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連載小説「オボステルラ」 【第五章 巨きなものの声】  9話「不自然な自然」(2)


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9話「不自然な自然」(2)


「見つけた」

「えっ?」

 エレーネの目線の先を見ると、日用品店で店主と何やら揉めている黒髪の長身男性の姿があった。店主が対抗して熱弁している。

「……だから! 熱冷ましの薬を全部買い占められてしまうと、困ってしまうんだ! この街に薬師はいないし、急病になった観光客の方が買えなくなるだろう」

「それはおかしい。ここまで大きな観光地で商売をしているのに、そんなに流通体制が脆弱なはずがない。すぐに発注をかければ大丈夫なはずだ。だいたいこの街の規模で薬師が居ないのもどうかと思うし、医者はいるんだから彼らに対応させればいいじゃないか。こちらには、今まさに熱で苦しんでいる子がいるんだ。まずはその子を助けるべきだ」

「薬を売らないとは言っていない。あんたが在庫を全部、買い占めようとしていることを断っているんだ!」

「……」

 日用品店の中にある薬を巡って店主と言い争っているリカルドの姿を見て、呆れる4人。しかし、ミリアは気付く。

「……熱で苦しんでいる子って…、もしかして、ゴナンが一緒なのではないかしら」

「……そうね。薬を買い占めようとかアホな行動を取っているのを見ると、それ以外考えられないわね」

 そう答えて、ナイフはお店にズカズカと入り、リカルドの首根っこを掴んだ。

「リカルド、いい加減になさい!」

「……邪魔をしないでくれ……。……あっ、ナイフちゃん……」

 驚くリカルド。そしてナイフにすがるように訴えかける。

「ナイフちゃん……! 僕が、『あれ』を見て、でも、見えてなくて、倒れて、僕を引きずって、ウサギを獲りにいったら、無理がたたって、多分、またぶり返して…。治りかけは危ないっていったのに……。だから、薬を、たくさん」

「はあ、何を言ってるの?」

 よく分からないが、ゴナンがいるのは間違いなさそうだ。ナイフは日用品店の主人に詫びの礼をすると、リカルドの首根っこを掴んで店の外へと引きずり出した。ミリア、エレーネ、ディルムッドに囲まれるリカルド。

「……みんな…」

「あら、お久しぶりね、リカルド」

エレーネが嫌味を言う。ぐっと言葉に詰まるリカルド。

「マリアーナさんがゴナン用に薬をたくさん処方してくれているから、薬は買わなくても大丈夫よ。先に飛び出したあなたは知らなかったでしょうけどね? リカルド」

「あ、ああ……」

 少し気まずそうな表情になるリカルドに、ナイフは淡々と答える。そして…。

「歯を食いしばりなさい」

「……!」

ーーバキッ、バキッ!

「きゃっ!」

 ナイフが振りかぶった後、左右の拳でリカルドの顔を容赦なく打った。ドサリ、と尻餅をつくリカルド。ミリアが思わず驚いて声を上げ、ディルムッドはその痛そうな様子に顔をしかめる。その様子を見ていた日用品の店主が「おい、そこまでしなくても……。うちは大丈夫だから……」とハラハラしている。



「……いた…」

「リカルド。なぜ打たれたかは分かっているわね?」

「……う…。覚悟はしていたけど、まさか鉄拳で来るとは……。しかも、2発…」

「そもそも、結局ここで合流できたのだから、あなたの愚かな行いが何の意味もなかったということを、理解しなさい」

「……」

 体術を扱う熟練の戦士が拳で全力で打ったのだ、リカルドの顔は少し歪んで見え、血が口の中から溢れ出てきている。

(どうせすぐ治るからって、ひどい……)

 リカルドはそう目で訴えかけるが、ナイフは気付かないふりをする。と…。

ペチッ。

 さらに、座り込んだままのリカルドの頬を打った、ささやかな何かがあった。

(……3発目…)

「リカルド、ひどいわ」

 跪いてリカルドの頬を叩いたミリア。同じ目線でじっと睨んでいる。例によってビンタはなでられた程度の力ではあるが、その目力の強さにリカルドは圧される。

「……ごめんなさい…」

「……わかっているのなら、いいわ」

 殊勝に謝るリカルドの姿に、エレーネとディルムッドは顔を見合わせて笑った。

「……では、同じくぞんざいに扱われた我らも1発ずつ……」

「そうね。私は蹴りがいいわ。リカルド、お尻を出して」

「ま、待って…! エレーネの蹴りはもう十分だし、ショーン家歴代最強の騎士にやられたら、もう、とんでもないことになるから」

 流石のリカルドもたじろいだ。






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