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筋肉の人が怖かった——ボロ・ヤンと近所のおじさん

小学生の頃、近所に西日本で優勝したことのあるボディービルダーのおじさんが住んでいた。
筋肉がすごくて、Tシャツの袖がいつもパンパンだった。
夏になるとランニングシャツ一枚で歩いていて、
僕らはこっそり「筋肉の人」と呼んでいた。

でも、当時はまだそんな体つきの人は珍しかった。
テレビで見る“筋肉”といえば、せいぜいエンジェル体操のおじさんか、
プロレスラーの藤波辰巳くらい。
どこかマイルドで、画面の中の存在だった。

だからこそ、目の前に現れた“本物の筋肉”には、驚いた。
あまりにもムキムキで、現実離れしていて、
子ども心に「この人、何かの病気なんじゃないか」と思ってしまった。
でも今思えば、それは違った。
僕はただ、怖かったのだ。

ある土曜日、『Gメン’75』をたまたま観た。
香港マフィアが日本で大暴れする回で、
その中に出てきた香港の男が、めちゃくちゃムキムキで、
しかも顔がとんでもなく怖かった。
子ども心に、少しホラーのような感覚があった。

後になって、再放送の『燃えよドラゴン』を観たとき、
その男がまた出てきた。ブルース・リーと戦う、あの敵役。
名前はたしか、ボロ・ヤン(Bolo Yeung)。
その後も、いろんな香港映画で何度も見かけることになる。

冷静に観ると、筋肉が怖いわけじゃなかった。
怖かったのは、あの顔だった。
鋭い目つき、怒ったような表情、
何かを睨みつけているような、あの顔。

でも、ボロ・ヤンを見るたびに、
僕はなぜか、近所のボディービルダーのおじさんを思い出す。
筋肉の量も、顔の濃さも、まったく違うのに。
たぶん、“筋肉=怖い”という最初の刷り込みが、
僕の中でふたりを重ねてしまったんだと思う。

香港映画が好きになって、
ボロ・ヤンにも慣れていったけれど、
彼が画面に現れるたびに、
僕の記憶の中で、あのおじさんがたこ焼きを買って帰る姿がよみがえる。

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