「毒親」介護、それでも自分を大切にするために見つけた境界線
これまで距離を置いていた「毒親」に向き合う時が来た。それは親に介護が必要になったから。
わたしは父を「毒親」と表現しているが、この言葉を安易な気持ちで使ってはいない。
長年、父との関係に苦しみ、内観を重ねてきた。父の特性や生育歴を考慮しても、幼少期のわたしにはその暴言暴力は恐怖でしかなかった。感情表現が不器用でも、アルコール依存や暴力を行使した父をやはりわたしは許せない。
父は周囲を傷つける余計なひと言ばかりを口にし、肝心なことは伝えてくれなかった。わたしは既に4〜5歳のころから、彼のことを頼りにはしていなかったと思う。大人になってからは、物理的にも心理的にも、適正に距離を置いてきた。
しかし親に介護が必要となった場合、子どもがやみくもに介護放棄すると「保護責任者遺棄罪」などに問われる可能性があるという。また自分が親と絶縁すると、別の身内にすべての面倒が及んでしまう。
父に介護が必要になった時のために、読んでいた『毒親介護』の本に、今まさに助けられている。
「各地域には、高齢者の生活や介護の相談窓口である地域包括センターがあります。自分だけでいいので、まずはここを訪ねて親がどんなサービスを利用できるのか確認してください。過去に虐待されていた、親が暴力的、家族関係が悪い、そういう事情もあるなら隠さず伝えましょう。そのうえで親に関わらないのか、それとも何ができるのか、相談員と話し合うことが大切です」
87歳の父は、糖尿病や心臓弁膜症が悪化している。そのうえ圧迫骨折を患い、満身創痍である。かかりつけ医に勧められても、手術や介護サービスの受け入れを拒否していた。
父の気持ちを理解し寄り添うことは、わたしには困難だ。その理由を含めて相談員さんに伝えようと役所に行ったが、言いたいことの半分も口に出来なかった。地域包括支援センターの窓口にはプライバシーがないのだ。窓口付近には一般市民が多く行き来するし、わたしの個人的な話や実家の状態などを、関係のないスタッフの耳にも入れてほしくない。
そこでわたしは帰宅後に、担当の人に電話をして、窓口で伝えられなかったことを手紙にして郵送したい旨を伝えて、読んでもらうようお願いした。文書にするとより冷静に伝えやすいし、そちらのほうが個人情報も守られるはずだと考えて。
その手紙から、主にわたしと父の関りや家族のことを綴った部分を中心に掲載してみる。ありのままに具体的に伝えたおかげで、その後の展開がスムーズになりつつある。
○○様
いつもありがとうございます。大変お世話になっています。
父の介護サービス利用相談にあたって、あらかじめに共有しておきたいことを文書でお伝えいたします。これからの相談をスムーズに進めるために、口頭では話しにくいことも、この文書で率直に申し上げたいと思いますので、お目通しくださいますようお願いいたします。
ここでは私自身のことについても述べます。
父の介護に関して、私はキーパーソンになるつもりですが、私に出来ること、この部分はお願いしたいことなどを具体的に伝えることが必要だと考えていますので、私の現状や実家との関係の立ち位置などについてありのままに書き記します。
主に幼少期に、私は父から暴力や暴言を受けています。父はアルコール依存症の傾向があり、そのような加害をした事実はあまり記憶にないかもしれませんが、そのせいで家族関係はよくありませんでしたし、それは今も続いています。
私は安心できない家庭環境から逃れるために、大学進学を機に実家から出ています。大学進学時には親から経済的援助を受けましたが、私は奨学金なども利用して卒業し、就職しました。
勤務地の神戸市で阪神淡路大震災に被災したり、それらの影響などもあったのか、後に鬱病も発症したりしましたが、その時も父からは精神的にも経済的にも特に援助はありませんでした。むしろ私をより絶望させ、鬱を悪化させる言動があり、それ以来、ますます私は父から距離を置くようになりました。
鬱の治療過程で、私は臨床心理士さんのカウンセリングを受け、そこから時間はかかりましたが、客観的に自分の育成家族のことを認識できるようになり、ようやく父や実家との適正な距離感を得ることができました。
その経緯で、弟を支援センターや精神科の主治医につなぐこともできました。弟は精神障害者手帳を持っていて、B型就労支援施設に所属し、主に自宅で内職をしています。
また母が癌に罹患してからも、私が母の介護キーパーソンになって、さまざまな専門職のみなさんの力を借りて、看取ることが出来ました。
母の闘病中、父はそれなりにがんばってはくれました。しかし、ここには書けないような暴言も多々あり、私はそれらを頑張って聞き逃したり、父の気持ちをできるだけ理解するように努めたりしましたが、その過程でも父との関わりはますます辛くなるばかりでした。
母が亡くなってから、実家の衛生状態は相当ひどくなっています。そのせいもあり、私が実家に滞在できるのは、1時間が限度です。私は実家に居ると辛い記憶がよみがえるので、その衛生状態を改善したり、父とじっくり話をしたりするのは、正直に言って無理です。
私は自分の精神状態を再び崩壊させたくありません。今の家庭生活や仕事を維持するためにも、父の介護には自分がどこまで関わるのかという境界線をきっちり見極めようと思っています。
具体的にあげると、事務処理や金銭管理、相談窓口の方とのやりとりをこなすことは可能であると思います。
不可能な事項は、父の身体的なケアや介護です。これらにかかわってしまうと、過去のトラウマから父を介護虐待をしてしまうかもしれません。また父が難聴であり、以前は筆談で意志の確認などをしていましたが、視力の衰えもますます激しく、私とのコミュニケーションはより困難になっています。
父の健康状態やその性格特性を考慮すると、弟との二人だけで在宅生活を維持することは、極めて厳しい状態だと思います。父は介護サービスの利用を拒否していますが、家族だけでは対応できない部分が多々あると考えています。
弟は父と同居をしていても、ほぼ二階の自室におり、会話もほとんどない様子です。食事も自分の食べたいものを食べたい時に準備し、父のことはあまりケアしていないと思います。積極的にケアをしていないので、父の状態の把握は、正しくできていません。また父も弟にSOSを出す気力も失われている気がします。お互いに変化を受け入れるのが苦手なので、今の生活にあえて危機感を持たないようにしているように、私には感じられます。
私は弟との関わりは大事にしたいと思っています。弟は私のように父の暴力などはほとんど受けていないと記憶していますが、彼が精神疾患を患ったのは父の養育態度もおおいに関係があると考えているからです。つまり弟には同士というか戦友のような気持ちが私にあり、彼がさまざまに辛い局面にさらされてきたので、できるだけ穏やかな生活をしてほしいと望んでいます。
弟の主治医や支援者さんのアドバイスもあり、「私はできるだけ弟の立場や気持ちに寄り添って味方でいること、そうすれば困った時に弟が私にSOSを出しやすいから」というスタンスを大切にしています。
弟の介護負担の度合いや意志を確認しつつその気持ちを尊重して、父と二人での生活を維持できるうちは、見守っていこうと考えていました。何度か「もっと実家に寄って、父に会ってほしい」という要望を弟から聞かされたこともありました(私は弟と話をするときに、実家以外の場所で会うことが多かったので)。
その際には、「父に会うと辛くなる。実家に行くのもしんどい」と話しましたが、それを彼はどこまで理解しているかは不明です。お互いの幼少期の記憶は異なっていますし、父から与えられた対応も性別や気質が異なるせいで差があります。しかし私は、父に受けたトラウマを弟に詳しく話すつもりはありません。どちらにとっても辛いだけなので。
弟は長年、父から経済的にも生活面でも全面的にケアを受けてきたので、父に対する依存もあり、恩義を感じていると思います。しかし近くにいると客観的な判断ができないことも多く、しかも弟の特性から状況判断を冷静にすることは難しいと思います。
母の介護は、彼女に認知症がありながらも、その意志をなんとかコミュニケーションを取りながら進めていきましたが、今回の父の場合は正直に言って私にはお手上げ状態です。
介護サービスや施設入居の話をすれば、父や弟に拒否される可能性が大なので、どうすればいいのか悩んでいます。
以上、長々と綴りましたが、最後まで読んでくださりありがとうございました。
この手紙を渡してから2ケ月。現在はケアマネさんの尽力で、父は訪問看護を受け入れている。
看護師さんは、頑固な父に寄り添い、服薬管理や親身な身辺介護を行っていただいているようだ。感謝しかない。
弟も父の介護に関わることで変化している。父の食事や身の回りのことに気を配り、彼自身の生活も以前より活気がみられるようになった。
助けを求めるのが苦手な父と弟だからこそ、周囲を信じて支援に頼り、余裕を得てほしい。
父を理解しケアすることに注力するのは、娘のわたしでなくてもいい。
辛い経験があればできないことがある。
わたしの触れられたくない恨みや痛みは、表面に見えているものより、多分ずっと深い所にある。
やり過ごせるところには、「境界線を設ける」方法を探す。わたしなりに見つけた父の介護方法は、以下のとおり。
片道2時間以上かかるが、月に一度は通院の付き添いをするということ。そして弟やケアマネさん、訪問看護のスタッフさんとは、情報共有すること。
それ以外はわたしの生活を守っていく。
自分が闇の底にひきずり込まれないように。
わたしは父の晩年になっても、父と距離を縮めることを諦めてしまっている。それでいいと思っている。
弟の「もっと実家に寄って、父に会ってほしい」という言葉が、時にわたしに突き刺さる。寡黙な弟の言葉は貴重だ。しかし冷淡にならなければ、わたしは自分を守ることができない。
父の死にわたしは何を思うのだろう。
最後に親との距離感に苦しみながら、介護をされている方へ
ケアマネさんには、親についての相談だけでなく、ご自身の事情も具体的に話してみてください。
「家族の実情を理解できると、適切なケアプランを提示しやすい」と、社会福祉士の友人もアドバイスをくれました。専門職の方には守秘義務がありますから、安心して。
