見出し画像

連載小説「オボステルラ」 【第五章 巨きなものの声】  4話「老人と少年」(1)


<< 前話  ||話一覧||  次話 >>

第五章の登場人物
第五章の地名・用語


4話「老人と少年」(1)


 「…ゴホッ、ゴホッ……」

 ゴナンは激しく咳き込みながら目を覚ました。息が苦しい。しばし咳き込みながら水を吐き出し、ようやく息が落ち着くと、自分の状況を確認した。素っ裸のままで全身びしょ濡れだが、泉の縁に寝かされている。そしてその脇には…。

「…あ…」

 そこには件の老人が座っていた。苦々しい顔でゴナンを見ている。ゴナンは慌てて体を起こした。胸のあたりに圧迫されたような痛みが少し残っている。救命の措置も何かしてくれたようだ。

「…あ、助けて、くれたんですか…?」

「……」

「…あ、ありがとう、ございます…。俺、泳げなくて…」

 頭を下げるゴナンに、老人は軽く舌打ちする。

「…ったく…。俺は何をやってるんだ…」

「……」

 助けてしまったことを後悔している様子の老人に、どう話しかけて良いかが分からず黙り込むゴナン。そんな彼に、老人はギロリと燃えるような金色の瞳を向ける。

「…お前は、あの巨大鳥の飼い主か?」

「…ち、ちがいます…」

 齢80歳は超えていそうな老人だが、全身からパワーが溢れており眼光鋭い。ゴナンはその迫力にたじろぐ。しかし、また槍で攻撃されてはたまらないので、必死に説明を試みる。

「…お、俺の故郷も…、あの鳥のせいで、干ばつになって…。お、俺の妹も、死んじゃって…」

「……」

「…で、でも…、鳥を追いかけてたら…、その…、乗せられて、連れて行かれることになって…」

「……」

「…あの…。お、俺も、鳥が、憎いんです…」

 ゴナンのたどたどしい説明を無言で聞いている老人。やがて、脇に置いてある槍を手に取りすっと立ち上がる。年齢を感じさせない矍鑠かくしゃくとした動きだ。ゴナンは槍を向けられるのかとビクッと警戒したが、老人はそのまま、ゴナンを一瞥した後、無言でその場を立ち去った。

 どうやら、助かったようだ。

(…怖かった…。やっと人に会えたのに、あんな怖いおじいさんだなんて…。…でも、溺れてたのを助けてくれた…、けど…)

 ほう、と安堵の息をつくゴナン。そして、未だ一糸まとわぬ裸のままだった自分の姿に気づき、顔を赤らめ、慌てて土汚れを落とすためにまた泉へと入った。深みに入らないように気をつけつつ。

「…まあ、誰もいないから、裸で過ごしたって同じだけど…」

 そう口にして、ゴナンは先ほどまで鳥が毛繕いをしていた場所を見遣った。そこには、大きな巨大鳥の羽が2枚、落ちている。ゴナンはゆっくりに、その羽を手に取った。果たして、巨大鳥は戻ってくるだろうか? 1人取り残されてしまったゴナンは、これからどう動くべきか全く分からず、ただ呆然とするばかりだった。


*  *  *

 服を着て、改めて今の自分の状況を整理するゴナン。今自分がどこにいるのか、ア王国内にいるのかすら分からない状況で歩き回るのは危ない気がする。ひとまず、巨大鳥が戻ってくる可能性を見て、今いる場所を無闇に動かないことに決めた。

(…何度か同じ水場を周回することもあったし…。ミリアもそう言ってた…。もしかしたらすぐ、戻ってきてくれるかもしれないし…)

 日が暮れてきた。ひとまず、ここで夜を越せるようにと準備を始める。もう狩りをする時間はないが、周りを見回して、食べられる実がなった木がいくつか見えるのを確認する。お腹を満たすことはできそうだ。

(…俺も魚釣りを覚えれば、もっと食べ物探しが楽になるかな)

 北の村の泉や川にも魚はおり、他の村人も獲っていたが、魚釣りはアドルフの担当でゴナンは獲ったことはなかった。今度、試しに釣りのまねごとでもやってみようかなと思いながら、焚き火用の落ち枝をあつめ、野草や実を採集する。

 焚き火の上に薄い石を置いて熱し、野草を焼く。リカルドが好物だと言っていたユリーネの茎もあった。太い茎はホクホクしていて、少し甘みがある。調味料がなくとも、滋味がゴナンの舌を満足させた。コブルの実もたくさん頬張って水をゴクゴクと飲むと、腹が満たされた。そうしている内に、周囲はすっかり夜。ゴナンは焚き火の横でゴロンと横になり、天に瞬く彼方星を見つめる。

「…俺、何してるんだろ…」

 虫の鳴く声は聞こえるが、しんと静かだ。大地に身を委ねていると、まるで自分がどこにもいないかのような気持ちになる。ただ、ギラギラと光る彼方星の赤い光だけが、ゴナンの心をとげとげしく刺激し、自己の存在を思い出させてくれた。

「…鳥が戻ってこなかったら、どうしよう…」

 ゴナンはそう、不安を口にする。何かしゃべらないと、言葉を発するということを忘れてしまいそうだ。そのまま、不安とも哀しみとも焦りともとれない、どうしようもない感情を持て余しながらも、そのままゴナンは眠りに入っていった。

*  *  *

 翌朝、朝日が昇るのと同時に目を覚ますゴナン。

(…巨大鳥が一緒にいたときほどは、よく眠れなかったな…)

 あの鳥に包まれると、今いる場所を忘れそうな程に、おそろしく深く、そして長い時間、熟睡していたように思う。野生動物なども警戒すべき環境だが、巨大鳥がいるときは守られている安心感もあった。巨大鳥の寝床を恋しがっている自分の心に気づき、ゴナンは首を横に振る。

「…鳥はもう、戻ってこないのかな…」

 泉で顔を洗い、ぐっと背伸びをするゴナン。汗で汚れないようにとベストとズボンを脱いで下着姿で剣を手にし、鍛錬を始めた。ひとまず、いつものルーティンを行わないと、本当に自分を見失ってしまいそうだからだ。鍛錬が終わると、またコブルの実をちぎってたくさん食べる。

 食後、ゴナンは自分の持ち物を全て出して、並べてみた。剣、ナイフ、弓矢、火打ち棒、ハンカチなど万能に使える大きな布が2枚に、小傷用の軟膏…。

「…火打ち棒を俺が持っていたのもよかったし、剣も弓矢も身に付けた状態だったのも、運が良かったな…」

 ゴナンはそう呟く。この泉のほとりは食べ物も多く、不思議と「滞在しやすい雰囲気」だ。これだけの道具があれば、巨大鳥を待って何日でも過ごすことができそうだ。

「…大丈夫……。よし…。頑張ろう…」

 ゴナンは自分を奮起させるように、そう呟いた。


↓次の話↓



#小説
#オリジナル小説
#ファンタジー小説
#いつか見た夢
#いつか夢見た物語
#連載小説
#長編小説
#長編連載小説
#オボステルラ
#イラスト
#私の作品紹介
#眠れない夜に


いいなと思ったら応援しよう!