「ここでネギ作るな」。ネギ作ろうと思って移住した農村が農業不適地だった話
「悪いこと言わねえから、ここではネギを作らんほうがいい」
「ここは最悪の場所だ」
「しばらく(農業じゃなくて)務めでもしたほうがいいんじゃねえか」
先輩農家から言われた厳しいアドバイスに、私は愕然としました。
だって私はネギを作るために東京を離れ、那須にあるこの山里に移住してきたのですから。
農業を営む農地と住居を探すうちに、たまたま縁があったこの集落。今、私はネギを作るため、この集落を捨てて条件のいい別の場所の農地を探すか、それともネギを捨てるか。究極の二者択一を迫られているのです。
ネギを作らないほうがいい理由は、いくつも指摘されました。
山間なので日当たりが悪い、水はけが悪い農地が多い、農地一区画あたりの面積が狭い、農協に出荷するにも往復1時間以上かかる。
今、使える農地が雑草の繁茂する休耕地なので「草取りだけで農業が嫌になっちゃうよ」とも。雑草のタネってなかなか除去しきれないんですよね。
その方はプロの目線で、後々の苦労を推し量った上で、おっしゃっているわけです。
この集落では、プロとしてネギを出荷している人はいません。近隣の集落にもいません。そもそも専業農家が少ないエリアなので、メインで作られている作物は兼業でもできるコメなんです。

そもそもなんで、私はネギを作ろうと思ったのか?
新規就農をしようと考えて、産地・作物を絞り込む条件にしたのが、①関東圏であること、②1年間の研修で就農できること、③農業用ハウスを使った施設栽培ではなく、露地で栽培できる品目ーーの3つでした。
そこでヒットしたのが那須のネギ。平日は都内で仕事をしながら、週末や有休休暇で那須のネギ農家さんのところへ通う日々が続き、途中からは那須でアパートを借りて二拠点生活を始めました。
そんなこんなで今住んでいるお宅と、お借りする予定の農地の話をいただき、とんとん拍子で家を購入し、仕事をやめて那須に移住したわけです。
ネギは野菜の中で、トマト、イチゴに次いで市場規模が大きく、需要の伸びている業務用に好まれやすい。こういう将来性も踏まえて、ネギを大規模に栽培しようとしていた――、これが数か月前までの私です。
しかし、今のこの集落に移住する前後から、自分なりのリサーチで「この集落で、この農地で、本当にネギが作れるのか」を批判的に見始めていたのも確かです。
そういう意味では、冒頭の先輩農家のアドバイスも「薄々は気が付いていた」ことでもあったんですよね。
もちろん、ネギが作れないことはありません。ネギを植えたらネギにしかなりませんから。ただ、納得のいく品質・数量を、採算のとれるラインで栽培できるかが問題になってきます。

今、私が考えていることは、「ネギを起点にした農業経営」ではなく、「この村を起点にした農業経営」です。
となると、私が目指すべきは、この地区の特産品である「コメ」を中心とした農業経営。水田が農地面積の大半を占めるこの集落では、農地を守っていくためには、誰かがコメを作らねばなりませんし、水はけの悪い湿田が多いため、コメ以外の作物はなかなか作りにくいのも実情です。
一方、この村には、まだまだ引き出せる価値がたくさんあると思っています。ネギ作りには不適、あるいはネギ作りに向いた農地は少なくても、農業以外の事業も合わせて、この村の価値を最大限に引き出したい。
平地にある農業地域と比べると、山間の地域では、農地一区画当たりの面積が小さく、スマート農業も展開しにくい。大規模な機械を入れた作業の効率化ができないため、コスト高になりがちです。
ただ、農業単体でみると不適地ですが、複数の事業を重ねるとどうか…?
農業×観光、農業×林業、農業×エネルギーなど、むしろ里山は複合的なビジネスチャンスを持っているのではないでしょうか。
平地には広大な農地と市街地がありますが、里山には山がある、日本の「原風景」を感じさせるような田園と里山の景観が残っている。

「ネギか村か」の結論を申し上げます。
私はネギよりもこの村を選ぶことを決めました。
ネギの作付けをゼロにするわけではありませんが、あくまで農業経営のサブ的存在にとどめ、コメを主軸に置きます。
そして、農業に限らず、里山の価値最大化をビジョンにした事業開発をしていきます。
その決心がついたのは、先輩農家からの長年の経験を踏まえたアドバイスがあってのこと。先輩の厳しい温かさに今、とても感謝しています。
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