世界中で読まれる名著『はじめの一歩を踏み出そう』が示す、会社が成長するための本当の課題
こんにちは! 今日は、皆さんと一緒にぜひ考えてみたい、一冊の本についてお話しさせてください。
「もっと自分の会社を良くしていきたいな」「今のやり方から、そろそろ次のステップに進みたいな」──もし、皆さんがそんな風に感じることがあるとしたら、今日ご紹介する本が、何か新しい視点や、これまで見過ごしていたかもしれない「大切な鍵」を見つけるきっかけになるかもしれません。
「会社を良くしたい」あなたへ贈る、原点の一冊
その本の名前は、『はじめの一歩を踏み出そう』。

実はこの本、私たちが「仕組み経営」という考え方を通して皆さんにお伝えしたいことの、まさに「原点」とも言える、とても大切な一冊なんです。
著者は、マイケル・E・ガーバーさん。私の師匠でもある方です。かれこれ10年以上も前になりますが、ガーバーさんの講座に参加させていただいたことがありました。

その時に、「会社を“仕組み化”して、社長がいなくても会社がしっかりと回るようにする」という、当時の私にとっては本当に目からウロコが落ちるような考え方を教わったんです。その時の衝撃と学びが、今の私の活動のすべてにつながっている、と言っても過言ではないくらい、特別な出会いでした。
この『はじめの一歩を踏み出そう』、元のタイトルは『E-Myth Revisited』といいます。「E-Myth」は「起業家神話」、「Revisited」は「再訪」や「改訂版」といった意味合いでしょうか。この本、本当にすごいんですよ。なんと、世界中で700万部以上も読まれている、文字通りの「超」がつくベストセラーであり、長く読み継がれているロングセラーなんです。
アメリカの成長企業向けの雑誌『Inc.』誌では、ガーバーさんは「世界ナンバーワンの中小成長企業経営の権威」と称されていますし、『TIME』誌では「最も影響力のあるビジネス書25選」の一つに選ばれています。さらに、『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙でも「最も役に立ったビジネス書ベスト5」に挙げられるなど、その評価は本当に高く、その影響力の大きさがうかがえますよね。
時代を超える「古典」が示す、経営の「本質」とは?
今私たちが手に取れる改訂版が出版されたのは1995年ですが、実はその前、1986年には旧版が存在していました。ということは、一番最初のアイデアが世に出てから、もう40年近くもの歳月が流れているということになります。ビジネス書の世界では、まさに「クラシック」、古典と呼ばれるにふさわしい存在と言えるのではないでしょうか。
それにしても、なぜ、これほど長い時間が経っても、この本は色褪せることなく、多くの人々に読まれ、強い影響を与え続けているのでしょう?
それはきっと、時代の流行り廃りに左右されない、会社を経営していくこと、そして、そこで働くということの「本質」が、この本には詰まっているからなのかもしれません。流行りのテクニックや一時的な成功法則だけではない、もっと深く、もっと普遍的なテーマを扱っているからこそ、時を超えて私たちの心に響くのではないでしょうか。
この本がユニークなのは、「こうすれば成功しますよ!」と明るい話だけをするのではなく、まず、多くの会社が「なぜ、うまくいかなくなってしまうのだろう?」という、避けては通れない問いから深く掘り下げていく点にあります。
ガーバーさんが最初に私たちに示してくれるのは、「失敗の原因をきちんと知ること」がいかに大切か、ということです。もしかしたら、今、皆さんの会社で感じている課題や、「どうしてここがうまくいかないんだろう?」と感じていることの中にも、この本で語られている「失敗の根本的な原因」が隠れているのかもしれません。それを知ること、そこから目をそらさずに見つめることが、会社をより良い方向へ進めていくための、最初の一歩であり、最も重要なステップになる、とガーバーさんは教えてくれます。
なぜ? 多くの会社がつまずく「根本的な原因」
本書の最初のパート、そして最初の章のタイトルは、ずばり「起業家の神話」です。
「神話」と聞くと、どこか現実離れした、美しく語られる物語、といったイメージが浮かぶかもしれませんね。ガーバーさんは、メディアなどで華々しく取り上げられる「成功した起業家」のイメージと、実際に会社を立ち上げ、日々汗を流し、悩みながら奮闘している多くの経営者の皆さんのリアルな姿との間には、大きなギャップが存在する、と指摘します。世間で広く信じられている「理想の起業家像」というのは、ある意味で「神話」のようなものなんだ、と。
皆さんの周りにも、いらっしゃるかもしれません。会社を立ち上げたばかりの方や、創業して何年か経つけれど、とにかく毎日が忙しくて、ほとんど休みなく働いていらっしゃる社長さん。メディアで見るようなキラキラした「起業家」のイメージとは少し違う、そんな泥臭く、懸命に頑張っている姿。もしかしたら、私たち自身も、そんな現実に身を置いていると感じることがあるのではないでしょうか。
では、なぜ多くの会社が、このような現実の中で、理想とは少し違う状態になってしまうのでしょう? ガーバーさんは、その「根本的な原因」を、少しドキッとする言葉ですが、「致命的な仮定」と呼んでいます。
「致命的な仮定」とは、一体どういう意味なのでしょうか? それは、 「事業の中心となる専門的な能力(例えば、美味しい料理を作る、優れたプログラムを書く、など)があれば、その事業を経営していく能力も十分に備わっているはずだ」 という、一種の「思い込み」のことなんだそうです。
もう少し具体的に言うと、「自分は、この分野なら誰にも負けない技術や知識を持っている。この腕さえあれば、独立して自分の会社を立ち上げれば、絶対にうまくいくはずだ!」と考えてしまうこと。これが、実は多くの会社がつまずいてしまう、文字通り「致命的」な落とし穴になり得るのだと、ガーバーさんは強く警鐘を鳴らしています。
「得意」だけでは、なぜうまくいかない? パイ職人サラさんの物語
この本の中に出てくる、サラさんという女性のお話が、まさにこの典型例として描かれています。サラさんは、おばあちゃん譲りの特別なレシピで、それはそれは美味しいパイを焼くことができる、素晴らしい専門技術の持ち主です。その「最高のパイを焼く技術」を信じて、「これならきっと成功する!」と自分のお店を開くのですが…。いざ始めてみると、お店を切り盛りしていくためには、パイを焼くこととは全く質の違う、たくさんの仕事が必要になることに気づきます。お客様を集めること、材料を管理すること、お金の計算をすること、人を雇って育てること…。そうした「経営」という未知の課題に直面し、サラさんは次第に行き詰まってしまうのです。
ガーバーさんは、他にも美容師さんやエンジニアさんの例を挙げて、この「致命的な仮定」がいかに多くの起業家にとって身近な問題であるかを示しています。腕の良い美容師さんは、勤めていたサロンで技術を磨き、たくさんのお客様から指名をもらうようになります。優秀なエンジニアさんは、勤めていたIT企業で高度なスキルを身につけ、難しいプロジェクトを成功させます。そして、彼らはこう考えるかもしれません。「これだけの専門スキルと、ついてきてくれるお客様(あるいは、この技術を求めてくれる会社)がいれば、自分でやった方がもっと自由に、もっと稼げるのではないか?」と。そして、意を決して独立し、自分の会社を立ち上げる。
でも、いざ自分で会社を始めてみると、どうでしょうか? 最高のカット技術を持っているだけでは、美容室は繁盛しません。最先端のプログラミングスキルを持っているだけでは、会社は成長していきません。会社員だった頃は、会社が組織として当たり前のように分担してくれていた、新しいお客様を見つけるための活動(集客やマーケティング)、日々の売上や経費の管理(経理)、書類の手続きやオフィスの管理(総務)、そして一緒に働く仲間を採用し、育てていくこと(人事)…。そういった、数えきれないほどの仕事が、今度はすべて、社長である自分自身の肩にのしかかってくるわけです。
「現場のプロ」と「経営者」、二つの役割の大きな違い
会社員だった頃は、「自分の専門分野の仕事」に集中できていたかもしれません。「ああ、会社って、見えないところでこんなにもたくさんのことを支えてくれていたんだ…!」と、独立してから初めて、そのありがたさや大変さに気づくことって、本当に多いのではないでしょうか。
そして、悲しいことに、多くの経営者の方が、この「自分の専門家としての能力」と、「会社全体をうまく動かしていくための経営者としての能力」が、全く別のスキルセットなのだ、という事実に気づかないまま、あるいは、うすうす気づいてはいても、具体的に何をどう学べばいいのか、どう行動を変えればいいのか分からないまま、会社の成長が頭打ちになってしまったり、場合によっては、事業を続けることが難しくなり、廃業という道を選ばざるを得なくなったりするのです。
もちろん、誤解しないでいただきたいのは、現場で一生懸命に腕を磨き、その高い専門性を武器にして独立・起業するという道筋自体が間違っている、というわけでは決してありません。むしろ、世の中の多くの中小企業は、そうやって生まれてきているのではないでしょうか。情熱と技術を持った方が、「もっと自分の力を試したい」「もっと世の中に貢献したい」という想いで一歩を踏み出す。それは、とても尊いことです。
問題なのは、会社を立ち上げた「後」に、この「致命的な仮定」の存在に気づくことができるかどうか。そして、「現場のスペシャリストとしての自分」の役割に加えて、「会社全体を導く経営者としての自分」に求められる、全く新しい役割と責任があることに気づき、そこから謙虚に学び、行動を変えていくことができるかどうか。ここが、その後の会社の未来を大きく左右する、本当に、本当に大切な分岐点になるのだと思います。
「気づき」こそが、成長への扉を開く鍵
例えば、あの京セラや第二電電(現KDDI)を創業され、日本航空(JAL)の再建にも尽力された稲盛和夫さんも、最初は技術者として社会に出られ、ご自身の持つセラミック技術を核にして会社を興されました。しかし、創業から数年経ち、会社が成長の壁にぶつかった時、「技術だけでは会社はダメになる」「会社を経営するには、技術とは全く別の、経営者としての哲学や考え方が必要なんだ」という、まさにこの『はじめの一歩を踏み出そう』で語られている「致命的な仮定」の誤りに、ご自身の体験を通して気づかれたそうです。そして、そこから経営者としての在り方を深く見つめ直し、会社全体の考え方や仕組みを大きく変えていかれた。その変革があったからこそ、今日の京セラの大きな発展がある、というお話をされています。
偉大な経営者でさえ、最初は同じような「落とし穴」にはまりそうになった。でも、そこで立ち止まり、「気づき」、自分自身と会社のあり方を根本から見つめ直すことができたからこそ、道が開けた。そう考えると、私たち自身が、この「致命的な仮定」という考え方に気づき、そこから学びを得て、自分の会社に活かしていくことが、どれほど重要か、改めて身に染みて感じられますね。
あなたの会社は大丈夫? 「致命的な仮定」のサインを見逃さないで
皆さんの会社では、いかがでしょうか? 「うちの社員は、みんな現場の仕事は本当によくできる。技術レベルも高いはずだ。なのに、なぜか会社全体として見ると、もっとスムーズに、もっと成果が出てもいいはずなのに…」といった種類の課題を感じることがあるとしたら…。それはもしかしたら、この「致命的な仮定」が、知らず知らずのうちに、会社の中に根を下ろしてしまっているサインなのかもしれません。
さて、今回は、『はじめの一歩を踏み出そう』という本が、多くの会社がなぜ成長の途中でつまずいてしまうのか、その根本的な原因として指摘している「致命的な仮定」について、少し時間をかけて、皆さんと一緒に考えてきました。
現場のプロフェッショナルとして優れていることと、会社という組織を経営していくことは、似ているようで全く違う能力が求められる。この、シンプルだけれど奥深い事実に気づくこと。そこが、会社を本当の意味で成長させていくための、大切な、大切なスタート地点になるのかもしれませんね。
では、この「致命的な仮定」の存在に気づいた私たちは、次に、具体的にどうすれば良いのでしょうか? 幸いなことに、この本は、この重要な気づきを踏まえた上で、「成功への鍵」として、私たちがこれからどのように考え、どのように行動していけば良いのかを、明確に示してくれています。
そのお話は、また次回のレビューで詳しくさせていただきたいと思います。この本から得られる、会社をより良くしていくための大切なヒントを、引き続き皆さんと一緒に探求していけたら、とても嬉しいです。

