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連載小説「オボステルラ」 【第五章 巨きなものの声】  13話「うごめく、何か」(7)


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13話「うごめく、何か」(7)


 ディルムッドは、エルダーリンドの駐屯軍拠点へと向かっている。と、目線の先に見覚えのある人姿が見えたような気がした。ディルムッドとは反対方向に立ち去っていく。

(……! ルチカ……?)

 拠点から出てきたようにも見えたが、ハッキリとは分からなかった。ひとまず、そのまま中へと入るディルムッド。

「邪魔する。昨日の帝国軍人の連中の件を聞きに来た」

 入ると、その場にいた兵達が皆、ビッと気をつけをし、敬礼する。ディルムッドは手でそれをとどめた。

「私は騎士団も家も出ているのだ、礼は不要だ」

「は、しかし……」

 その場にいる上長が、戸惑ったように答える。アーロンの件を知らない彼らには「心の休養を必要としたため、騎士団を抜け家からも出た」と説明している。あの戦を経験した者なら珍しいことでもないが、それでもディルムッドがそうであることが、皆、信じられない様子ではある。

「奴等は牢に捕らえています。ひとまず、そのリカルド殿を傷つけた罪で、警察とも話していますが…」

「警察に引き渡す必要はない。軍で対処してほしい」

 そう依頼するディルムッド。それはつまり、『何らかの方法』で情報を引き出してほしい、ということを示している。

「はっ。それで、どのようなことを…」

「……奴等は皆、帝国の辺境地シュートリトの軍人らしい。『巨大鳥の卵を探している』という荒唐無稽な理由で、我が国で暴挙を働いている一味のメンバーだ。その本当の目的を知りたい。そしてできれば、それを指示しているのが誰なのかを…」

「……!」

 隣国に関わる内容だ。上長の表情が引き締まる。

「……我らの手に負えない場合は、シャールメールの軍支部へと委ねても、構わないでしょうか?」

「ああ。あちらには『専門』の者もいるから、間違いないかもしれないな。判断は任せる。私もこれから、ローゼンフォードへいとこのエイリスを訪ねた後、シャールメールへと向かう予定だ。もし何か分かったら、そのいずれかへ伝書鳩を頼む」

「ローゼンフォードへ…」

 上長がまた、深刻そうな表情になる。ディルムッドは安心させるように微笑んだ後、話題を変えた。

「そういえば、先ほど、銀髪の機械士がここを訪れていなかったか?」

「ええ、来ておりました。ルチカ・ロス氏ですね」

 駐屯兵もルチカを男性だと思っているようだ。特に修正する義理もないので、そのまま話を続ける。

「何かの修理に来ていたのだろうか?」

「あ、いえ……」

 そうして口ごもる上長。ディルムッドが語気を強める。

「……奴は、王城にも出入りしていた身分だが、実は、とある件で奴の挙動を疑っている。何か怪しい素振りをしていたのなら、情報が欲しい」

 ギロリと見てくるディルムッドの目線に、上長は気をつけをして答える。

「は…。彼は、我らの糧食をまとまった量、買い取りたいとやって来ました」

「糧食……?」

 兵達が戦場などで携帯する非常食だ。ビスケット状の固形食だが、ただ空腹を満たすためだけに作られているので、決して美味しいものではない。それを、大量に?

「それは良いのですが、ついでに質問をされました。『ここの牢には、死んでも構わないような犯罪を犯した囚人がいないか』と…」

「……!」

「『それも、頭が良い犯罪者を探している』とも言っていました…。そんな人間はこんな場所にはいないですし、その質問の目的も分からないため『答えられない』としか応じておりませんが……」

「……」

 と、奥の方から若い兵がやってくる。手には手紙を持っていた。

「ショーン卿! ツマルタの軍支部から、卿宛の伝書鳩便の速達が届いております」

「おお、ありがとう。今日、この街を離れるところだったのだ。行き違わずよかった」

 緊張気味に手紙を渡してくる若い兵に、ディルムッドは微笑みながら受け取る。例え家を出ていると言われていても、ショーン騎士は兵達の憧れであり、ヒーローなのだ。

 手紙を開き一読するディルムッド。しかし、ハッと目を見開く。

「……ショーン卿……?」

「……ああ。たった今、貴殿から聞いたのと同じ情報が、こちらにも書かれていた」

「……?」

 しかし、ディルムッドは詳細を語らず、手紙を懐に収めた。

「そうそう、昨日、この街で隠密部隊が活動している様子を見かけたが、今、何かこの街で進行している作戦があったりするのだろうか?」

「いえ…、我らが知る限りでは、特にはございません。ただ、隠密部隊でしたら、極秘任務や個人的な依頼の可能性もございますから、なんとも言えませんが…」

「そうだな…。いや、これはただ気になっただけだ。ありがとう」

 そう礼を述べると、「では、さらばだ」兵達に挨拶をする。いつの間にか、大勢の兵が集まってきていた。

「ショーン卿へ敬礼!」

「……だから、私は騎士団を抜けているのだ。今は、その…」

「……?」

 少しだけ口ごもるディルムッド。

「……普通のディルムッドだ。そのように振る舞ってくれ」

「普通のディルムッド殿へ、敬礼!」



 上長のその反応に苦笑いを浮かべつつ、皆の礼を受けてディルムッドは外に出た。そして、拠点から少し離れたところで、速達の手紙を再度開く。ツマルタ軍に、ルチカについての情報を調べさせていたのだ。

(機械士であるから当然ではあるが、ツマルタの工房街や工場エリアでも顔が広い様子。特に、製鉄工場数カ所にはかなり足しげく通っている)

 昨日、銃のことを尋ねたとき、金属について言及していたことを思い出すディルムッド。ただ、機械士としては決して不審な行動ではない。しかし…。

(ツマルタの軍拠点に何度か訪ねてきており、大量の糧食の買い取りと、『死刑になっても構わないような犯罪を犯した、頭の良い囚人を探している』と尋ねてきている。質問には答えていないが、かなりしつこく尋ねてきている様子。警察にも同様の質問をしに来ている……)

「……」

 ディルムッドの表情が険しくなる。そして、そのまま駆け始めた。

*  *  *

 ガチャッ、と勢いよくドアが開き、巨体が飛び込んで来た。

「……ディル?」

「ミリア様…! と、ゴナン、ナイフ…」

 食材屋で名残惜しく店主と話しているところに、ディルムッドが勢いよく入ってきた。その圧に驚く4人。

(……また、違う人物が現れた…。でかいな…。傭兵か?)

 店主が首を傾げる横で、ミリアが声をかける。

「まあ、どうしたの? ディル。そんなに慌てて…」

「あ、いえ。こちらの用が終わり、まだこの店にいらっしゃるならば合流しようと、急いで参りました」

「そう?」

 そうしてミリアとゴナンはまた、店主と話し始めるが、ナイフはディルムッドの少しの異変に気付いていた。小声で尋ねてくる。

「……何かあったの?」

「ああ…、ルチカの件だ。やはり、油断をしてはいけない相手かもしれない……」

「……?」

 ディルムッドは、少しでも心を許しかけていた自分の甘さを、ぐっと悔恨していた。



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