成長の「フシ」は異常ではない―それは経営OSの「更新通知」だ【シリーズ第3回(全7回)】

0.はじめに
連載3日目です。1日目は「なぜ私が不人気な本質論を語るのか」という宣言を、2日目は、「マクロ環境の荒波と、現状維持がいかに危険な賭けであるか」をお伝えしました。

noteでは経営者としての「視座」を、ブログ では「実務」を軸にお届けしています。

本日は、視点を「外の世界」から「あなたの会社の内側」へ移します。
売上は伸びているはずなのに、なぜか会社が、ギシギシと軋み始める。人を増やしたのに、むしろ自分だけが忙しくなる。信頼していた社員がある日、突然辞めていく。朝、出社するのが少し重くなる。

もしあなたが今、こうした「説明のつかない違和感」を抱えているならば、今日の話は、まさにあなたのために書いています。

その痛みの正体は、一体何なのか。それは「経営者としての限界」なのか、それとも別の何かなのか。

先にお伝えすると、その違和感は、あなたの能力の限界ではありません。
あなたの会社が、次のステージへ進もうとしているサインです。

今日はその答えを、一緒に探していきましょう。

1.「最近、会社がギシギシ言う」──その違和感の正体
①会社が伸びているのに大きな違和感

順調だったはずなのです。創業して数年、がむしゃらに走ってきた。
少しずつお客様が増え、売上も伸びた。信頼できる仲間も加わった。
社長であるあなた自身が、営業も、見積もりも、採用も、クレーム対応も、資金繰りも、全部やってきた。そしてそれで、回っていた。

ところがある時期から、何かがおかしくなり始めます。

社員が5人、7人、10人と増えるにつれて、
「あれ、伝えたはずなのに」
「なぜこんな判断をしたんだ」
「自分がいないと何も進まない」という場面が増えていく。

朝一番にSNSやメールの山を処理し、日中は現場を駆け回り、夜中に一人で経理作業をしている。休日も頭の中は仕事のことばかり。

社員からは「社長、もう少し任せてくださいよ」と言われる。でも、任せた途端に品質が落ちたり、顧客からクレームが入ったりした経験がある。
だから怖くて手放せない。

この状態を、多くの経営者は「自分の力不足」だと感じます。「もっと頑張らなければ」「自分がしっかりしないと」と、さらに自分を追い込みます。

②成長に伴って経営OSも更新が必要
しかし、その違和感の多くは、経営者個人の能力の問題ではありません。
会社が次のステージに進もうとしている時に、今抱えている経営OS(経営の仕組み)が発している「更新通知」なのです。

パソコンやスマートフォンのOSが古くなると、新しいアプリが急に動かなくなったり、処理が遅くなったりしますよね。それと同じことが、会社という「システム」の中で起きています。

アメリカの経営学者ラリー・E・グレイナーは、この現象を「企業の成長段階モデル」として体系化しました(※参考:ラリー・E・グレイナー「Evolution and Revolution as Organizations Grow」)。

彼の研究が教えてくれるのは、非常にシンプルです。しかし多くの経営者が見落としている真実です。

企業の成長は、一直線の右肩上がりではない。成長と危機が交互に訪れる「フシ(節目)」の連続である。

そして、そのフシで求められるのは「もっと頑張ること」ではなく、「経営の仕組みそのものを書き換えること」 なのです。

2.成長の地図──あなたの会社は今、どの「フシ」にいるのか
グレイナーのモデルを、日本の中小企業の実態に即して整理すると、概ね、以下のような5つの段階と、それぞれの段階の終わりに訪れる「危機(壁)」が見えてきます。

なお、ここで示す人数はあくまで目安です。業種やビジネスモデル、雇用形態(正社員中心かパート中心か、外注活用の度合いなど)によって大きく異なります。グレイナーのモデル自体、専門家によってそれぞれの段階や規模が若干異なりますが、ここでは、「概ね、このような段階別の課題や壁があるもの」として捉えてください。

①第1段階(〜10人程度):「創造性」で走る時代
成長の原動力は、社長個人の情熱・人脈・アイデア・行動力です。組織、というよりも「社長とその仲間たち」。全員が社長の背中を見て動き、暗黙の了解で仕事が回る。

ここで直面するのが、「リーダーシップの危機」です。社長一人の頭と手足だけでは、増え続ける業務と人を抱えきれなくなります。

②第2段階(〜30人程度):「指揮・管理」で秩序を作る時代
第1段階の混乱を収めるために、ルールや役割分担、報告の仕組み等が導入されます。社長がトップダウンで指揮を執り、組織に「秩序」が生まれる。

しかし、管理が進むほど現場は窮屈になり、「自律性の危機」 が訪れます。「言われたことだけやればいい」という空気が広がりやすくなり、社員の主体性が薄れていきます。

③第3段階(〜50人程度):「権限委譲」で任せる時代
管理一辺倒の限界を感じた社長は、「任せる」ことを決断します。権限移譲で、部門やチームにある程度の裁量を渡すようになる段階です。

すると今度は、「コントロールの危機」 が訪れるようになります。各部門が独自に動き始め、全体の統制が取りにくくなる。「任せたつもり」と「実際の現場の判断」にズレが生まれやすくなるのです。

④第4段階(〜100人程度):「調整・仕組み化」で統合する時代
権限委譲の混乱を収めるために、さらに部門間の調整ルールや全社的な管理システムが整備される段階になります。

しかし、組織の仕組みが精緻になるほど、「形式主義の危機」 に陥りやすくなります。会議が増え、稟議が増え、新しいことを始めるのに何重もの承認が必要になる。組織がいわゆる硬直化の兆しを見せ始める段階です。

⑤第5段階(〜300人程度):「協働」で壁を越える時代
形式主義を打破するために部門横断的なチーム編成や、柔軟なプロジェクト型の働き方が求められます。ここでは組織内部だけでなく、外部との連携やアライアンスも含めた「協働」のOS が鍵になります。

いかがでしょうか。「ああ、うちは今ここにいるのかもしれない」と感じた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

大切なのは、どの段階の壁もその段階で正しかった経営のやり方が、「賞味期限切れ」になったサインだということです。

前の段階での成功体験が、次の段階では最大の障害になりうる。これがグレイナーモデルの核心であり、多くの経営者を苦しめている「フシ」の正体であると言えます。

3.「社長の馬力」が最大の武器だった時代の終わり──第1段階から第2段階への脱皮
ここから、多くの読者の方が今まさに直面しているであろう「第1段階から第2段階への移行」、すなわち「10人の壁」について、もう少し深く具体的に掘り下げます。

①会社の成長・人の増加に伴う違和感と問題化
創業期、社長の「馬力」は間違いなく、会社の最大の武器でした。誰よりも早く動き、誰よりも多く働き、誰よりもお客様のことを考えていた。その姿に惹かれて、仲間が集まってきた。

この時期の経営は、いわば「社長の脳内にあるOSで全てが動いている状態」です。判断基準も、優先順位も、顧客対応の基準も、すべて社長の頭の中にある。それらが暗黙の内に、社内に共有されている(と社長は思っている)。人数が少ないうちは、これで問題なく回ります。

しかし、人が増えるにつれて、この暗黙の共有は確実に破綻していきます。

「なぜ、あの社員はこんな判断をしたのだろう」
──それは、あなたの判断基準がその社員に伝わっていなかったからです。
伝えたつもりでも、言語化されていないものは伝わりません。

「なぜ、私がいないと何も決まらないのだろう」
──それは、決裁の基準と権限が明文化されていないからです。社員は「勝手に判断して怒られる」ことを恐れ、すべてを社長に上げてきます。

「なぜ、人を増やしたのに楽にならないのだろう」
──それは、業務の標準化がされていないまま人を入れたからです。新しい人が入る度に「社長が一から教える」というボトルネックが太くなるのです。

②違和感に対する逃げ構造
ここで、多くの経営者は、三つの「目先の逃げ道」に走りがちです。

一つ目は、「もっと自分が頑張る」 という個人戦の延長。睡眠を削り、休日を返上し、自分の稼働時間を限界まで引き上げる。しかし、人間の体力と、時間には上限があります。OSが古い状態でアプリを大量に動かし続けるようなもので、この道はどこかで必ず限界が訪れます。

二つ目は、「とりあえず人を増やす」 という対応。忙しいから採用する。
しかし、OSが変わらないまま人だけ増やしても「社長というボトルネック」を太くするだけです。指示待ちの人が増え、コミュニケーションのコストが膨れ上がり、むしろ混乱が加速しやすくなります。

三つ目は、「補助金や外部資金で一時しのぎをする」 という対症療法。設備を入れれば解決する、新しいシステムを導入すれば楽になる、と考える。
しかし、それを運用するOSが旧式のままでは、高価な道具がかえって現場の負担を増やすだけという結果になりかねません。

いずれも、「フシ」が発している「OSを書き換えなさい」というメッセージへの応答にはなっていません。根本的な構造、すなわち「仕組みそのもの」が変わらない限り、同じ種類の問題が形を変えて繰り返されやすいのです。

③組織の設計への移行
では、何が必要なのか。

端的に言えば、「社長の頭の中にしかなかったもの」を、組織の共有財産にする作業 です。

判断基準を言語化する。役割と責任の範囲を明確にする。情報共有の仕組みを作る。報告のルールを決める。

「そんな当たり前のことを」と思われるかもしれません。

しかし、この「当たり前」ができていないからこそ、多くの会社が10人の壁で立ち往生しているのです。

そして、ここに大きな葛藤が伴います。

創業期のあなたの最大の武器だった、「自分で全部やる力」「自分の感覚で判断する力」を、意識的に手放す必要があるということです。

これは簡単なことではありません。自分が築いてきたやり方を否定するように感じるかもしれない。「仕組みに落とす」ということは、自分の存在意義が薄れるように感じるかもしれない。

社員に任せるのが怖い。失敗したらどうするのか。お客様に迷惑をかけたらどうするのか。その恐怖は、当然のものです。同じ恐怖を、多くの成長企業の経営者が通ってきました。

しかし、その恐怖を乗り越えた先にあるのは、社長の喪失ではありません。社長が「現場の作業者」から、「組織の設計者」へと進化していくという、
新しいステージです。「管理のOS」を身に着けるようになります。


社長の経験と判断力は「自分で手を動かすこと」ではなく、「組織が正しく動く仕組みを設計すること」 に使われるようになる。それは、社長としてのより高い次元の仕事です。

4.管理が生んだ秩序、その先にある窮屈さ─第2段階から第3段階への試練
①10人の壁を超えて安心できたと思ったのに・・・
10人の壁を乗り越え、ルールや役割分担を導入し、組織に秩序が生まれた。社長はようやく少し楽になったかもしれません。報告の流れができ、会議で情報が共有され、判断が社長一人に集中しなくなった。

しかし、安心するのはまだ早いかもしれません。

30人に向かう過程で、今度は別の症状が表れ始めます。

「最近、社員が言われたことしかやらなくなった」
「新しいアイデアが現場から上がってこない」
「ルールを守ることが目的化して、顧客のための判断が後回しになりがち」

これが、第2段階の終わりに訪れる「自律性の危機」 です。

第1段階の混乱を収めるために導入した「管理のOS」が、今度は組織の活力を奪い始める。社長が「ちゃんとやれ」と管理を強化すればするほど、社員は「怒られないように」という防衛的・受け身的な姿勢になりやすく、挑戦や工夫が生まれにくくなる。

ここでよくある罠は、社長が「管理をもっと徹底すれば、問題は解決する」と考えてしまうことです。

チェックの項目を増やす。報告の頻度を上げる。マニュアルをさらに詳しくする。しかし、これは同じ処方で薬の量だけを増やすようなもので、根本的な原因には届きません。

②「管理のOS」から「委ねるOS」へ
本当に必要なのは、「管理のOS」から「委ねるOS」への書き換え です。
社員に一定の裁量を渡し、判断の余地を与え、失敗を許容する文化を作る。

社長の役割は「すべてを管理する人」から「方向性を示し、判断基準を共有し、結果を見守る人」、へと変わっていきます。

ここでも、社長の心の中では葛藤が起きます。「せっかく今まで作った秩序が壊れるのではないか」「任せて大丈夫なのか」と。

しかし、葛藤を避けて管理を強化し続けていくと主体的に動きたい社員ほど息苦しさを感じ、組織の活力が徐々に失われていく可能性があります。なぜなら、意欲の高い人ほど「自分の判断で価値を生み出したい」と願っているからです。

第2段階から第3段階への移行は、社長にとって「管理で安心を得たい自分」と「任せることで組織を育てたい自分」との戦いです。

そしてこの戦いもまた、経営者としての能力不足ではなく、OSの賞味期限が告げる次のアップデートの通知 なのです。

5.その先にも「フシ」は続く──第4段階・第5段階の景色
第3段階(〜50人)を越えると、第4段階(〜100人)では部門間の調整や全社最適の仕組みが求められます。

しかし、仕組みを精緻にしすぎると、今度は「会議のための会議」、「承認のための承認」が増殖し、組織が硬直化する「形式主義の危機」 に直面するようになります。

さらに第5段階(〜300人)になると、既存の組織構造だけでは対応しきれない複雑さに直面し、部門横断的な協働や、外部とのアライアンスを含めた新しいOSが必要になります。

ここで強調しておきたいのは、「壁を越えたら終わり」ではないということ です。10人の壁を越えても、30人の壁が来る。30人を越えても、50人の壁が来る。企業の成長とは、OSを何度も書き換え続ける終わりなき旅です。
これを聞いて「果てしなくて気が遠くなる」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、裏を返せば壁が生じるのは、あなたの会社がそこまで成長した証拠 でもあるのです。フシが訪れること自体が、前に進んでいる証明です。

なお、今回は5つの段階の全体像をお伝えしました。各段階で具体的に何が起き、どのようなOS更新が必要になるのかについては、後日改めてシリーズで詳しく解説できればと考えております。今日の「地図」を頭に入れた上で、ぜひそちらもお待ちください。

6.「フシ」で試されているのは、投資額ではなく経営OSの入替・進化
ここで、この連載のテーマである「経営OS」を起点として、困難に出くわす時に社長がよく考える「補助金」の関係に立ち戻ります。初日にお伝えした通り、補助金は「ガソリン」の関係です。エンジン(経営OS)が整っていない車にガソリンを注いでも、まともに走れません。

グレイナーモデルが教えてくれるのは、まさにこのことです。各段階の「壁」は、お金で越えられるものではありません。設備投資やシステム導入は、OSが整った上で初めて機能するものです。

10人の壁に直面している会社が、「補助金で最新の設備を入れれば楽になるだろう」と考えたとします。

しかし、その設備を誰が運用するのか。運用ルールは誰が決めるのか。トラブルが起きたとき、誰がどう判断するのか。そのすべてが「社長の頭の中」にしかないのであれば、高価な設備はかえって組織の負担を増やしてしまいかねません。

30人の壁に直面している会社が、「補助金でDXを推進しよう」と考えたとします。しかし、現場に自律的に判断する文化が育っていないような組織にDXツールを入れても、「誰も使わないシステム」が、また一つ増えるだけになりやすいのです。

壁を越えるために本当に必要なのは投資額ではなく、経営OSを見直し、書き換えることです。補助金は、その覚悟を決めた後に、OS刷新を加速するための「追加燃料」として使うもの。この順番を間違えないことが大切です。

7.おわりに──あなたの会社の「ギシギシ」は、次のステージへの招待状
今日お話した内容を振り返ります。

企業の成長は、竹のように「フシ」を作りながら伸びていくものです。フシの部分では、必ず軋みや混乱が起きる。それは異常ではなく、今のOSが役割を果たし終え、次のバージョンへの更新が必要になったサインです。

特に、従業員が10人前後に達した段階で感じる「社長の限界感」は、あなた個人の能力の問題ではありません。創業期の「社長の馬力で回す経営OS」が、組織の成長に追いついていないだけです。

そして、そのフシを目先の対症療法──頑張りの上乗せ、場当たり的な採用、補助金による一時しのぎ──でやり過ごし続けると、同じ構造の問題が、時間を経てより大きな形で再び現れることになりがちです。

2日目にお伝えした通り、マクロ環境は待ってくれません。毎年の最低賃金の上昇、人手不足の深刻化、価格転嫁の困難さ。これらの外圧は、旧式のOSで走り続ける会社を、容赦なく淘汰していきます。

だからこそ、今この瞬間に「フシ」を感じているあなたにお伝えしたい。
その痛みは、あなたの会社が「まだ伸びたい」と言っている声です。

竹がフシを作るのは、そこから先、もっと高く伸びるためです。フシのない竹は、折れます。あなたの会社の「ギシギシ」は、折れないために必要な、次のステージへの招待状なのです。

その招待を受け取るかどうかは、あなた次第です。

【最後に】
なお、グレイナーモデルは各段階の、典型的な課題を示していますが、
組織によってはより大規模な組織に該当するような問題が、少人数の段階でも生じたり、逆に100人以上の組織になっても、より小さい組織で発生する問題も生じたりします。また、成長段階で、課題が各段階重なり合っていることもありますので、問題を容易に発見できないことも多々あります。

このテーマに関して相談をご希望の場合は、こちらのお問い合わせフォームからご連絡ください。
※対象:原則として設立3年以上(最低2年以上)・従業員10名以上(5名前後から応相談)の法人様とさせて頂いております。

明日は、この「フシ」で多くの経営者が陥る「目先の罠」──補助金依存が、なぜ経営OSを腐らせるのかについて、さらに深く切り込みます。


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