波の音(8)
私たちは、それから、メールや電話を利用しながら、不自由な恋を始めていた。
簡単には会えない距離。私だってそう思うのだから、高校生の彼には、遠く遠く。遠くに感じているだろう。
毎朝、メール。
『おはよ』
始めはいつも宇宙くんから。
『おはよう』
私は既に準備ができているけど、彼からのメールを待って返事している。
『今から昼休み
夜、電話してもいい?
声聞きたい』
昼休みになると、直ぐにメールが来る。私の昼休みは、その、30分後からなので、少し遅れて返信。
『いいけど、大丈夫?』
自室からの電話は、気になってしまう。
やはり、お父さんやお母さんにはバレたくない。
息子さんをたぶらかしたようで、後ろめたさがあった。
『いつも気にするね
もう、よくない?
もう、先生じゃないし
バイトも終わったことだし』
いつも、彼はそう言うけど、
気になるものは、気になる。
そんな会話は、一度や二度ではなく。
私は、返信をためらい、
夕方にかかってしまう。
『家に帰る前に電話していい?』
彼から歩み寄りのメールが夕方ごろ来る。
『私は今から何もないから
いつでもいいよ』
すると、直ぐに着信。
1時間弱、会話。
他愛のない会話。
何があったとか、どうしてるとか、
そんなに変わり映えしないのに、声が聞けて、画面越しに顔が見れるだけで幸せだった。
そして、電話を切る時。
「そろそろ帰らなきゃ。
親、心配するかも。」
「だよね。」
「そっちから切って。」
「宇宙くんから切ってよ。」
「俺は切りたくない。」
「じゃ。切るね。」
「えっ?切るの?」
「帰るんでしょ?」
「うん。」
この瞬間、彼が見せる仔犬の様な顔が、何とも可愛く、切なく、キュンとさせる。
こちらに戻って3ヶ月。
夏は終わり、日焼けのあとも薄くなった。私と宇宙くんの恋は続いているけど、
まだ、彼から名前で呼ばれたことはない。
さすがに、″先生″とは、呼ばなくなったけど、
″そっち″や″貴方がさ″と、呼ぶことが多い。
やはり、名前呼びはハードルが高いよね。
この年の差だもん。呼び捨てでも、ちゃんをつけても、さんだって、どれも不自然。
そんな細かいことを考えると、
未来は暗い。
今だけのことを考えよう。
冬休みに、こちらに来るらしい。
受験生だから、遊んでいる場合ではないけども、ご両親には、
「第一志望は、△△大学に受験するから、息抜きも兼ねて、どんな地域なのか下見に行ってくる。夢を描くのも受験のうちだから!」
と、なんともフラフラとした言い分を連ねて、納得させる所が、一人っ子の甘えん坊らしいと思った。
しかし、かなり、勉強も頑張って、それなりに合格圏内なのだろう。頑張ってたもんね。
次に会えた時、美味しいご飯ごちそうできるように、アルバイトに励もう。
私の方も、地元で無事に就職が決まり、後は、卒論のみとなったので、時間に余裕がある分、アルバイトをした。
夏休み明けから始めたカラオケ店での受付。
酔っ払いも多く、嫌な思いもするけど、しかたない。
もうすぐ卒業という、超短期でのバイト。
受け入れてくれただけ、ありがたい。
デート代、稼ぐぞ!
私は恋を原動力にして、毎日生きていた。
