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その人は、もう“声”でできている|「銀座四宝堂文具店Ⅵ」読書中

📕『銀座四宝堂文具店Ⅵ』

風に揺れる柳並木と、どこか時代を取り残したような円筒形のポスト。
そのすぐそばに、静かに息をしている文房具店――四宝堂。

天保五年創業という時間の層をまといながらも、いまもなお人が集まるのは、きっと店主・宝田硯という存在がいるからだと思う。
物ではなく、人に触れる店


6巻目。
ここまで来ると、私の中でひとつの変化が起きた。

宝田さんのが、固定されてしまった。

それは文字から立ち上がる想像ではなく、
耳の奥に棲みついてしまった、確かな輪郭。

ナレーターである児玉卓也さんの声以外では、もう再生できなくなってしまった。

静かで、柔らかくて、ほんの少し距離を保ちながら、それでもこちらを見ている声。
その声音が、宝田さんという人物の温度を、丁寧に掬い上げていく。

調べてみると、アニメ作品にも数多く出演している。
けれど、この作品で感じるのは演技というよりも、もっと生活に近いもの。
呼吸の延長のような、日常の延長のような声。

だから思ってしまう。

宝田さんは、演じられているのではなく、ただ、そこにいるのだと。

文房具を丁寧に扱う人は、きっと、記憶の扱い方も丁寧だ。

誰かの困りごとに静かに寄り添い、
ほんの少し先回りして差し出される気遣い。

その姿は、どこか英国紳士の執事のようで、
派手さはないのに、不思議と心がほどけていく。

今回語られるMONO消しゴムの話も、単なる製品の説明では終わらない。
そこには、「長く愛される理由」という時間の堆積が、きちんと息づいている。

文房具店が少しずつ姿を消していく今、
四宝堂のような場所は、現実よりもほんの少しだけ理想に近い。

でも、その少しの理想が、こんなにも心を支える。

ページをめくる代わりに、耳でその空間に足を踏み入れるたび、思う。

こういう場所が、どこかにまだあるかもしれないと、信じていたい。

物語を聴いているはずなのに、
なぜか思い出しているのは、「ものを大切にする感覚」。

それはきっと、宝田さんの声が、
消耗しない時間をそっと手渡してくるから。

第6巻、まだ途中。

それなのに、もう少し寂しい。

終わりに近づいていることに、気づいてしまったから。

紙の本では、すでに7巻目が刊行されている。
だからこそ、次は耳で出会える日を、静かに待ちたい。

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