぽん。の友人が見た夢の話」を
元に作らせてもらいました。
学生時代に仲良くしていた友人が、
ある時私に話してくれた夢の話がとても印象深くて、
未だに私の中で強く残る話だったので
ちょろっと使わせてもらった次第だぞ☆笑
さて、今回作品を作るうえで
妄想を広げた楽曲は…
「I'm here / 三浦大知」です。
この曲を聴いて、
どこか壮大な感じであったり、
どこか切なさがあったり、
聴き手に寄り添ってくれるような…
迫力はあって背中を押してくれるような…
そんな魅力を感じて、この物語を描きました。
このコンテンツでは、
このようにして
1曲の楽曲をなみぽん。が聴いたときに
頭の中で繰り広げられた世界を
そのまま記事に落としています。
登場人物および場所、世界、本の作品など全て
フィクションです。
これを作った経緯や、作品の魅力など
この作品にまつわるエピソードは、
1/26(月)更新予定のラジオでお話しします!
ラジオアプリ「stand.fm(スタンドエフエム)」にて
「なみぽん。の語り場」を更新中です!
そちらもぜひ、お楽しみください!
フォローして待つが良い。なんてね笑
今後の活動もどうぞ、よろしくお願いします!
次回作は、1/30(金)に更新予定です!
お楽しみに~☆
