「この家、買います!」までいって、やめた話
我が家は現在、賃貸マンションに住んでいる。
3DK、約60㎡。
もうかれこれ10年になる。
ここに引っ越してきたときは、正直、
「狭っ……」と思った。
その前は中古の戸建てに6年ほど住んでいたから、当然といえば当然。
でも、その戸建ては駅から遠く、子どもが小学校に入学することを考えると、通学も不便だった。そこで、子どもの小学校入学をきっかけに家を売り、市街地の賃貸マンションへ引っ越した。
最初は狭いと思った。
でも、住んでみると快適だった。
駅も近い。
買い物も便利。
病院もある。
そして何より、町内会などの近所付き合いがほとんどない。
「今日、町内会の集まりだった」
「今週は掃除当番」
「次の日曜日は地域の行事」
そんなことを気にせず暮らせる。
持ち家から賃貸に変わって、私は初めて、
「賃貸って、こんなにラクなんだ」
と実感した。
荷物もできるだけ減らした。
狭いからこそ、余計なものを持たなくなった。
気づけば、10年。
すっかりこの暮らしに慣れていた。
なのに。
なぜかまた家が欲しくなる。
ほぼ毎日のように物件サイトを見る。
朝も見る。
昼も見る。
夜も見る。
「いい家ないかな」
と探している。
もはや趣味である。
そして、物件を見ながら何度も思う。
「あの家、10年前に買っておけばよかった……」
この10年で、家の相場は上がった。
10年前に「いいな」と思っていた家を思い出しては、後悔する。
でも、そう簡単に「ここだ!」と思える家は見つからない。
ところが。
数年ぶりに出てきた。
「これ、いい!!」
と思える家が。
築年数は古い。
でも、とても丁寧に使われている。
家の中もきれい。
設備も問題なさそう。
立地も悪くない。
何度か気になるところを確認させてもらい、売り主さんとの値引き交渉もOKになった。
話はどんどん進んでいく。
そして、ついに。
「買います!」
というところまで来た。
ここまで来たら、もう買うんだろう。
そう思っていた。
……ところが。
最後の最後に、確認したことがある。
実際に住み始めたら、家そのものよりストレスになるかもしれないもの。
ご近所付き合いと地域の役割だ。
聞いてみると、
・町内会
・婦人会
・ゴミ当番
・用水路の掃除
・神社の掃除当番
・地域のお祭り
・地域の運動会
……。「え?」
昭和にタイムスリップしたのかと思った。
もちろん地域によって違うし、こういう活動が必要なことも分かる。
地域を維持するために、誰かがやらなければならないこともある。
でも、我が家は以前の戸建てでも、町内会と年2回の掃除、総会への参加などがあった。
それだけでも、年に数回の行事を「大変だな」と感じていた。
だからこそ、今回は市街地の真ん中だし、もっと簡素化されているだろうと思っていた。
ところが、まさかのフルコース。
素敵な家に住める。
自分たちの家になる。
庭もある。
今より広くなる。
そんな「家を買う喜び」よりも、
「これを毎年やるのか……」
という気持ちが勝ってしまった。
家は買えば終わりではない。
その地域に住むということ。
そこには、家そのものには書かれていない「暮らし」が付いてくる。
間取り図には載っていない。
物件情報にも載っていない。
でも、実際に住むなら、とても大事なことだった。
結局、我が家はその家を買うのをやめた。
最後の最後で、
「人とのストレスに耐えられるか?」
というところで負けた。少し残念ではある。
せっかく見つけた「これだ!」と思える家だったから。
でも、不思議と後悔はしていない。
たぶん私は、家が欲しいのではなく、
「自分たちが心地よく暮らせる場所」
が欲しいのだと思う。
そう考えると、今の賃貸マンションも、悪くない。
狭いけれど便利。
持ち家ではないけれど気楽。
町内会もない。
掃除当番もない。
神社の掃除もない。
そして何より、
「今日は地域の行事だった……」
とため息をつく必要がない。
だから我が家は、しばらくこの快適な賃貸マンション生活を続けることになった。
……とはいえ。
物件検索は、やめられない。
今日もきっと見る。
「いい家ないかな」
そしてまた、
「これ、いい!!」
と心をときめかせる。
家探しは続いていく。
