連載小説「オボステルラ」 【第五章 巨きなものの声】 5話「訪問者」(9)
5話「訪問者」(9)
「…巨大樹…、エルダーリンド……?」
ゴナンはそう、繰り返す。
「ええ、そうよ。有名な観光地だものね。流石に行ったことはあったかな?」
「エ…、エルダーリンドは……、ここから近い…、んですか? ていうか、ここは、ア王国内ですか…?」
「……?」
急にゴナンが大きな声で質問し、驚いた様子のイライザ。ゴナンはバタバタと小屋から遺跡の資料の束を持ち出し、地図を取り出す。
「……あの…、今、俺、どの辺りにいるんです…、か……?」
「え? 自分の場所も分からないのに、こんな所でお迎えを待ってたの?」
イライザはさらに不思議そうにしつつも、地図を見て、何ヵ所かを指さす。
「ここが、エルダーリンドね。で、今、私たちがいるのが、この辺りかな? かなり広域な地図だから、大体だけど…」
「……!」
ウキの街からずっと真東の位置にあるエルダーリンド。今いる森は、エルダーリンドから少し南西の位置にある。
(……ア王国って、かなり広い国なんだな…)
巨大鳥に乗って相当な距離を移動したと思っていたのに、王国全体の横距離で三分の一も動いていなかった。こんなに広いのに、この細い煙2本で仲間達に気付いてもらおうだなんて、限りなく難しいことだと思い知らされる。
(…エルダーリンド……、リカルドが、巨大樹のことを確かめたいって、言ってた、場所……)
「あ、あの……!」
ゴナンはイライザの瞳をまっすぐ見て、依頼する。
「……あの、やっぱり…、連れていってもらえますか…? エルダーリンドに……、行きたい、です…。代わりに、ちゃんと、働くので……」
「ええ、いいわよ。通り道だしね。働くだなんて、そんなこと気にしないでいいわよ」
そう、ホッとした表情になるイライザ。ゴナンも安堵したが、しかしすぐにまた、あることに気付いて、3人から少し離れた。
「…あら? どうしたの?」
「……あ、あの…。俺……、前に、人攫いに騙されたことがあって…。うまい話には気をつけろって、兄ちゃ…、兄貴に、言われてたのに…。それに、悪い女にも、気をつけろって……」
「……!」
警戒心むき出しでそう言うゴナンに、3人は顔を見合わせた。そしてイライザはニヤリと笑うと、ゴナンの二の腕をガッと掴んで森の中へと引きずり歩く。
「……えっ? やっぱり…!」
「いいから、来なって」
そう言うイライザに何となくあがらえず歩くこと約10分。2人は老人の家についた。
「……?」
イライザはノックもせずに、ゴナンもろとも老人の家に入る。老人は今日も、ろくろの前だ。
「ねえ、クソじじい! この子が私のことを人攫いの悪い女じゃないかって疑ってるんだけど、私が誰だか説明してくれる?」
老人に負けないほどの大きな声で老人にそう叫ぶイライザ。その乱暴な物言いにゴナンはギョッとする。老人は苦々しい顔で、叫び返した。
「……うるせえ! クソ孫! とっとと荷造りしやがれ!」
そう言って、ゴナンを見てフン、と息を吐き、またろくろに向かってブツブツとつぶやき始める。
「……ま、孫……?」
「そ、このクソじじいのクソ孫なの、私。クソじじいだけど創る器は高値で売れるからね。たまにこうやって、仕入れに来てるってわけ」
「……」
敷地内には荷馬車が止まっており、家の外で男性がもう1人、器の梱包作業を行っている。さらに、他にも護衛らしき男達もいるようだ。
ゴナンは驚いた表情でイライザを見た。確かに瞳の色は老人と同じ金色で、顔立ちも少し似ている気がする。何より、さっきの口の悪さが、そっくりだ。
「……30年前に亡くなった、っていう息子さん……の、娘さん……?」
「ああ、そうだよ。へえ、そんな込み入った話まで聞いてるの? だったら、わざわざ私に言わずに自分で保護すればいいじゃない、クソじじい」
「うるせえ! そんな野生児、いても邪魔だ!」
その2人の様子を見て、ゴナンは少しホッとしたような気持ちになる。てっきり老人が、巨大鳥のもたらした不幸のせいで天涯孤独になってしまったと思っていたから、他人事ながら孫が残されていることが嬉しかったのだ。
「てめえも邪魔だ! 用が済んだらとっとと出て行きやがれ」
「はいはい。いつもすぐ追い出されますからね、クソじじい。父ちゃんが死んだ後、母ちゃんと2人、この家を追ん出されたんだよ。まあ、母ちゃんはクソ舅と離れられて、よかったかもだけどね」
そう、苦笑いしながらゴナンに教えるイライザ。ゴナンにはその理由がすぐにわかった。
(……イライザさんをあまりここに居させないのは、多分、巨大鳥に会わせないためだ…。巨大鳥の不幸が、お孫さんにまで、いかないように…)
「食糧の補充は奥に置いておくからね」と叫びながら、追いついてきた男性2人に食糧の搬入を依頼するイライザ。こうやって定期的に様子を見に来ているようだ。ゴナンは老人にペコリと頭を下げる。
「……あ、あの…。俺、イライザさん…、と、行きます。いろいろありがとうございました…。毛皮と小鍋を返すので、取ってきます…」
「うるせえ! 俺は何もしてねえ! それにあれはゴミだと言っただろうが! 捨てたものを戻すんじゃねえ! もったいない小僧!」
そう叫ぶ老人に「あれ、あの毛皮、ずっと使ってたお気に入りじゃなかったっけ?」とニヤリとするイライザ。老人はさらに「うるせえ!」と叫ぶ。ゴナンはもう一度、頭を下げる。
「…ありがとうございました…。おじいさん、お元気で。あの……、いつまでも、怒ってて、ください…」
「はあ? なんだ、それは!」
ゴナンの言葉足らずな励ましに、また叫ぶ老人。イライザはゴナンの物言いがおかしくて大笑いをしている。

そうして、この森の泉に来てから約1ヵ月。ゴナンはついにこの地を離れることになった。向かうは巨大樹の街・エルダーリンドである。
↓次の話↓
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