【メモ】3Gとタバコの自販機が消えた日
2026年3月31日。NTTドコモが長年提供し続けた3G回線が、ついに停波となりサービスを終了した。
思い出のガラケー。iモードで喰らったパケ死。彼女からのメールを待つ「センター問い合わせ」のドキドキ感。僕の社会人青春時代は、ほぼ3Gの歴史の中にあった。
そんな思い出の区切り目を待つ冬の日、会社に一本の電話が入った。二階に設置しているタバコの自販機の業者Tさんからだった。内容はこうだ。
『3G回線の終了に伴い、年齢確認機能としてのtaspoが使えなくなる。運転免許証やマイナンバーカードでの識別ユニットに換装しなくてはならない。費用の15万円を負担して欲しい』
なるほど……。taspoは3G回線を使っていたのか。それなら通信ができなくなるので年齢確認機能に支障をきたすだろう。まあ、代替機能が準備されているのなら、ユニット換装して販売を継続するのは企業として当然の対応だろう。15万くらいでできるのか。
…………。
なぜ、うちが負担を??
いや、年齢確認できなければタバコは販売できないので、ユニット換装はしょうがない。しょうがないのだが、なぜその費用を私が出さねばならないのだ。タバコ屋が商売をするための機械の金を……うちが?
「Tさん。ユニット換装の必要性は理解しました。そして、それを実施してサービス提供を継続して頂ける意向もありがたい。ですが、御社の商売道具への投資をうちがするというのはいかがなものかと思う」
「ですが、とらのすけさん。換装しないとタバコの販売ができなくなるんです。法改正と大手のサービス終了に伴う変更なので、なにとぞご理解ください」
「いや、理解はするんですよ。その費用をうちが負担するという部分が承服しかねると言っているんです。うちは利便性を得るため、御社が商売する場所と電気を提供している。そこで売り上げた利益については御社の利益です。設備投資は当然そちらの経費として利益から捻出すべきではないでしょうか」
「でも、これはうちの方針で変わることではなく、taspoが使えなくなるからなんです」
「いや、それはわかるんですが。うちが費用を出すなら、ユニットは当然うちの資産になります。解約時はユニットを取り外して頂戴しますよ」
「それは無理です。自販機はうちの機械ですから」
「だから……。自販機はそちらの機械だからこそ、販売継続のための投資はそちらでするのが当然ではと言っています。それが通るなら、取引先に『営業車が壊れてお宅に営業いけないから修理代を出してくれ』という理屈も通ってしまいますよ」
「それは屁理屈ですよ」
「いえ、道理です。では、減価償却5年相当額で月2500円程度を設置マージンで返却して相殺してください」
「それもできません」
結果、話し合いは平行線。
タバコの業者は3月末をもって自販機を撤去することを決めた。
僕は喫煙所前の自販機という利便性を失い、タバコが切れるたびに徒歩2分のコンビニへ買いに行かねばならなくなった。
業者はうちから撤退したことで、年間400万円程度の売り上げを失った。自己投資でも数ヶ月で元が取れただろうに。
どちらも損をしたことには変わりない。
喫煙所の前にあったはずの自販機は、きれいに消えていた。
若手社員に笑われる。
「とらのすけさんが詰めるからですよ」
うん、その通りだと思う。
ポケットの中の小銭を指で弾く。コンビニまで、徒歩二分。たったそれだけの距離が、今までより少しだけ遠くなった気がした。
僕は、理屈屋である。
口喧嘩で負けたことはないが、気付けば勝負に負けている。
