連載小説「オボステルラ」 【第四章 狼煙の先に】 8話「狼煙を上げる」(2)
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8話 「狼煙を上げる」(2)
と、ここでリカルドはふと、思いついた。
「そういえばゴナン。誕生日って、いつ?」
「誕生日?」
訊かれてゴナンは、首をひねる。
「自分が生まれた日のことだよ。大抵、みんな知っているものだけど…」
「そうなの? 俺、知らない」
「えっ」
驚くリカルド。
「じゃあ、年齢はどうやって数えているの?」
「年の初めに、みんな一斉に一つ歳を取る」
「ああ、なるほど…」
そういえば、あの村は暦もしっかりと数えている風ではなかった。季節や年単位で暦を把握しているのだろう。
「…でも、もしかしたらご家族は知っているかもしれないから、手紙でアドルフさんに尋ねてみても良い? お父さんのことと一緒に」
「うん」
(…そうか、どういう数え方になっているかはわからないけど、もしかしたらゴナンはすでに16歳になってる可能性もあるのか…)
ゴナンが生まれたのがあの村の中か外かは分からないが、アドルフはゴナンの誕生日を知っているような気がするし、あの家族だけは日付をきちんと把握しているように思えた。
「誕生日はね、この世界に生まれてきておめでとうって、お祝いをするものなんだよ。地域によってお祝いの仕方は違うけど、ケーキを食べたり、大きなお肉を焼いたり、大きな花束を贈ったり」
「へえ…」
生まれた日を祝う、という感覚がゴナンには掴みづらいようだ。リカルドはゴナンにニッコリ笑いかける。
「ゴナンの誕生日が分かったら、16歳のお祝いはめいっぱいしたいなあ。どんなお祝いにしようかな…。そうだ、全部やっちゃおう。大きなケーキを焼いてもらって、大きな肉を焼いて、ご馳走もたくさん準備して、お花をいっぱい敷き詰めて…。プレゼントも、何でも買ってあげるよ。何が良いかな? ああ、いつでも牛乳を飲めるように、大きな乳牛を買っちゃおうか」
「俺のためにそんなこと、しなくてもいいよ。今までもお祝いなんてしていないんだし、食べきれないともったいないよ…」
例によって欲のないゴナン。リカルドはふふ、と笑う。
「そうだ、僕ね、デイツの森という所に拠点を一つ持っているんだけど、そこには温泉が付いているんだ。屋外にね」
「温泉…、て、何?」
「自然にお湯が湧いていてね、そこに体を浸せるんだよ。普通のお湯よりも、体の疲れを癒やせたり、ケガの治りが早くなったりするんだって。まあ、僕にはその効能は必要ないけどね。でも、気持ちいいんだよ」
「ふうん…?」
「その拠点でお祝いしたいな。そうだ、あの家を花で埋め尽くそう…!」
ここでナイフがいれば、「それは研究拠点じゃなくて別荘というのよ」とか「それは付き合い始めの彼女にすることよ」などとツッコんでくれるのだが、ゴナンにはよく分からない。
「別にいいのに…」
「僕がそうしたいんだよ。お祝いしたいっていうのもあるけど、ゴナンに、生まれてきてくれてありがとう、みたいな?」
「ありがとう?」
「うん、そう」
ふうん、と首を傾げながら呟くゴナン。そして、何かに気付いてリカルドに尋ねる。
「…じゃあさ、リカルドの誕生日はいつ? その日もお祝いしないと」
「……!」
ハッとゴナンを見るリカルド。そして、フッと薄い微笑みを浮かべる。
「…僕こそ、お祝いなんていいんだよ。僕の場合は本当に、おめでたくもなんともないんだからね」
「……」
リカルドにとって誕生日は、『その日』へのカウントダウンが着実に進んでいることを思い知らされる日だ。ユーの民がもたらす幸福を待ち望む者にとっては、祝いたい日かもしれないが…。
「…でも…」
ゴナンが、呟くように続ける。
「でも、『ありがとう』っていう意味もあるんなら、俺も…」
「……!」
リカルドは、少しだけ言葉に迷い、しかし何も言わず微笑みだけで応えた。そのまま無言になる。
夜も更け、外気が冷えてきた。くしゅんとリカルドがくしゃみをする。それを見て、ゴナンは慌てて自分にかけられていたブランケットをリカルドにかける。
「僕は大丈夫だってば。ゴナンがかぶってなよ」
「でも…」
「…そうだ、こうしよう」
そう言ってリカルドはブランケットを広げて肩を寄せ、2人でくるまる形になる。
(ふふ、あったかい…)
ゴナンの温もりを感じられるのがなんだか嬉しくて、リカルドはニコニコ顔になった。
「…ああ、そうそう。ウキについてもうすぐ半月になるから、そろそろ巨大鳥探しに動き始めようと思うんだ。大体のエリアは絞れてきたから、明日計画を立てて、早ければ明後日から…」
「うん」
「ちょっと広域になりそうだから、皆で手分けして回る必要がありそうだなあ。もしかしたら、屋敷には戻らずに現地で野営しながら回る方が効率的かもしれないね」
「屋敷に戻らず…」
ゴナンはその言葉に、少し表情を動かした。リカルドはその変化にハッと気付く。
「…ゴナンは、こっちに着いてこずに、屋敷で過ごして学校に参加していてもいいんだよ」
「…えっ、俺も鳥を探すよ。そりゃあ、俺じゃ何の役にも立たないかもしれないけど…」
哀しそうな色を瞳に宿したゴナンに、リカルドは慌てて答える。
「いや、そういう意味じゃないんだ。君の目の良さや勘の鋭さは、かなり頼りにしているんだからね。…まあ、野営はどうしても疲れるし、ちゃんと街には戻ってこようかな。ミリアの話だと、巨大鳥は夜は動かないらしいから」
「うん…」
ゴナンは少しホッとした表情でうつむく。リカルドはまた、考えていた。
(…ゴナン。でもやっぱり、この街で、先生の元で暮らす方が、きっと君の人生にとっては…)
そこまで思考を進めて、そして止める。リカルドはどうしてもどうしても、その先を考えたくなかった。無言でじっと思い浮かべたことを振り切るリカルド。そのまま彼方星を見上げる。あの星を見ていると、脳内がボンヤリとして思考が落ち着く気がする。
ゴナンもずっと無言で静かだと思ったら、ウトウトと頭を揺らし始め、じきにスヤスヤと寝息を立て、頭をリカルドの方にもたれさせてきた。
「…ふふ、寝ちゃった。かわいいなあ」
そう呟くリカルド。
(「生まれてきてくれて、ありがとう」か…)
優しく微笑みながらゴナンの寝顔をじっと見守っていた。
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「…だから、どうしてそうなるのよ…」
数十分後、庭でナイフはため息交じりに呟いていた。目の前では、一つのブランケットにくるまったゴナンとリカルドが、木に寄りかかり身を寄せ合ってスヤスヤと寝ている。
「ふっ、もう『氷っ子』なんてあだ名はそぐわねえかな。こいつのこんな光景が見られるなんて、夢にも思わなかったぜ」
ナイフの横でジョージもニコリと笑いながら呟く。
「…それにしても、度が過ぎる気はするがな…」
「まったくよ、先生」
そう言ってナイフは、リカルドの頭をペチッとはたいた。
「ほら、リカルド。ちゃんと部屋で寝るわよ。ゴナンが風邪引いちゃうでしょ、ゴナンが!」

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