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連載小説「オボステルラ」 【第四章 狼煙の先に】  17話「巨大鳥」(2)


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17話「巨大鳥」(2)


  と、その時、マリアーナがディルムッドを呼びに来た。

「ディルさん。あなたにお客様よ。シュナイダーさんという御方」

「…ゲオルク殿が?」

「中にお通ししようとしたけれど、挨拶に来ただけだからって」

 ディルムッドは玄関の方へと赴く。そこには、旅支度に身を包んだゲオルクが立っていた。

「やあ、ディルムッド殿。これから街を出立することにしたので、最後に挨拶に来た」

「ゲオルク殿。かたじけない。次はどこへ?」

「そうだな…。実はしっかりとは決めていないのだが…。ア王国内を回ることは間違いないだろう。通りすがりの人から情報収集でもしながら、よさげなところを回るよ」

「そうか。我らも旅の中途ゆえ、この広い国内とはいえ、また会うこともあるかもしれないな。よい旅を」

 そう微笑み、ゲオルクと握手をするディルムッド。と、他の面々も玄関へと見送りにやって来た。ミリアはいつの間にか伊達メガネをきちんとかけて、少し高飛車な貴族然とした雰囲気を出しているエレーネに付き従うようなていで歩いてきている。演技は完璧である。

「昨日、祭が終わったばかりなのに、もう出発するの? 気をつけてね。あなたなら大抵のことは大丈夫でしょうけど」

「ああ、ありがとう、ナイフちゃん。その言葉はそっくり返すよ」

 そうナイフに笑って、そしてエレーネに頭を下げるゲオルク。

「…またいずこかで、お会いすることもあるかもしれませんが」

「ええ、お気を付けて」

「あなたも。…『普通の』ミリアさんも、…お元気で」

 エレーネに隠れるように立っているミリアにも、ゲオルクは声を掛ける。ミリアはすっと横に出てお辞儀をした。

「ゲオルク様もお元気で。よい旅を」

「…ふふ。美しいお辞儀ですね」

(完璧なア王国式の…)

 そうしてゲオルクは、見送りに来てくれた一行を見回す。

(…王女とその騎士。2人を従えている風の美しい貴婦人、麗しいミラニアの戦士、うさん臭い旅の学者、素朴な村の少年…。改めて見ると、妙な組合せだ…。なぜ、彼らは一緒にいるのか。旅、とは何の旅だ? ただの観光にも、視察にも見えないが…)

「ゲオルク殿?」

「…あ、ああ、失礼。では。ゴナンくん、鍛錬に励めよ。リカルド殿も、お元気で」

「ありがとう、ございます…」

「あなたもお元気で、良い旅を」

 そうして爽やかな笑顔を残し、玄関を出る。外まで見送りに出たディルムッドは、最後にハッと思いつき、尋ねた。

「…そういえば…。ゲオルク殿。貴殿は『銃』という武器は、ご存じか?」

「『銃』?」

 このとき初めて、ゲオルクがその表情に少しの動揺を見せた。しかし、その揺らぎはディルムッドでなければ気付かないほどごく僅かもので、すぐにそれまでと変わらない笑顔を浮かべる。

「……、なぜ?」

「…そういうものがあるという噂を聞いたのだが、我が国では見たことがないため、ご存じではないかと」

「いや…、私は知らないな」

「そうか…。他愛もない質問だ。失礼した」



 ディルムッドはそういって頭を下げ、門扉から出ていくゲオルクを見送った。そのまま、腕を組み思案しながら屋敷へと戻っていく。

「? どうしたの? ディル」

「ああ、ナイフ。いや、ゲオルク殿も存外、態度に出やすい正直な人間なのだと思ってな。あの様子だと、鳥や卵や、あの連中と関わりないというのは本当のようだ」

「そうなの?」

(…そして、恐らく彼は『銃』のことは知っている。『銃とは何か?』ではなく『なぜ?』と聞いてきた…)

 犯人を引きずり軍へと引き渡した直後にディルムッドは城を出てしまったから、犯人が所持していた銃の出所が分かっているのかどうかは把握していない。しかし帝国は、あの仕組みがよくわからない写真機を作る技術も抱える国だ。もし、帝国によって作られた武器だとしたら…。

「ディル。もうこの伊達メガネはかける必要はないかしら。マリアーナさんが、これをわたくしにくださるとおっしゃっているのだけど…」

 と、ミリアが尋ねてくる。ディルムッドはじっと、その兄によく似た顔を見た。

「ディル?」

「…いえ…。今後も、王城に来たことがある者と会う可能性もあり得ます。ルチカのように、ミリア様のお顔を見たことがある者もいるかもしれませんので、ありがたくいただいておきましょう」

「ええ、そうね。いつだってメガネの普通のミリアになることができるわ」

 そう、なぜか少し楽しそうにしながら部屋へ戻ろうとするミリアを、ゴナンが「ミリア、今から左手の手当て、しよう」と呼んでいる。伏し目がちに頷くミリア。ディルムッドは険しい表情で、そんな王女の後ろ姿を眺めていた。

*  *  *

 「さて、そろそろ出発しようか?」

 リカルドが皆にそう、声をかけた。祭の疲れも残っているから探索は休みにする予定だったが、昨日、巨大鳥を見たことが気にかかり、リカルド1人で向かおうとした。すると、ゴナンとミリアが「自分も行く!」と言い張り、そうなると他の大人達も出ざるを得ないため、結局、全員参加。いつもよりは遅めの出発だ。

 見送りに来たジョージに、ゴナンがモジモジと話しかける。

「…あの、先生…。今日、戻ってきたら、昨日教えてもらった上昇気流とか空に浮かぶ風船のこと、もっと勉強したいです…」

「ああ、もちろんだぜ。書物もいくつかピックアップしておくよ。しかし、エドが夕方に遊びに来ると言ってなかったか?」

「あ、そうだった…。一緒に勉強…、は、あいつは、しないか…」

「よく分かってるじゃねえか」

 そう笑って、ゴナンの頭をクシャッとかき混ぜる。そして、その様子を切ない表情で見つめるリカルドに目配せをした。今日、きちんと話すんだぞ、と。

 リカルドは神妙な表情で頷いた。



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