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連載小説「オボステルラ」 【第三章】14話「ふたたびの遭遇」(1)


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第三章の登場人物



14話 「ふたたびの遭遇」(1)


 泣き濡れ落ち込んだミリアを連れて、エレーネは宿へと戻っていった。ナイフは何となく拠点に残り、先ほどのディルムッドの話を反芻している。夕暮れが近づき、窓の外の日差しが紅くなってきていた。

「…なんだか、とんでもない話を聞いてしまったわね…」

「そうだね、もう、とても抱えきれないよ。困ったなあ」

リカルドもデスクに座ってボーッとしている。ナイフは持て余し、ゴナンの様子を覗きに寝室へと移動した。

「あら、ゴナン、起きてたの?」

「…あ、ナイフちゃん、うん…。ゴホッ、ゴホッ…」

そのナイフの言葉に、リカルドも様子を見に来る。ゴナンの表情は暗い。

「…ディルの話、聞いてた?」

「ディル?」

「あ、ディルムッドのことよ。ドズさん。ディルって呼ぶことになったの」

「……うん、途中からだけど、大体、聞こえてた…」

ナイフはベッドサイドに腰掛け、ゴナンの額に手を当てる。まだまだ熱は高い。

「ディルは、またお見舞いに来るそうだよ」

リカルドもベッドサイドに来て、ゴナンの汗を拭く。

「ディルはどこに泊まっているの?」

「警察署の牢の中に泊まらせてもらってるって」

「はあ?」

ナイフが呆れ顔で叫ぶ。「泊まらせてもらっている」というからには、捕まっているわけではなさそうだが…。彼は署内では身を明かしているのだろうか?

「ひとまず、鉱山の調査への協力と、あとはルチカを捕らえたいって言ってた」

「ヒマワリちゃんを? そう…」

少し複雑そうな面持ちになるナイフ。なぜかこちらに敵意を出してくるが、もとは自分の店にいた『家族』だ。ナイフにとっては、身内が捕まるかのような心持ちになってしまう。

「…でも、あの子がもし排水溝の殺人鬼だったりしたら、どうしようもないものね」

「殺人鬼?」

そう尋ねるゴナンに、今、この街の排水溝で他殺体が度々見つかっていることを教えるリカルド。その話を聞き、ゴナンは少し不可解そうな顔をする。

「…ゴナン?」

「ルチカ、あいつ、体は細いのにすごい強いし、なんか『本気』な感じの奴だけど、殺人鬼ではない気はするけど…。口では、人の命なんて、とか言ってたけどさ」

「……?」

「あいつの使ってる武器って、人を傷つけようとしているものじゃ、ない気がするし…」

「……」

リカルドはナイフと目を合わせる。確かに、伸びる棒や空気圧を飛ばす機械など、ギミックの特異さに注目してしまってはいたが、基本的にはどちらも痛いだけで、人の命を奪えるようなものではない。ディルムッドも指摘していた。ただ、それでも使いようによっては、ではあるが。

武器職人作の弓を手にしたときのことを思い出して、リカルドはゴナンに尋ねた。

「……彼の武器は、『怖くない』?」

「…うん……」

「そうか…」

そう聞いて、リカルドは腕を組み少し考える。しかし、ナイフは違うことを感じていた。

「…あの子の武器はそうでも、やっぱりあの殺気はただ事じゃないわよ。きっと、やるときはやる子よ」

「……」

「ま、そのあたりはディルに任せましょ。またこちらに立ち向かってきたら、対応するだけよ」

ナイフはぐっと拳を握り、少しだけ殺気を放った。リカルドはゾッとする。ゴナンはまだ、物憂げな表情だ。

「ミリア…。哀しいことがあったんだな…。お兄さんと、その影武者さんと…。一度にお兄さんを二人、亡くしたようなものだね……」

「そうね…」

ナイフはゴナンの柔らかい金髪を優しく撫でる。

「…ミリア…。なんでか、自分のせいだって思ってる」

「そうね…。そんなことはないと思うのだけれどね。でも、ミリアの周りでこれまで、あまりにも多くの不幸なことが起こってきてしまっているのでしょうね」

「……ドズさんも……」

「……そうね…。皆、とても責任感が強いのね。ああいう人たちによって、この国は統べられ守られてきているのね」

「……」

ゴナンの目がボンヤリとしてきている。ナイフはさらに、寝かしつけるようにゴナンの頭を撫で続ける。

「ほおら、ひとまずしっかり眠りなさい。まずは治してから、それからいろいろ考えましょ。知恵熱がよけいに出ちゃうわよ」

「うん…、ゴホッ……」

ナイフに頭を撫でられるのが心地いいのか、ゴナンはすぐに眠りについていった。リカルドはその様子を微笑んで見る。




「ふふっ、もう寝ちゃった。かわいいなあ。今度、子守唄でも歌ってあげようかな」

「……」

ナイフは呆れたようにリカルドを見遣った。

「何?」

「いえ、調子が戻ってきたようで良かったわ。私は今夜は飲み屋街に行ってくるわね。ゴナンも戻ってきたし、少しくらい息抜きしたって構わないわよね? 卵男の噂も集めたいし」

「ああ、もちろん」

「帰りが遅くても心配しないでね、大きなお坊ちゃま」

ナイフはニッコリ笑って部屋を出て行く。リカルドはベッドサイドに置いてある椅子に座り、スヤスヤと眠るゴナンの顔を、またずっと眺めていた。


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