連載小説「オボステルラ」 【第五章 巨きなものの声】 2話「行く先は」(4)
2話「行く先は」(4)
そして朝食後、一同に夫妻も加えて、リビングサロンに集まっている。ナイフが手紙を一通り読み、内容を要約した。
「…ええと、まず…。『ゴナンを早く助けたくて、いてもたってもいられなかった、先に出発する、ごめん』ですって。それで、巨大鳥の行き先については『熟考』の末、南東の方角と予測した、と」
「南東…。でも、なぜかしら? 何か決め手があったのかしら?」
首を傾げるミリア。ナイフもそこは疑問に思ったが、すぐに気付く。
「ああ…。たぶん、ミリアが選ばなかったから、ね…」
「えっ?」
「…あ、いえ、何でもないわよ」
良く聞こえていなかった風のミリアに、ナイフはすぐにごまかしたが、その言を聞いたエレーネとディルムッドもピンと来た。
(昨日、急にミリアに、巨大鳥の行き先について尋ねたのが、不自然だと思っていたのよね…)
ミリアは「西か南西」と答えた。だからリカルドは、残りの選択肢である南東を選んだ。
(ミリアに『不運の星』なんてない、とか慰めてるくせに、肝心な時には随分ひどい扱いをすること)
ナイフは胸の裡でそう思いつつも、話を進める。
「…で、自分は例の遺跡にも興味を持っていて、残りの3箇所にも足を運びたいと思っているって。最寄りは、巨大樹の街エルダーリンドの近くにある。エルダーリンドは、ウキの街からは真東の方向ね。少し距離があるけど」
巨大樹や遺跡の説明を書いている箇所だけ、リカルドの字が乱れている。やはり、意識が飛びそうになるのにあがらいながら書いた様子だ。
「…で、自分の遺跡での挙動のおかしさを解明するために、巨大樹があるエルダーリンドに行きたいって話をゴナンとしていたんですって。ゴナンがそれを覚えていたら、何とかしてエルダーリンドを目指すかもしれない…」
「……」
「……で、エルダーリンドからさらに東に行くと、シャールメールの街がある。そこの中心街近くのアパルトマンの一室を研究拠点として借りてるから、そこのコンシェルジュを通して集合場所や手紙のやりとりの拠点にできるかもしれない…」
シャールメールとは、王都アステールに次ぐア王国第二の都市で、王立第二大学もある街だ。
「………ただ、巨大鳥の行き先は、もしかしたら西方向の帝国側だという可能性も捨てきれない…」
「……」
「…行き先については、ざっくり、こういうことが書いてあるわね。あとは、『疾風のシーランス号』のことをくれぐれもよろしく、ですって」
ナイフの要約を聞いて、一同はしばし、ぽかんとする。
「…つまり、どういうことだ…?」
ディルムッドは混乱して、思わず尋ねた。
「だから、巨大鳥は南東方向の水脈を目指して行ったと予想するけど、巨大樹が描かれた遺跡にも興味があるし、エルダーリンドにゴナンが行くかもしれないし、シャールメールなら自分の拠点があるし、でも帝国のほうもあり得るかもね、ってことよ」
「……」
まとめられても、ディルムッドはさらに首を傾げる。吐き出すように、ジョージがこぼした。
「……結局、いったい氷っ子はどこに向かったんだ? その手紙は、自分の行き先を書き残しているのではないのか? 選択肢が多すぎて、これじゃわからねえだろう…」
「ほんとねえ。よほど慌てて書いたみたいね。リカルドさんも、自分がどこにいくのか分からないまま、飛び出した感じがするわねえ…」
マリアーナも少し呆れ顔だ。
「ひとまず、伝えられるだけの情報は伝えようとしているような意気込みは感じるけれど」
「私がゴナンに関して不安を煽りすぎてしまったかもしれないわ、ごめんなさい」
エレーネがそう謝るが、ナイフはため息をついて答えた。
「いいえ、あなたが言っていた懸念事項は事実だし、あの男はいままで上手く隠していたけど、もともと、とても自分勝手な男なのよ。それに、どうにもゴナンの事となると判断能力が一気に鈍るようだわ。あなたのせいではないわよ、エレーネ」
そう言うと、ナイフはミリアの前に来て、その深緑の瞳を見た。
「…で、どうする? ミリア」
「えっ?」
戸惑うミリアの前にナイフはかがんで、さらにじっと瞳を見つめた。
「…リカルドが1人で飛び出してしまったことだし、正直、リカルドとゴナンのことはさて置いて、あなたはあなたの目的のためだけに動いて良いと思うの、私は」
「……!」
「エレーネが知識をくれるし、ディルが守ってくれる。もう、あなたがリカルドやゴナンと一緒に旅する必要は、必ずしもないでしょ? むしろ、その方がより近道のようにも思えるわ。きっとリカルドも、そう思ってこれだけの情報を残したのだと思うの」
「……」
「あの2人と、あなたが果たしたいと思っていること、天秤にかけると、どちらが重い?」
そう問われて、ミリアは少し目を伏せる。でも、それは一瞬だった。
「…ありがとう、ナイフちゃん。でも、わたくしはやっぱり、卵もゴナンも、どちらも諦めたくはないの。どちらかを選ばないといけない状況だったら迷うかもしれないけど、今はまだ、そうではないわ。わたくしは、どちらも見つかるような路を追いたい」
「…そう…、わかったわ。なんとも欲張りな王女様の影武者の普通のミリアさんだこと」
すっと背筋を伸ばしたミリアのまっすぐな目線を受けて、ナイフはふっと微笑んだ。そしてエレーネに尋ねる。
「…ということは、どういうルートを目指すべきかしら」
「そうね…。ひとまず、リカルドの分析を信じて帝国ルートは排除するとして…。この南東の水脈の泉がいくつかあるエリアがあるから…、そこを通りながら、エルダーリンドまで進む感じかしら…。でも、少し出遅れている感があるのは気にかかるけど……。あ、あともう1つ…」
エレーネの問いかけに、ナイフが尋ねる。
「何?」
「その、手紙にある『疾風のシーランス号』って、どの馬のことかしら? この書き方だと、彼が乗っていった馬ではないのよね? そんなに気に入っている馬がいたかしら?」
「……?」
一同は皆、また、首を傾げる。リカルドが自らカスタムした自慢の幌馬車にはしゃいで自分の名字で名付けをしていたことは、誰も覚えていなかった。
「……ええと、分からないけど、ツマルタでのリカルドの振る舞いを考えるに、おそらくは馬ではなくて、あの装備がムダに過重な幌馬車のことよ。そうならそれは、どうでもいいわ。ともかく急いで出発した方がいいかしら。今日、準備を整えて、明日にでも…」
そこまで口にしたところで、ナイフは夫妻の方を見た。2人とも、寂しそうな表情を浮かべている。
「…リカルドには、絶対に、近々、またここへ顔を出すように伝えるから。本当に、“親”不孝な男だわ」
「ああ、ありがとう。ゴナンにもな」
「…今日は送別会ね。ご馳走を準備しなきゃね。それにしても、急なお別れは、本当に寂しいわね」
ジョージとマリアーナは、そう素直に気持ちを一行に伝えた。

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