石垣島から名寄へ――二つのすばるを結ぶ旅【前編】
第一章 南の星から始まる旅
石垣島にある二つの宇宙への窓
石垣島には、宇宙へ向かう入口が二つある。
ひとつは、バンナ公園の丘に建つ石垣島天文台。
もうひとつは、国立天文台の電波望遠鏡施設であるVERA石垣島観測局だ。
VERAは直径20メートルの電波望遠鏡を持ち、日本各地の観測局と連携してVLBI観測を行う研究施設である。銀河系の立体構造を測定するという、極めて高度な天文学研究の拠点だ。
研究施設というよりは「星空と人をつなぐ場所」と言ったほうが近いかもしれない。
バンナ公園の山道を上がった先、静かな森の中にその施設はある。
昼間は展示室や解説コーナーが公開され、夜になると天体観察会が開かれる。観光地としての石垣島とは少し違う、静かな“もう一つの顔”がここにはある。

バンナ公園の山の中腹に建つその施設は、決して巨大ではない。むしろ、静かな地方の研究施設という雰囲気だ。
しかし、ここには九州以南最大級の望遠鏡がある。
むりかぶし望遠鏡
石垣島天文台の主役は、口径105cmの反射望遠鏡「むりかぶし望遠鏡」である。

むりかぶし望遠鏡。八重山の言葉で「すばる」を意味する。
冬の夜空で有名なプレアデス星団のことである。
日本本土から見上げるすばるも美しいが、南の島の空はまた違う。
石垣島は北緯24度に位置する。
そのため本州では地平線近くにしか現れない天体も、ここでは比較的高い位置に昇る。
例えば南十字星やカノープスといった南天の星。
条件が良ければ、それらの天体を観測することもできる。
南の星を見る拠点として、この望遠鏡は設置された。
昼間に訪れると、巨大なドームの中で望遠鏡が静かに天井へ向かって構えている。夜になれば、その望遠鏡が宇宙へ向かって動き出す。
そして、この天文台にはもう一つ、面白い企画がある。
日本最長距離のスタンプラリー
石垣島天文台には、日本でも珍しいスタンプラリー企画が存在する。
その距離は、なんと3200km。
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— 石垣島天文台 (@IshAstO_naoj) April 26, 2025
南と北で3,200km天文台スタンプラリー開催中✨
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本日4/26から今年度の #石垣島天文台 と #なよろ市立天文台 のスタンプラリーが始まりました。
3200kmにもおよぶ、おそらく日本最長のスタンプラリー💫ぜひ挑戦してみてください❗️
詳細は、なよろ市立天文台サイトにて👇https://t.co/ojyxoAhVPv pic.twitter.com/WIDKDC4olQ

このスタンプラリーは、北海道の
名寄市立天文台きたすばるとの共同企画だ。
石垣島と北海道名寄市。
日本列島の南と北を結ぶ距離は約3200km。
つまり、このスタンプラリーは
日本の南北を縦断する天文台巡りなのである。
名寄市立天文台きたすばるには、口径1.6mの反射望遠鏡「ピリカ望遠鏡」がある。国内でも有数の大型公開天文台として知られている施設だ。
南の石垣島と北の名寄。
どちらの天文台にも「すばる」に由来する名前が付いている。
石垣島の「むりかぶし」
名寄の「きたすばる」
同じ星団の名前が、日本の南北で呼応している。
参加方法はシンプルだ。
両施設を訪れ、スタンプを押印してもらう。条件を満たせば記念証が授与される。
だが、この企画の面白さは記念品ではない。
南と北、二つの空を自分の足でつなぐことに意味がある。
石垣島では南十字星を探し、
名寄では北極星を見上げる。
緯度差が生む星空の違いを体感する。
それは単なる観光ではなく、地球の丸さを実感する旅でもある。
※スタンプラリーの詳細は名寄市立天文台きたすばる公式サイトでも紹介されている
石垣島天文台を訪れたのは、2025年2月11日。
そのとき押したスタンプが、この旅の出発点になった。
そして11日後。
私は北海道へ向かっていた。
第二章 名寄アタック
札幌前泊と天候判断
2025年2月21日、石垣島天文台を訪れてから10日後、私は札幌にいた。 名寄への日帰り遠征のため、すすきので前泊する。
北海道の旅でまず確認するのは天候だ。 札幌が晴れていても、内陸の名寄では雪ということがある。
翌日の予報は晴れ。 列車を乗り継ぎ、現地ではレンタカーを手配して、名寄アタックを決行する。
ライラックと快速なよろ
移動ルートはこうだ。
札幌 10:00発
特急ライラック11号
旭川 11:25着
旭川 11:30発
宗谷本線 快速なよろ1号
そして名寄へ向かう。

問題は、旭川での乗り継ぎ時間だった。 冬の北海道で数分の接続には、妙な緊張感がある。
札幌から旭川までは、JR北海道の特急「ライラック」。 10時発の列車に乗れば、所要約1時間25分で旭川へ到着する。
本来であれば「えきねっと」の割引きっぷを活用したいところだが、前日では普通車指定席の割引はほぼ完売していた。しかし、グリーン車には割引枠が残っていた。 迷わず確保する。
旭川に到着すると、宗谷本線のホームへ移動する。 ここから名寄までは、宗谷本線を北上する快速「なよろ」だ。 接続はわずか数分。雪のホームを急ぎ足で移動することになる。 快速なよろは、1両編成のハイブリッド気動車で、ワンマン運転だった。

ICカードの境界線
ここで一つの境界線に気づく。
旭川以北では、交通系ICカードが使えない。
札幌ではSuicaが使える。 旭川までも問題ない。
しかし、宗谷本線に入ると、その常識が突然途切れる。 途中駅で降りようとした乗客がSuicaをタッチしようとして、運転士に止められる場面が何度かあった。都会では浸透しているICカード決済も、ここでは使えない。
千歳や札幌からそのまま移動してきたのだろうが、旭川以北は対応区間外だ。 ワンマン列車のため、精算は運転席横の運賃箱。現金を探し、運賃表を確認し、やり取りが続く。 一駅ごとの数十秒。だが、それが積み重なると、遅延が少し気になってくる。 宗谷本線はほぼ単線で構成されている。遅れは現地の滞在時間にも響く。 時計を見ながら、列車は雪原を北へ進んでいった。

第三章 北の星の拠点へ
名寄到着
快速なよろは大きな遅れもなく、名寄に到着した。 札幌から名寄までは、合計で約3時間。

空は快晴。空気は冷たいが、乾いている。
駅から少し離れたトヨタレンタカーへ、徒歩で向かう。タクシー利用も考えたが、帰りの時間は決まっている。地方では、そもそもタクシーを時間どおりにつかまえられる保証もない。
予約は6時間だが、実際に使うのは3時間ほど。事前登録を済ませていたので、手続きはすぐに終わった。
雪道を走り、市街地を抜けて丘へ向かう。

名寄市立天文台きたすばる
丘の上に白いドームが見えてきた。 石垣島天文台に比べると、施設はかなり大きい。北海道を代表する公開天文台のひとつだ。

ここには、口径1.6mの反射望遠鏡「ピリカ望遠鏡」が設置されている。
「ピリカ」とは、アイヌ語で「美しい」を意味する言葉だ。
むりかぶし望遠鏡よりも一回り以上大きい主鏡を持ち、日本でも有数の大型公開望遠鏡として知られている。
さらにこの望遠鏡は、北海道大学札幌キャンパスから遠隔操作で観測することも可能だという。

南のむりかぶし望遠鏡から、北のピリカ望遠鏡へ。
3200kmのスタンプラリーの北の拠点に、ついに到着した。 南十字星を探した島から、北緯44度の空へ。
3200kmの旅は、まだ続く。
