連載小説「オボステルラ」 【第三章】18話「彼方星の向こうから」(2)
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18話 「彼方星の向こうから」(2)
大人共の策略がよくわかっていないゴナンは、ベッドに寝かされたまま、入ってきた少女に戸惑い声をかける。
「…あの……?」
「……すごくケガをしたって聞いて、心配して、お見舞いに、きました…」
「……」
娘は小声でゴナンに答えた。ゴナンは娘の顔を見て首を傾げる。少女が誰だか分かっていないようだ。その雰囲気を察したリカルドは、壁の向こうで大声でタイキに話しかけた。
「いやあ、タイキさん、わざわざ、娘さん、と一緒にっ、お見舞いに来てくれるなんてー、ありがたいなあー」
「え? ああ、とんでもないですー」
つられてタイキも大声で答えてしまう。ゴナンは耳がいい。その会話を聞いて、はっと気付く。
「あ、あの寝袋を作ってた…。ごめん、全然、雰囲気が違ってたから、気付かなくて」
「あ、……いえ……」
(ゴナン、ナイスコメント!)
リカルドは胸の中で頷く。タイキの娘は工房では作業着だったが、今日は少しオシャレをしてきているようだ。ミリアの装いとはまた雰囲気が違うが、最近流行の衆国テキスタイルが入ったワンピースを今日は着ている。そういえば寝袋を届けに来たときも、オシャレをしていた。
「……えと、名前、聞いてなかった…」
「…ユカリ、です…」
「ユカリさん…」
「……」
そのまま、無言になる二人。ゴナンもそうだが、ユカリも元々は口数が少ないタイプのようだ。会話が続かない。壁の向こうではディルムッド以外の面々が、もどかしい気持ちで身もだえしている。
「……ケガ、大丈夫ですか……?」
と、沈黙を破ってユカリが尋ねた。
「……うん。大したことないよ、大丈夫」
「……」
特に会話を膨らませるでもなく、ゴナンも簡潔に答えて、また、沈黙…。隣室の面々はまた身もだえしている。と、ゴナンが体を起こして左腕の袖をまくった。
「あ、でも。これっ、傷を縫ってさ。もう糸は取れたんだけど、傷が残っちゃうかもしれない。傷が、残るかも…!」
「……」
急に饒舌になって、少しテンション高く自身の『勲章』を見せつけている様子のゴナンに、壁の向こうでリカルドとミリアが頭を抱えている。
「ゴナン…。その話題は悪手だ…」
「ゴナンったら…。傷を自慢気に見せられても、女心には何も響かないのよ。むしろ引かれるわ…!」
ミリアのその分析通り、ユカリは少し顔をしかめてその傷を見る。
「…痛そう…。ひどい傷…、だったんですね…」
「……あ、いや…。大したことないけど……」

ユカリのその反応にゴナンは少し拍子抜けした様子で、そのまま、また無言になる。沈黙が数分間…。
「リカルドさん…。沈黙が長すぎるんじゃないだろうか。なにか、良からぬことをしていたりは…」
「…タイキさん、流石にゴナンに限ってそれはないと思いますけど」
「…、踏み込むか……」
「いや、邪魔をしないほうが……」
「何の邪魔を…?」
タイキとリカルドが、小声でそんな不毛なやり取りをしていると、壁の向こうでゴナンがようやく、沈黙を破った。
「…あの……、ユカリさんが寝袋をつくってるの、カッコよかった…」
「……!」
(おっ…!)
リカルドとタイキが扉に耳を当てる。ナイフはその様子を呆れて見つつも、耳はしっかりそばだてている。
「……あ、ありがとう…」
「…俺、何もできないから。同じくらいの年齢なのに、あんなにすごいものを作れて、すごいなって思った」
「…でも、お父さんに習ったとおりにやってるだけだから…」
「いや、すごいよ! だって、あんな、魔法みたいな寝袋…!」
またゴナンのテンションが少し上がる。タイキもニヤニヤと嬉しそうだ。
「…ありがとう…。嬉しい……」
「……だから、俺も頑張らないとなって思った。俺も、何か、何なのかは分からないけど。でも、ちゃんと、ちゃんとしないと…。でも、焦ってもダメだって、俺、分かったから……」
「……?」
(……ゴナン…)
ゴナンのその言葉に、リカルドは胸を突かれたような表情になる。
「……ゴ、ゴナン君、も、職人を目指すの? ……この街に、ずっといたり、して…」
「…いや、俺はみんなと旅をしてるから、ずっとはいないよ…」
「……あ、そうなの……」
少しガッカリした表情のユカリ。タイキも扉の向こうで、少しガッカリな表情。
「……でも、俺も負けないから……」
「……?」
「いや、職人を目指すわけじゃないけど…。俺も、何か……」
「……うん…」
ユカリは少し首を傾げながらも、そう答えた。そして、しばしの沈黙の後…。
「……あの、これ、お見舞いにならないかもしれないけど…、あげる」
そう言って袋を渡し、寝室を出てきた。面々は慌てて各自の席につくなどして平静を装う。ユカリはタイキに「お見舞い、終わった」とうつむきながら告げた。
「…では、お邪魔しました。ゴナン君、お大事に」
タイキが少しだけ複雑な表情を浮かべながら、お辞儀をして玄関へと向かう。帰り際、ユカリがぼそりと呟いた。
「……おうじ……」
(…えっ? 王女??)
その言葉が聞こえたリカルドとナイフは慌てる。ミリアが王女という話が、どこからか漏れてしまったのだろうか? しかし、ユカリは続けて呟いた。
「……王子…。私の、王子様…」
「……!」
そのまま、タイキと頬を赤らめたユカリは拠点を去って行った。リカルドとナイフは顔を見合わせる。
「…あの無愛想も、見る人が見ればクールな王子様に見えちゃうのね。隅に置けないわね、ゴナン」
「いやあ、ユカリちゃんは、見る目があるね。流石、タイキさんの娘さんだよ」
リカルドはしみじみと、少し嬉しそうにしていた。
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