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ジャゾット作曲《アルビノーニのアダージョ》ーサラエボに響く祈りの音

Note上で展開する、架空のラジオ番組《クラシックとエトセトラ》
この番組では、毎回異なる音楽家がパーソナリティーを務め、
自身のお気に入りの曲と、その曲にまつわるエピソードを語ります。

番組では現在、特別企画・グリーフケアの音楽特集を開催。
亡くなった大切な人を想う「天と星への送り歌」
と題し、
哀悼の音楽を紹介していきます。



1992年5月、ボスニア・ヘルツェゴビナの首都サラエボで、
ヴェドラン・スマイロヴィッチというチェリストが、
戦火の中でひときわ深い哀悼の音楽を奏でました。

この時、彼が演奏したのが、今日ご紹介する作品、
ジャゾット作曲《アルビノーニのアダージョ》です。

1992年、サラエボの国立図書館の破壊された建物で演奏するサラエボのチェリスト、
ヴェドラン・スマイロヴィッチ(1956-)
撮影:ミハイル・エフスタフィエフ


彼はこの《アルビノーニのアダージョ》を、
サラエボの市場で22人の市民が砲弾の直撃で命を落とした翌日から、
22日間にわたり、毎日午後4時に同じ場所で演奏しました。


ホールではなく瓦礫の中でチェロを弾くスマイロヴィッチの姿は、
戦争の中で人間の尊厳と平和への祈りを象徴するものとして、
世界中の人々に届けられました。

《アダージョ》は、
もともとアルビノーニ研究者のレモ・ジャゾットが、
彼が発見した18世紀のヴェネツィアの作曲家アルビノーニの作品を編曲したものとして、1958年に発表されました。
しかし現在では、アルビノーニであるという資料に不明な点が多く
ジャゾットがほぼ自由に創作した音楽であると考えられています。

原曲の詳細は未だ不明なものの、ジャゾットの手によって現代に伝わる形となったこの曲は、発表後、瞬く間に親しまれるようになりました。


トマゾ・ジョヴァンニ・アルビノーニ(1671-1751)


この曲の最も大きな魅力は、静けさの中に深い悲しみを宿した旋律にあるでしょう。
ゆっくりとしたテンポで紡がれる音のひとつひとつは、まるで時が止まったかのような静寂を生み、聴く者の心に穏やかな波紋を広げます。


特にチェロの低音が放つ重厚な響きは、哀しみのなかに微かな希望の光を感じさせ、胸にしみる感覚を呼び起こします。
和音の進行やフレーズの構造は非常にシンプルでありながら、その深い感情表現は決して平坦ではありません。


こうした音楽的特性が、スマイロヴィッチの演奏と重なり、戦争の最中でも人間の尊厳や平和への切なる願いを強く印象づけるものとなったのです。


サラエボの部分的に破壊された国立図書館で演奏するスマイロヴィッチ。撮影:ミハイル・エフスタフィエフ
彼は1993年末にサラエボを脱出し、現在は北アイルランドで音楽活動を続けている。


ヴェドラン・スマイロヴィッチの演奏は、
単なる音の再現にとどまらず、戦火の中で人間の尊厳を守り、平和を願う強い意志そのものでした。
その姿は、音楽が言葉を超えて心に届く力をあらためて示してくれます。
悲劇に閉ざされた街の中で、旋律は希望の光となり、人々の心をつなぐ架け橋となったのです。

こうした背景をもつ《アルビノーニのアダージョ》は、単なる哀悼の音楽ではなく、失われた命への祈りであり、平和への願いを込めた作品として、今日も多くの人々に愛され続けています。

スマイロヴィッチの演奏は、その象徴的な存在として、音楽の力が持つ可能性を改めて私たちに教えてくれるのです。

記事の無断転載、引用は固くお断りします。©︎夏目ムル


Note上で展開する、架空のラジオ番組《クラシックとエトセトラ》。
いかがでしたか。
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