物語「勇気の種」
あるところに
スミレちゃんという女の子がいました。
スミレちゃんは
ちょっとしたことですぐ怖がるし
すぐ泣くし
いつもおどおどもじもじしていました。
そんなスミレちゃんですから
他の子と遊ぶ勇気も無くて
いつも一人です。
そんなスミレちゃんと見かねた
お母さんとお父さんは
あるとき
スミレちゃんにある贈り物をしました。
「スミレちゃん
怖いとき
辛いとき
悲しいとき
勇気が欲しいとき
そういうときに
これを食べなさい」
そう言って
お母さんとお父さんから渡されたのは
小さな種の袋でした。
「これは何?」
スミレちゃんが聞きます。
「これはね
勇気の種だよ。
スミレちゃんが困ったときに
食べたら
スミレちゃんを助けてくれる。
だから
これをいつも
持ち歩いていなさい。
怖いとき
辛いとき
悲しいとき
勇気が欲しいとき
これを食べたら
大丈夫。
良いね」
「はい」
スミレちゃんは
不思議に思いながらも
種の袋を受け取りました。
種の袋を持って
スミレちゃんは外に出かけます。
今日はお母さんからお買い物を頼まれて
メモと買い物カゴを持って出かけました。
本当は買い物なんて行きたくありません。
だって
途中で怖い物がいっぱいあるし
困ったときに
誰かに頼るのも勇気が要るのです。
そうこうしている内に
途中
隣近所で飼っている
犬が吠えてきました。
怖い!
スミレちゃんは
おびえます。
泣きそうになって
ふと
種を思い出しました。
パクリと食べてみました。
すると
相変わらず犬は吠えています。
でも
いつもより怖くありません。
そっと近づいてみると
犬はくうんと鳴いて懐いてきました。
どうやら
遊びたかっただけのようです。
スミレちゃんは
犬をなでなでして
その場を通り過ぎました。
あんなに怖かった犬が
大丈夫に感じたのは初めてでした。
種の力は
本物のようです。
買い物が嫌だったスミレちゃんは
少しずつ買い物に行くのが楽しみになってきました。
あれれ?
スミレちゃん
どうしたのかな?
辺りをキョロキョロしています。
どうやら道に迷ったみたいです。
近くに人はたくさんいます。
でも
なかなか道を聞くことが出来ません。
どうしよう。
人に聞くのが怖いスミレちゃん。
今にも泣きそうです。
そうだ!
ここぞという時の
種を取り出しました。
パクリ食べると
不思議と勇気がわいてきました。
「あの、すみません」
スミレちゃんは
近くにいた通りすがりのおばあさんに
声を掛けました。
「どうしたの?」
「お買い物に行きたいの。
青物屋さんに行くには
どこを通ったら良いの?」
勇気を出しておばあさんに聞きました。
するとおばあさんは
にっこり笑って
「それなら
ここをまっすぐ行って
2つめの信号を左に曲がれば行けるよ」
そう言って
教えてくれました。
スミレちゃんはにっこり笑って
「ありがとう」とお礼を言いました。
こうしてスミレちゃんは
とことこと
教えてくれた道を歩いていきました。
商店街に入り
青物屋さんを探しましたが
あれれ
どうしたのかな?
スミレちゃんは
ひらがなは読めても
漢字がまだ読めません。
どこが青物屋さんか
分からないのです。
スミレちゃんは再び困って
また泣きそうになりました。
そうだ!
スミレちゃんは
袋を取り出し
種をパクり。
「すみません」
近くにいた
お店のご主人に声を掛けました。
「へい、いらっしゃい」
「青物屋さんはどこですか?」
ご主人はにっこり笑って
「それなら
この通りを歩いて5つめのお店がそうだよ。
野菜がいっぱい並んでいるから
分かるはずだよ」
そう言って教えてくれました。
スミレちゃんは
にっこり笑ってお礼を言いました。
とことこ歩く
スミレちゃん。
何だか
人に聞くのが
怖くありません。
みんな話しかければ
にっこり笑って
優しく話しかけてくれます。
種のおかげでしょうか?
歩いて行く内に
青物屋さんに着きました。
さて
メモを見ます。
あれれ?
どうしたのかな?
メモにはひらがなで
きゅうりと
大根と
人参と
必要な野菜が書いてあります。
読めてはいるのですが
色んな野菜があるせいで
どこにその野菜があるか分かりません。
でも
大丈夫。
スミレちゃんは
種をパクり。
お店の奥さんに声を掛けました。
「すみません。
きゅうりと
大根と
人参は
ありますか?」
すると
お店の奥さんはにっこり笑って
案内してくれました。
スミレちゃんも
にっこり笑ってお礼を言いました。
さて
必要な物をそろえたので
お会計です。
種をパクリと食べて
スミレちゃんはカウンターに向います。
「これ下さい」
スミレちゃんは
今まで人前に出ることも
人に声を掛けることも怖くて仕方ありませんでした。
しかし
種をパクりと食べると
不思議と勇気がわいてきて
怖い気持ちも泣きたい気持ちもなくなるのです。
そして気付きました。
怖かったものは
実はそれほど怖くないことに。
みんな
自分が勝手に怖がっていただけで
本当は優しいのだと気付きました。
スミレちゃんは
無事にお買い物を済ませて
お店を出ました。
すると
あれれ?
どうしたのかな?
目の前に
困った顔をして立ち尽くしている
自分より小さな男の子がいます。
迷子でしょうか?
助けてあげたい。
声を掛けてあげたい。
でも
どうしたら良いんだろう?
そうだ。
スミレちゃんは
種の袋を覗きました。
しかし
もう
種が一つも入っていません。
どうしよう。
それでも。
スミレちゃんは
男の子に近づいて
声を掛けました。
「どうしたの?
迷子?」
男の子は泣きべそをかいて
「お母さんがいない。
お母さんどこ?」と言いました。
やっぱり
迷子のようです。
スミレちゃんは
男の子を連れて
元来た道を戻りました。
青物屋さんの奥さんが
驚いた顔をして出てきました。
「どうしたの?
買い忘れ?」
「この子が迷子みたいなの」
それを聞いた奥さんが
隣近所のお店というお店の人達に声を掛けて
一緒にお母さんを探してくれました。
スミレちゃんも
一緒になって
色んな人に声を掛けます。
すると
男の子のお母さんが
見つかったようです。
お母さんも
男の子も
安心した顔で
抱き合っています。
「ありがとう」
男の子と
その子のお母さんが
にっこりと笑って
スミレちゃんにお礼を言いました。
スミレちゃんも
嬉しくなって
にっこり笑いました。
こうして
スミレちゃんは
るんるん気分で
お家に帰りました。
今日合ったことを
お母さんとお父さんに伝えました。
種を食べたら
不思議と怖いことも辛いことも吹き飛んで
勇気が出たこと。
怖いと思っていたことが
実はそこまで怖くなかったこと。
すると
お母さんもお父さんも
にっこり笑って言いました。
「実はね。
持たせてあげた種は
普通の種なんだ」
そう言うのは
お母さんでした。
「でもね。
勇気の種は
袋の中になくても
ここにあるんだよ」
そう言って
お父さんが
スミレちゃんを指さします。
「どういうこと?」
スミレちゃんが聞きます。
「スミレちゃんの中に
ちゃんと勇気があるっていうこと。
種があってもなくても
スミレちゃんの中にちゃんと勇気がある。
怖いことも
辛いことも
悲しいことも
それを乗り越えるだけの
勇気がスミレちゃんにはあるよ。
だからね
種がなくなっても
スミレちゃんは勇気を出して
人に声を掛けられたんだよ」
そう言って
お母さんはスミレちゃんを抱き上げます。
「私の中に
勇気があるの?
種じゃなくて?」
「そうだよ。
そしてもう一つ大事なことを言うね。
怖いものは
実はそこまで怖くないと言うこと。
声を掛ければ
みんな助けてくれたでしょう?
だからね。
一人で困らなくて大丈夫。
スミレちゃんを助けてくれる人は
必ず傍にいるから。
みんな
助けてくれる。
それを信じて
また
声を掛けてみてね」
お父さんはそう言って
スミレちゃんの頭を撫でました。
それからのスミレちゃんは
あんなに内気でおどおどしていたのに
今では明るくはつらつとしています。
同じ年頃の友達も出来て
一緒に遊ぶようになりました。
困ったときは
一人で抱えずに
近くの人に声を掛けて
助けを求められるようになりました。
困ったときは
周りに助けを求めて良い。
寂しいときや辛いときは
一人で抱えなくて良い。
自分の中の勇気は
周りの人を頼りながら
みんなで育てていけば良い。
そう気付いて
スミレちゃんは
以前より明るく
元気な女の子になりました。
再び
怖いことがあっても
困ったことがあっても
スミレちゃんは大丈夫。
自分の中に
勇気があること。
そして
自分が困ったときや
辛いときに
周りの人達が助けてくれることを
知っているからです。
