見出し画像

モジャのロックンロール

小学生の頃、遠足で山へ登った。
確か、保呂羽山だったと思う。

見晴らしの良い場所まで来たところで、
一人ひとり、大声で叫ぶことになった。

叫ぶ言葉は自由だ。

「バカヤロー!」と叫んだり、
ふざけた男子は「キ〇タマー!」と叫んだ。

やまびこなんて返って来なかった。

でも、普段は叫ばないようなことを言ったり、
ただ大声を出すだけでも面白かった。
誰かが何か叫ぶたびに、みんなで笑った。

私は、何を叫ぼうか迷った末、
ほとんどの女子がそうするように
「やっほー!」と叫んだ。

とても気持ちよかった。

最後に、Nちゃんの番になった。

Nちゃんは、少し変わっている女の子だった。
他の女子の輪に入る事もないし
休み時間も、一人で読書をしたり絵をかいたりしていた。

当時流行っていたAKB48の話を振っても
「分からない」と言われてしまった。

もしかしたら、
私のことが嫌いなのかもな、と思っていた。

男子はNちゃんを、モジャと呼んで馬鹿にしていた。
癖っ毛が強かったからだ。

私は、そんなNちゃんが
何を叫ぶのか気になった。

普段、大きな声も出さないから
ヤッホーと叫んだだけで男子は笑うだろう。

もしかしたら、何も叫ばないかもしれない。

ロッ!

クン、ロォォォール!!!

……Nちゃんが、そう叫んだ。

ロックミュージシャンが
ライブで叫ぶやつだ。

男子は、Nちゃんを指さして笑い転げた。

Nちゃんは、放った言葉の行く先を真剣な顔で睨んでいた。
笑われているのも気にせず、ただ睨んでいた。

私は、Nちゃんの横顔を見ていた。
心臓がドキドキしていた。

その遠足からしばらくして、
Nちゃんは、親の都合で転校した。

成人式にも来なかったから
今どこに住んでいて何をしているのかも分からない。

私も社会人になった。

他人のミスを
自分のせいにされても
反省している顔が出来るようになった。

ロックンロール。

ロックンロール。

ロックンロール。

私は、まだ叫べない。


いいなと思ったら応援しよう!