僕の居場所 【 シロクマ文芸部 】
夜店から、僕はとうとう逃げ出した。
知らない人の所へなんて行きたくなかった。
おじさんやみんなとずっと一緒にここにいられると思っていた。
ここが僕の居場所だと思っていたのに。
元々は沢山の仲間たちと一緒に並んで飾られていた。
でもある日、僕は少しずつ人数が減っているのに気付いた。
おじさんは「お前たちはみんな自分の居場所へ行くんだ」と言っていた。
そんなの嘘だ。だって僕たちの居場所はここじゃないか。
ね?そうでしょ?
でも中には本当にその言葉を信じて楽しみにしているやつらもいた。
そのせいかここを去る時「またね」とは言わず「さよなら」と言っていた。
僕はそれがものすごく嫌だった。
一昨日までいたのに。昨日までいたのに。ついさっきまでいたのに。
なんだよ…みんな寂しくないのかよ…
だからいつも僕はみんなと最後の言葉を上手く交わすことができなかった。
いつかは自分にもその時が…そう思うと、僕は怖くて夜も眠れなかった。
だからあの日、僕は店から逃げ出した。
すぐにおじさんに見つかって僕を追いかけてきたけど、僕は必死で逃げた。
だって捕まったら終わり、だから。
僕は人の頭をめがけて「えいっ」とジャンプをした。
そして次から次へと色んな人の顔に乗り換えていった。
自分が今どこにいるのかもわからない位、無我夢中で飛びまくった。
おじさんとの距離がどんどん離れていく。これでいいんだ、これで。
けれどそのうち疲れてきて、上手くジャンプができなくなった。
そしてとうとう僕は、地面に落ちた。
横たわっていた所を追いかけてきた汗だくのおじさんに見つかった。
なんと呆気ない終わりだろうか。
おじさんは汚れた僕を自分のタオルで拭きながら「こうなったらもう無理だなぁ」と、残念そうに言った。
僕は覚悟した。
恐らく僕はもう売り物にはならない。
それはつまり「捨てられてる」ということだ。
逃げても何も解決にしなかった上にどこへもたどり着けず、ただ汚れたまま、僕の人生は終わりを迎えるのだ。
それでもあのままあそこにいるのは嫌だった。
何もせずただその時を待つなんて、僕にはどうしてもできなかった。
店へ戻る間、おじさんはずっと無言だった。
僕もこれからのことを考えると何も話す気にはなれなかった。
着いた頃にはもう店を閉める時間になっていた。
おじさんは黙々と帰り支度をし、そして最後に僕を持ち上げた。
怖くなって体にぐっと力が入ったけど、抵抗する気はなかった。
もうおじさんには迷惑はかけられない。
そう思っているとおじさんは突然、僕をひょいっと自分の頭につけた。
そしてまたすぐに僕を外し、ゴムの長さを調節するともう一度、僕をそっと頭につけた。
「しょうがねぇ、うちで面倒みるか」
おじさんはそう言うと、夜道をゆらゆらと歩いて行った。
「おーい帰ったぞー」
そこにはおじさんの奥さんだという人がいて、家に着くなり、僕をさっきよりもっときれいに磨いてくれた。
そして鏡の前できれいになった僕を自分の顔につけてみたり、もう一度おじさんにつけてみたりして、けらけらと笑っていた。
「お祭りでいつもお面売ってるくせに、そういえば家には一つもなかったわねぇ」
そう言いながら二人は一緒にクスクスと笑っていた。
僕にはよく意味がわからなかったけれど、でもなぜだかとても、幸せな気持ちになった。
その瞬間、ここが僕の新しい居場所になった。
【おしまい】
***
今週のシロクマ文芸部でした🐨
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