🎹【小6予選編第3話】バッハは祈りだった。秒針のように刻む『点』のレッスン
スペック鬼の神セブン先生との「動画添削レッスン」。いよいよ始まった本気のテコ入れは、もはや「音の練習」を通り越して「職人修行」の域に達していました。
最初のターゲットは、バッハ作曲『インベンション13番』。
全15曲あるインベンションの中で、人気・知名度ともにTOP3に入る(と思う)一曲。CMやドラマのBGMでも頻繁に使われる、まさに「バッハの顔」ともいえる名曲です。
インベンションは昨年の予選でも弾いたし普段からレッスンでも学んできたので、娘も私も「構造はバッチリ!」と高を括っていたのですが、神セブン先生から届いたフィードバック動画は、私たちの予想を遥か高く飛び越えていました。
「形はできていますね。では、次は、この曲の『痛み』や『悲しみ』、そしてバッハの『祈り』を音に乗せましょうか」
……いのり? いたみ?
ポカンとする私をよそに、先生の解説はさらに研ぎ澄まされます。
「バッハは敬虔なキリスト教徒でした。だからこの曲には、単なる綺麗さや柔らかさ以上に、自分を厳しく律する『敬虔さ』と、一分の隙もない『緊張感』が必要なんです。一歩一歩、逃げ場のない正確さで時計の針が進んでいくような、神聖なイメージを持ってください」

画面越しに流れる神セブン先生のお手本は、まさに「神の前で襟を正す」ような、一分の隙もない美しさ。
あまりの神々しさに、私はリビングで思わず手を合わせそうになりましたが、先生の指導はさらに具体的でストイックでした。
「今は指の腹の『面』で撫でるように弾いていますが、もっと第二関節を曲げてください。指先を鋭い『針』にして、鍵盤の中にある一点だけを狙い撃つ『点』のタッチに変えましょう。
鍵盤の底にある一点だけを狙い撃ち、そこに全てのエネルギーを凝縮させる。そうして生まれる、濁りのない、純粋な音色を自分自身の耳で探し当ててください。」

「そんなの針の穴に糸を通すより難しくない?」と早々に白旗を揚げた私とは対照的に、娘は何かを掴んだような真剣な眼差しでピアノに向き直りました。
「……分かった。お母さん、これ、一音でも迷ったら針が止まっちゃうんだわ」
え、何その求道者みたいな悟り。
それ以来、我が家の練習風景は一変。
「もっと関節立てて! 針よ、あなたは秒針なのよ!」
「わかってる! 今、集中してるから!」
部屋に飛び交う、もはやピアノの練習とは思えない謎の激励。

しかし、娘の指先から「なんとなく綺麗」な音は消え、ピリッとした緊張感のある、芯の通った音が響き始めました。
「点」のタッチで刻む、厳格な時計の針。
練習動画を神セブン先生へ送信。
送信ボタンを押した瞬間、私たちの指先に宿った「神への祈り」が、デジタルの波に乗ってカリスマの元へと旅立っていきました。

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