見出し画像

生き方で芸術を見せてくれた人 草間彌生さんのこと

2026/08/27 thu.

全方位にアンテナを張っているから自分が消耗して疲れてしまう。

アンテナの使い分けをしなくちゃなあと考えた夕方、SNSを見ていたらいきなりすごい人が現れた。

SKⅡのCMがわたしのタイムラインに流れ、ドラァグ・クイーンが登場。ドリアン・ロロブリジーダさんだった。

ドラァグ・クイーンとしての彼もきれいだし、すっぴんもとても素敵。どうしてこんなに素敵なんだろう、と様々なインタビューを読み、彼の自己肯定感がとても高いからだと理解する。

わたしにないもの、それは自信だった。自分でもかわいそうなくらい、自分に自信がなかった。自己肯定感を高めるために、訓練が必要だったから。わたしのひよっこな生き方のうち、大半が努力と勉強でできている。

あまりの素敵さに友人にメッセージを送ろうとすると、ニュースが飛び込んできた。草間彌生さんの訃報だった。

12歳のころ、幽霊が見えた。
母に泣きながら相談する日が増え、毎日幽霊が見えることを苦に、そのうち浴室を隠し撮りされているのではないかと本気で疑った。

わたしも幼かったから、そういうメディアがあるのだろうとタカをくくっていた。どういうタカのくくり方なのかはいまだに謎だけど。

第一志望の有名私立女子校に入学できたのはいいものの、登校しようとすると「やせろ、やせろ、お前はデブだ」(なんたるルッキズムだよと今なら怒り心頭ものである)という声が聞こえ、無茶なダイエットを決行したのち、倒れた。

自宅療養の日々が続き、その時のことはあまりよく覚えていない。
今日も朝が来たのか、学校に行けないなと思いながら夕方になり、わけもなく泣いた。夜は早く眠りたかった。

わたしの母は理解がある人だった。
わたしを一緒に心療内科に連れていき、そこで出た「統合失調症」というわたしの診断を大学生になるまでわたしに伝えなかった。

芸術療法という治し方がある。
わたしは、それで草間彌生さんを知った。彼女は絵を描くこと、芸術で表現することで幻覚や幻視・幻聴を見えるものにしていた。
わたしが詩をはじめたのも、草間彌生さんのような生き方があるよと医師から教えてもらってのことだった。

わたしは傲慢な娘だった。
選ばれた者なんていう尊大さは、自信のなさから来ていたものだったのだ。12歳から詩の活動を始め、太宰治やキルケゴール、ロラン・バルトを読みまくっていた生徒を、先生たちはとてもかわいがってくれた。

毎日スケッチブックに6編以上の詩と絵を描き、現代文の先生に読んでもらい、感想を伝えてもらった。そのために学校に行っていたため、テストの時間は時計を見るための時間だった。早く終われや、詩を書くんじゃと思っていた。当然留年しそうになり、補講でなんとか単位を取った。

今も残っていて恥ずかしさのあまり捨てようと思っていた日記帳の山がある。今では「こんなリトル・早苗もいたんだな」といい思い出に都合よくなってしまっているので、あの頃のわたしよりまず、母を抱きしめに行きたい。

母はわたしを入院させなかった。
専業主婦としてわたしのそばにいて、一緒にドラマや映画を見てくれた。今思えばあの時母だって若かったのだ。渋谷や表参道に行く母の自由を、わたしは奪ってしまった。

ごめんね、よりも、ありがとうと言いたい。

なんとか結婚もできたし、いろいろあったけど今は幸せで。
草間彌生さんも本当に闘病をがんばったのだと思う。
母とラインをして、あの頃は大変だったねと言い合った。それはそれで母娘の思い出だったのだ。母も知っていた。草間彌生さんが亡くなったことも、今わたしが創作活動を続けていることも。

統合失調症を正しく知るためにも、家族の理解が何よりも必要だと思う。

いまだに偏見の多い病気だけれど、お薬を一定の時間に飲んで血中濃度を下げなければ寛解する病気だ。疲れやすさや思い込みの激しさはあるけれど、それでも文学フリマ東京などのイベントで笑っているわたしが、ここにいる。

夫も友人も、わたしの病を一つの個性ととらえている。長尾さんって変わってる、そのくらいでいいし、わたしは変わったこの病と共に生きるわたしが好きだ。

わたしは変わってる。けれど、それ以上でも以下でもない。

幻覚との付き合い方を教えてくれたのは草間彌生さんだった。アートとして詩や美術を見ることを教えてくれた。

誰でも心の中に、一つだけ秘密の約束を守れる場所がある。
あなたにとってそれはとても特別な場所だけど、それをこそっと隣の人に話してみると、意外にも同じ景色を見ているなんてことが人生のうちには起こりえる。

わたしは、そういう生き方を草間彌生さんから教わった。

大雨、気を付けなければ明日の紙ごみに間に合わないかもしれないなと思いながらスマホを閉じる。

キッチンで掃除をしている夫の鼻歌が聞こえる。今日もおつかれさま。

いいなと思ったら応援しよう!

長尾早苗 よろしければチップをお願いします!みなさまからいただいたチップで次回制作作品の補助にあてたいと思っています。

この記事が参加している募集