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入院⁉(検査と断食編)

2026/09/13

 なんと、入院することとなってしまった。ことの経緯は以下のとおりである。
 3日前、腹痛と吐き気に耐えかねた私は、かかりつけの病院へ鎮痛剤をもらいに行った。バス停まで歩くことも出来なかったので、タクシーで。すると、炎症そのものを治療するために入院するか、夏休みの予定を尊重して今の治療を続けるかの二択が浮上し、私は前者を選んだのである。夏休みの予定のなかには結構楽しみにしていたものもあったのだが、腹痛が数日にもおよんでいたこともあり、「健康第一」の重みがいつも以上に増していたのだ。

 入院が決まると、さっそく点滴につながれて、痛み止めや水分、電解質が入れられる。入院も点滴も、私には初めてのものだったので、当時は「これがあの点滴!」と少しわくわくしていた。今となっては邪魔で仕方がないのだが。寝るときもトイレに行くときも、どこでも点滴のスタンドが運命共同体のようについて回る。
 しかも、私は以前から、献血や採血などのあらゆる場面で「血管が探しづらい」「血管に張りがあって刺しづらい」と言われ続けているほどの血管の持ち主だ。若い看護師さんでも、ベテランの看護師さんでも、ひとたび私の血管に針を刺すとなると、空気が少し張り詰める。数十センチメートル先でその様子を傍観する私は、ここに「ほこ×たて」を連想した。「絶対に刺したい看護師」対「絶対に刺されまいとする血管」である。(なかなか針が通らなかったとき、ベテラン看護師さんが「悔しい…」と言っていたのをよく覚えている。私はここに、看護師さんのプロとしての意識を見た)

 それから、CT検査と内視鏡検査を受けた。
 はじめてのCT検査はちょっと面白かった。台に体を預けて、仰向けの姿勢のまま棒を掴まされる。ちょうどこれから鉄棒をしようとしているところを、そのまま後ろに90度回転させたみたいな状態だ。そんな鉄棒姿勢のまま検査機械のトンネルの中へゆっくりと平行移動し、音声アナウンスに合わせて深呼吸する。そして、今度は造影剤が投入され、これまで感じたことがないほど急激に体が熱くなった状態のまま、再び鉄棒姿勢のままトンネルへ入っていく。状況だけ見れば、私を取り囲む環境はかなりすっとんきょうだった。さらに、私の服装が、地元パン屋の写真がついた青のティーシャツに大きな黒のハーフパンツで、おへそを思い切り仕舞ったスーパーハイウエスト・スタイルだった。つまり、あの空間にはすっとんきょうの二乗が存在したと言えるだろう。
 内視鏡検査は苦しかった。検査自体は今回で3回目とはいえ、慣れが出るものでもない。これは来院した翌日に行った。まず、その日の朝、私は片頭痛とムカムカとともに目覚めた。はい最悪。片頭痛の薬が飲める状況でもないまま、不味い下剤(2L)を起きてすぐに飲み始めた。なんと、朝6時半のことである。コップ一杯飲むたびに吐き気が顔をのぞかせる。ただでさえ、片頭痛で気持ち悪いのに、これではムカムカの二乗である。さらに、同部屋の患者が朝食を食べる時間になり、出汁のいい匂いで部屋が充たされる。精神的にもかなり消耗しながら3時間以上かけて下剤を飲み続け、そして内視鏡検査が始まった。
 台の上に横向きで寝転んで、検査が始まる。医師の腕がよく、基本的に激しい痛みはないのだが、冷静になると「いま私の腹の中にカメラが」と怖くなる瞬間が結構ある。それから、大腸の「曲がり角」に入ると中から引っ張られるような痛みがあったりもする。(ちょっと顔が引きつる程度の痛み)しかし、それらを除けば内視鏡検査にも面白みはある。リアルタイムで自分の腸管をモニターで見られるのだ。しかも医師の説明付きで。自分の体の中なんてめったに見れることはない。貴重な経験だ。
 内視鏡検査も終盤になると、時折モニター内にマジックハンドが出現する。生体検査のために腸管内の組織を採取するためだ。別に、採取されるときに痛みは全く生じないのだが、モニター越しでマジックハンドが開くのを見ていると内心「おいおい待て待て」という突っ込みをいれたくなってしまう。

 このようにして2つの検査を終えて、私は部屋のベッドに寝転んだ。点滴のおかげで、もはや腹痛はない。そんな私が一番に覚えたのは「何か飯が食いたい。というかケンタッキー・フライド・チキンが食べたい」という単純な欲求だった。しかし、食事はその晩からスタートするので、6時間以上は待つ必要があった。当時の私は、以前からの腹痛と検査前の禁食で丸2日は食べていなかった。そのため、この空腹が一番苦しかったと思う。
 こういう時に限って、頭に浮かぶのは、ケンタッキー・フライド・チキン、濃厚しっとりチョコブラウニー、つゆだくの牛丼、もつ鍋のくたくたになったキャベツ、スパゲティナポリタン、にんにくたっぷりのマリナーラ…。

 6時間以上の空腹を乗り越え――たぶん断食寺くらいの苦行を乗り越え、夕食の時間を迎える。出てきたのは、「低残渣食(ていざんさしょく)」。お腹に負担を掛けない優しい食事である。

出汁の匂いがファ~って来た

 これがほんっっっっとに美味しかった。おかゆを口に入れた瞬間、頭がすっと澄み渡り、脳が喜ぶ音がした。おかゆってこんなに美味しかったんだ…と天を仰ぐ。やわらかつみれやナスは出汁がひったひたに染みているため、味をビシバシ感じるし、リンゴはすごく甘く感じた。医師は「低残渣食だから物足りないかもしれませんが」と話していたが、全然そんなことはなかった。今の私には、味も量も大満足の代物だった。
 そうか、身体が求めているものを食べると、ご飯はこんなに美味しく感じるんだ。ここで思いがけず、食の重要性を思い知った。普段から、自炊するときには脂質や野菜の種類に少し気をつかっていた。しかし、今回で分かった。足りないわ。私は、もっと健康的な食事について知る必要がある。大好きなジャンクフードを食べるためにも。

 この決意がいつまで続くかは分からないが、この入院期間のうちに管理栄養士さんから食事のアドバイスをいただきたいと看護師さんに申し出てみた。看護師さんは「分かりました、聞いてみますね」と言ってくれた。
 こうして、期せずして始まった入院生活は、私の中で健康合宿へと姿を変えた。えい、健康になってやる。もっとも、最終的な目的は、健康になってケンタッキー・フライド・チキンを美味しく食べることである。


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