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連載ファンタジー小説「オボステルラ」 【第三章】7話「大きな男」(3)


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第三章の登場人物



7話 大きな男(3)



「……!」

ゴナンははっと目を覚ました。ガタガタと揺れる空間にいる。幌の隙間から外の光が漏れてきており、中の様子を見ることができた。周りには、他にも縛られている人…。

「……?」

体を起こして、状況を確認する。この感じは、馬車で運ばれているのだろうか? 蹴られた腹が痛い。

(俺は…、攫われた…?)

周りの人を見てみると、ゴナンよりも随分と年長だ。40代、50代に見える者もいる。皆、起きてはいるが、一様に生気のない表情をしている。もう何もかも諦めている顔…。足を縛る縄が皆、一本につなげられ、荷台に打ち付け留められている。飛び降りて逃げるのも難しそうだ。

(…兄ちゃんが言ってたのに…。妙にうまい話には、気をつけろって……)

ゴナンは体を起こすと、膝を立てて顔を埋めた。昨晩のリカルドの背中の温かさが、最後に月明かりの中で見たスヤスヤの寝顔が、無性に恋しくなる。

(…俺はどうなるんだろう…)

と、荷台がひときわ大きく揺れ、馬車が止まった。後ろの幕が開けられる。

「おい、着いたぞ、出ろ」

男が皆の足の拘束だけを解き、そう号令する。皆ゆっくりと荷台から降りていく。朝日がまぶしい。一瞬目を細めた後、目の前に、大岩に挟まれた堅牢な木製の門があるのが見えた。ゆっくりと開かれている。

「この中に入れ」

男の指示に、他の者は逆らうことなくゆっくりと入っていく。ゴナンが立ち止まり戸惑っていると、横に武装した屈強な男が現れた。

「逃げようったって無駄だぞ。周りは何もないんだからな。野垂れ死ぬのがオチだ」

そう言われて周りを見回す。一面、岩だらけの荒野で、緑の気配が無い。干ばつで枯れた故郷に少し似ている。

「さあ、入れ!」

屈強な男がゴナンの腕をぐいと引っ張り、門の中に蹴り入れた。そして門を堅く閉める。

門の中には、大きな岩山がある。そこに横穴が掘られ、何人かの人間がそこを出入りしては、石を積んだトロッコをレールの上で押して運んでいるようだ。カゴを背負って運んでいる者もいる。

ゴナン達を連れてきた男は、敷地内に1棟だけある建物へと向かう。人相の悪い男が出迎えていた。

「…よお、グレイさん。今回は5人だ。借金取りから逃げ回っていた者、身寄りのない者…。足が付く恐れはない」

「いつも助かるよ。何せ、人を増やさねえと回らなくなってきたからな」
そう言って、グレイと呼ばれた人相の悪い男は、ゴナン達の方へと来て一人一人ジロジロと見る。

「……皆、健康そうだな。それが一番だ。『代金』を払おう。事務所へ」
「ああ…」

そう言って、男達は建物へと入っていった。ゴナン達の周りには屈強な男が十数名立っている。見張りの私兵のようだ。皆の猿ぐつわと腕の拘束が解かれる。

「…おい、どういうことだ、ここは何なんだ! 俺は、簡単にできる仕事があるっていわれて来たのに、なぜ縛られる必要がある!」

猿ぐつわを外された途端、50代に見える男が、そう訴えた。私兵が両手を挙げてなだめるように話す。

「簡潔に説明しよう。ここは、ツマルタから遙か遠くにある、とある鉱山だ。お前達はここに売られてきた。しっかり働け。お前等はここから出られない」

「売られて…?」

ゴナンは呟く。人が売られる、そんなことがあるのか? 自分は、もう戻れない…?

「それはおかしいだろう! ここで働いてその分の報酬をくれれば、それでいいじゃないか。なぜこんな真似を…!」

そう叫ぶ50代の男の胸ぐらを、見張りが掴んだ。

「ここがそんなまともな場所に見えるか? お前等は耳触りの良い情報に踊らされて騙されて、攫われ、売られてきたんだ。お前等の自業自得だ」

「……!」

「ほら、見ろ。あそこで大勢働いているのも、お前等と同じように売られてきた連中だ。皆ちゃんと真面目に働いているだろう。ここにいれば、きちんと食事は出す。外からは完全に隔離しているが、借金から逃げまわっているような輩にとっては、都合がいい場所なんじゃないのか?」

「……そうだな…」

ゴナンの隣にいた、中年の男はうつむいてそう呟いた。

「…借金取りもこの中には来られないってことだろう? 俺にとっては、外の方が身の危険を感じる。願ったり叶ったりだ。金はもらえなくても、俺はずっと、ここでいい…」

「他の連中も似たようなもんだろう。諦めてとっとと働け」

私兵がニヤリと笑ってゴナン達に声を掛ける。他の男は戸惑い、顔を見合わせているが、最初に声をあげた50代の男は、きっと顔を上げると、門とは逆の方に走り始めた。

「…おい!」
「周りが岩山ならどこかを超えれば逃げられる! 俺はゴメンだ!」

そう叫びながら、遠くの岩山を目指し走り始めた男。しかし、すぐに私兵が3名ほど追いつく。そのまま引き倒し、よってたかって殴り、蹴る。その壮絶さに、ゴナンは思わず目を背けた。

少しの時間、ゴキ、ボコ、と鈍い音をさせた後…。

「……すまん。動かなくなった」

私兵の一人が報告してくる。ちょうど、グレイ達が事務所から出てきたところだった。

「……仕方ねえな、あっちに埋めとけ」
「……!」

ゴナンの顔は真っ青になった。他の男達もひっ、とうめく。さっきまで叫んで、走っていた人が、こんなにあっさりと…。

「…ちっ。一人分報酬が減ったじゃねえか…」
「うちの兵がやり過ぎたんだ、ここは大目に見るよ」

グレイがニヤリと笑い、そして残された男達に大声で伝えた。

「逃げたらどうなるか分かったな! さあ、働け、一生な。あっちで作業を教えてもらうんだ!」

その号令に、他の男達は震えながらと、指された方向へと歩き始めた。



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