【 苦いコーヒー 】 #2
夜更けの部屋に
淹れたばかりのコーヒーの香りが沈んでいく。
湯気が細く揺れるたび
あなたの面影がふいに浮かんでは消える。
この苦さを、あなたも“好き”と言った。
けれど、その言葉だけが
今では信じられる唯一の温度になってしまった。
カップを握る手のひらから
ぬくもりが静かにすり抜けていく。
まるで、届かなかった恋の続きを
何度も何度も手放すみたいに。
一口飲むたび、胸の奥がきゅっと疼く。
コーヒーの苦みが深く落ちていくところに
あなたの声や笑顔がまだ残っている気がして
どうにも前に進めない。
涙をひとつこぼしたら
その味は驚くほど薄くて
コーヒーの苦さとまじり合い
あなたの記憶をそっと曇らせた。
もしもう一度会えたなら
このカップの温度みたいに
少しだけでいいから
私の手を離さないでいてほしかった。
でも夜は残酷なくらい静かで
真実だけを淡々と照らしている。
届かない恋は
こうして今日も、私のなかでゆっくり冷めていく。
夏凪 伊織
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