人見知りとHANERUのミルキーソフトクリームの話
発酵バターカステラのお店のソフトクリーム
私が用事のために週一で通る乗り換え駅。その駅ビルに美味しい発酵バターカステラのお店があります。
ただ、今回は発酵バターカステラの話ではありません。この店でついでに(?)売っている、生クリーム系のお菓子の話です。
この駅は私の最寄駅からもすぐで、若者に人気です。漫画家、作家などの文化人も多く暮らしています。
件の店は一口サイズの発酵バターカステラが人気で、長い行列ができるほどではなくても、いつも誰かしらいて、テイクアウトの紙袋を受け取っている感じです。
そしてこの店では、ソフトクリームや生クリームのお菓子も売っているのです。私の目的はそれらなのですが、私以外に注文している人は、ほとんど見かけたことがありません……。
重度の人見知り
ところで私は重度の人見知りです。見た目は元気なおばちゃんなので、人見知りとはまず思われないのですが。
人見知りは、行きずりの人を恐れません。突然話しかけられたりした時もまず大丈夫です。問題は二度目に話しかけられた時からなのです。
もう一つ、私の性癖を告白します。気に入った食べ物があれば、それを何度も食べたくなります。
わかりますか? この店のソフトクリームが大好きになった私が最も恐れたのは、店員さんに覚えられてしまうことだったのです。
ここで誤解のないよう言っておきたいのは、常連のお客さんの顔を覚え、親しげに応対してくださる接客業の方は、間違いなく非常に優秀だと言うことです。
「いつもありがとうございます」とニッコリ笑い、お釣りとレシート、そして美味しいものを手渡してくれる。そんな接客業の方は、何一つ間違ったことはしていないのです。
ただ、人見知りは罪深いのです。もし何度目かの来店で「いつもありがとうございます!」と言われたら、店員さんには何の落ち度もないのに、人見知りは(申し訳ないけれど、もうここには来られないな……)と思ってしまうのです。
「そんな極端な!」と思われるかも知れませんが、これは人見知りあるあるなのです。
毎週決まった曜日に、夕方頃やって来て、「ミルキーソフトクリーム」や「発酵バターソフトクリーム」なんかを食べていく中年女性。
前にも説明した通り、このお店ではソフトクリーム、生クリーム系のお菓子はメインではなく、あくまで主役は発酵バターカステラです。恐らく、注文自体が少ないのです。
ちょっと考えただけでも、これだけ特徴的な客を、店員さんが覚えないわけはないと思います。
人見知りに配慮されている!?
ですが、このお店の店員さんは、私が何ヶ月通い続けても、「いつもありがとうございます」とは言いませんでした。
(お店の方針とかで、すごく人見知りに配慮しているのかも知れないな……)
私はそんなことを考えました。
また、店員さんは若い女性がほとんどで、バイトが主戦力のように見えます。店員さんもシフトで入れ替わるだろうし、平凡な容姿の私は案外覚えられていないのかも知れません。ただ、行くのは必ず同じ曜日になってしまうことが、懸念材料でした。
(まだ知られていないのか、とっくに知られて、バックヤードで「あの女の人来たよー!」とか言われているのか……!)
そんなしょうもない心配をするのも、人見知りの性です。それでも生クリーム系のお菓子の美味しさに病みつきになり、毎週のように通っていたのですが、ある日定番の「ミルキーソフトクリーム」を注文した時のことです。「あの、スプーンをつけていただきたいのですが……」とリクエストしたら、店員さんが「すみません、いつもお使いでしたね。はい、どうぞ! いつもありがとうございます!」と眩しい笑顔で言いました。
同じ曜日に現れる女性がミルキーソフトクリームを注文し、必ずスプーンを使うことまで覚えている。笑顔も素敵な、非の打ち所のない店員さんです。
しかしその時の私は、(ついに知られてしまった……!)という気持ちでいっぱいになってしまいました。
これは純粋なサービスであり、好意ですらあるかも知れないのです。なのに私が人見知りであるばっかりに、最高のサービスが恐れに置き換わってしまいました。
生クリームへの情熱
私はとにかく生クリームが好きです。ですが前述の通りこのお店が提供するのはあくまで発酵バターカステラが主力。ソフトクリームや生クリーム系のお菓子は、あまり安定供給はされず、気に入ったと思ったら入れ替わってしまう、そんなこともよくありました。
その中では比較的安定供給されていたミルキーソフトクリーム。これは、本当にここでしか食べた記憶のない味です。
例えば牧場などで提供される、ジャージー牛乳ソフトクリームなどがあります。これはとても濃厚で素晴らしいものですが、ミルキーソフトクリームはそれに遜色ない濃厚さがありながら、口当たりは軽く、口溶けも良いのです。
人見知りの悲しみ
私のことを覚えてくださった店員さんには、それから何度か接客していただきました。私は人の顔を覚えるのが苦手なので、お一人ではなかったかも知れません。
そんなに大切にしていただいていたのに、逆に私の足は遠のいてしまいました。
でも、悪魔的に美味しいミルキーソフトクリームの魅力で、たまに立ち寄っていたのですが、ある日、メニューからソフトクリーム、生クリーム系のお菓子が消えているのに気づきました。人見知りはこういう時に馬力を出します。勇気を奮い起こし、私は訊ねました。
「あの……ソフトクリームは品切れしているのでしょうか?」
店員さんはとても恐縮した様子で言いました。
「ソフトクリームは夏季限定で、もう終わってしまったんです」
「そうですか……」
夏季もなにも、私は何シーズンもこの店に通っています。
「また夏になったら食べられたりしますか……?」
「申し訳ございません、今、機械自体がない状態でして……再開時期はわからないのです」
「ありがとうございます……」
私は暗然とした気持ちで家路につきました。
(きっと、売れなかったんだ……)
実際、自分の他にソフトクリームを食べているお客さんは、ほとんど見かけませんでした。
(せっかく親切にしていただいたのに、こうなるなら毎週通っておくんだった……)
喪失と再会
発酵バターカステラの店は、専門店に戻りました。相変わらず繁盛しているようです。季節が移り変わっても、それは変わらないようでした。
この店は駅の改札に近い、好立地にあります。毎週その前を通り過ぎ、エスカレーターからガラス張りのキッチンを覗きながら、(ソフトクリームの機械、戻ってないかな……見た目じゃなんもわからんけど)などと思うこともありました。人見知りの執着が怖いです。
そんなふうに一年ほど過ごしたある日のことです。いつもは発酵バターカステラが宣伝されている看板に、バーンとミルキーソフトクリームの写真が載っていました。私は飛び上がるような気持ちになり、ドキドキしながら店に入りました。
「あの、ソフトクリーム、戻ったんですね!」
私は注文する前につい、店員さんに話しかけてしまいました。
「そうなんです! お待たせいたしました!」
私は勿論ミルキーソフトクリームを購入し、いつものイートインスペースで食べました。冷たく、甘く、口溶けの良い、懐かしい味です。
(こんな素敵なお店に、人見知りしている場合じゃない!)
私は再び、毎週のようにお店に通うようになりました。
「いつもありがとうございます!」
「すみません、スプーン要るんでしたっけ?」
そういった親切な言葉にも、動揺はしませんでした。もう人見知りではなく、お馴染みになったのです。
相変わらず入れ替わりは激しいですが、ソフトクリーム、生クリーム系のお菓子は、途切れることなく供給されています。
悪魔的美味お菓子
私が過去最高に熱狂したのは、生クリームがたっぷり入ったカップにミルキーソフトクリームが逆さにぶちこんであるお菓子です。身体に最高に悪そうですが、恐らくそれ故に悪魔的に美味しいのです。
(このお店の前を通るのが一週間に一度で良かった……)
私は半ば本気でそう思いました。これを毎日食べていたら、健康診断で再検査になってしまうかも知れません。一週間に一度でも、相当身体に悪そうですが。
ある日この悪魔的美味お菓子(商品名を忘れてしまいました)を注文したら、キッチンの方から何かを叩きつけるような音が聞こえてきました。
(あれ、何だろう……)
すると、手渡されたそのお菓子は、カップの縁までいっぱい生クリームが入っていたのです。
(こ、これ、いわゆる大盛りってやつ……!?)
この大盛りサービスは二週間にわたり、その後、この悪魔的お菓子の提供は終わりました。
人見知りからお馴染みへ
私は今でも毎週のようにこの店に通っています。ミルキーソフトクリームは勿論、友人の家に行くときの手土産に、発酵バターカステラを持っていったりもするようになりました。
お店にとって、ソフトクリーム、生クリーム系のお菓子が利益になるのか、正直私にはわかりません。ですが、推しには貢ぐのです。そんな心持ちで私はここでソフトクリームを食べ、そして(いつかあの悪魔的美味お菓子、再提供されないかな……健康診断が怖いけど)などと思ったりもしています。
