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ホームシックだと思っていた|新卒で気づけなかった“限界のサイン”

今なら、もう少し上手に働けたと思う。


担当ではない電話なら、
「分かりません」と上司に相談できる。


理不尽な言葉を向けられても、
「そういう人もいる」
「そんな日もある」と受け流せる。


でも、新卒だった私は、
そのやり方を知らなかった。


だから全部、真正面から受け止めてしまった。





専門学校を卒業し、憧れの一人暮らしを始めた。


自分でアパートを決めて、
新しい部屋、新しい家具、
新しい生活、新しい仕事。



社会人になることに不安はあったけれど、
それ以上に「頑張ろう」という期待と
憧れの日々へのワクワクが大きかった。



昔から電話は苦手だった。



相手の顔色がわからないことも、
突然かかってくることも苦手だった。



電話するくらいなら
直接行ったほうがいいと思っているタイプだった。



それでも、
仕事だから慣れていくものだと思っていた。



でも、現実は思っていたものとは違った。



担当ではない問い合わせの電話がかかってくる。


新卒に電話を回される。


事情を説明しても、
怒られたり、文句を言われたりすることがあった。


「私が担当した物ではありません。」


たったその一言が言えなかった。


上司に素直に助けを求めることもできなかった。



怒られることも、
責められることも、 

全部まだまだ何も分からない自分が未熟なんだと、受け止めなければいけないと思っていた。



電話が鳴るたびに、反射的に受話器を見た。


「〇〇さん、▲▲さんからお電話です。」


そう名前を呼ばれる気がして、
電話が自分宛てではないことを祈った。


心臓が速くなる。


「また文句を言われるかもしれない。」


名前を呼ばれる前から、
そんなことばかり考えていた。



毎日、特に理由もなく涙が出ていた。


朝、何もしていないのに胸がギュッと苦しくなって、気づけば涙が出ていた。

悲しいことがあったわけでもない。

どこか痛いところがあるわけでもない。

それなのに、気づくと涙が流れていた。



私は、「ホームシックだからつらいんだ」と思った。



そう思った方が、
毎日が辛いことに
ちゃんとした理由がある気がして安心できた。


一人暮らしに憧れていても、
一人の部屋の静けさが辛くなっていた。



実家に帰れば元気になれる。


そう信じていた。


家族もしぶしぶ受け入れてくれた。


毎週末、少しずつ新品の家具を実家に運んだ。

自分一人で持てるものからせっせと。


憧れてた私の理想の部屋からは、
ピカピカの家具や小物がなくなっていった。



実家から会社へ通う生活が始まった。


でも、想像と違って何も変わらなかった。


朝になると体が重い。


胸がギュッとしてなぜか涙が出る。


電話は相変わらず怖い。


今まで健康で虫歯もなかったのに、
歯が痛くなった。


夜だけ熱も出るようになった。


鏡を見ると、
昨日までなかったニキビができていた。



会社にいるのが苦しくて、
「具合が悪い」と言えば帰れるんじゃないかと思った。





数か月後、
専門学校の先生が様子を見に来てくれた。


そのときは、いつも通り話をしただけだった。


名刺を交換して、大人の仲間入りができたと思ってうれしくて、誇らしかった。



だから、
その日の夜に届いた先生からの連絡は意外だった。



「顔色が本当に悪かったよ」
「何かあったの?」と心配された。



自分では普通にしているつもりだった。



メイクもしっかりしていたし、
もちろん寝不足でもない。

むしろ、久しぶりの恩師に会えて気持ちが明るかった。

大丈夫だと思っていた。



でも、私より先に、
私を知る周りの人が私の変化に気づいていた。





限界だった。


そう認めるまでに、ずいぶん時間がかかった。


親に「辞めたい」と話した。


泣きながら伝えた。


父は厳しかった。


「新卒を雇うということは、
会社にとって大きな投資なんだ。」


「数か月で辞めるなんて、
会社から見れば利益どころかマイナスだ。」


父の言葉は正しかった。


私も自分で選んで面接を受けた会社に貢献したかった。
この会社で頑張りたかった。



でも、当時の私には、
その言葉を受け止める余裕は残っていなかった。



私は会社を辞めた。





今なら、もっと違う働き方ができたと思う。


分からないことは相談する。


担当外なら担当者につなぐ。


全部を抱え込まない。


少しくらい受け流す。


今の私なら、きっとできる。


でも、それは数年経った今だから言えることだ。


新卒だった私は、何も知らなかった。


慣れれば変わる。


頑張ることしか知らなかった。


だから、心が苦しいことにも気づけなかった。


体は何度も教えてくれていたのに。


ホームシックも歯の痛みも、熱も、肌荒れも。


全部、「もう頑張れないよ」という
サインだったのかもしれない。


あの頃の私は、それを見逃していた。


今でも、ときどき思う。


もっと上手にできたんじゃないか、と。


でも、そのたびに思い直す。


あの頃の私は、上手な頑張り方を知らなかった。


ホームシックだと思っていた。


電話が嫌だから逃げたいだけだと思っていた。


でも本当は。

あの頃の私は、

「助けてほしい。」


その一言が、言えなかっただけなのかもしれない。

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