「自社の事業とは何か」を、顧客の立場から考える
会社案内などで、「御社は何をしている会社ですか」と聞かれたとき、皆さんはどのように答えるでしょうか。
製造業であれば、「金属加工をしています」「部品を製造しています」と答える会社が多いと思います。
もちろん、それは間違いではありません。
しかし、それは自社が行っている作業を説明しているだけで、顧客にどのような価値を提供しているのかまでは表していません。
経営学者のピーター・ドラッカーは、事業とは何かを決めるのは顧客である、と述べています。
会社側が、自分たちは金属加工業であると考えていても、顧客は単に金属を削ってもらうためだけに、その会社へ仕事を依頼しているとは限りません。
例えば顧客が、新しい製品を作りたいと考えているとします。
しかし、頭の中に構想はあっても、どのような材質を使うのか、どのような形状にするのか、どのような加工方法を選ぶのかまでは決まっていないことがあります。
試作品は作れても、量産方法が分からない場合もあります。
また、図面は完成していても、そのままでは加工が難しかったり、コストが高くなったりすることもあります。
このような場合、加工会社が行っている仕事は、単に金属を削ることだけではありません。
顧客の頭の中にある構想や要望を、実際に製造できる製品や工程に落とし込んでいるとも言えます。
つまり、表面的には「金属を加工する会社」であっても、顧客から見れば、
「自分たちの構想を、実際に作れる形にしてくれる会社」
なのかもしれません。
このように考えると、会社の事業の見え方が変わってきます。
例えば、運送会社の仕事は、荷物を運ぶことだと考えられます。
しかし、顧客から見れば、必要なものを、必要な場所へ、必要な時間に届けることが価値です。
飲食店の仕事も、料理を作ることだけではありません。
顧客によっては、家族と楽しい時間を過ごす場所であったり、仕事の合間に短時間で食事を済ませる場所であったりします。
同じ商品やサービスでも、顧客が求めている価値は異なります。
そのため、自社の事業を考えるときには、「自社は何を作っているのか」だけではなく、「顧客は何のために自社を利用しているのか」を考える必要があります。
この問いに答えるためには、経営者や営業担当者の想像だけでは不十分です。
実際に顧客の声を聞く必要があります。
ただし、長いアンケートを何度もお願いすると、顧客の負担になります。
自社を理解するためのアンケートが、顧客にとって迷惑になってしまえば、本末転倒です。
そのため、特別な調査を行うよりも、日常の商談や見積もり、納期確認などの中で、顧客の困りごとや変化を聞く方が現実的です。
例えば、
「最近、調達で困っていることはありませんか?」
「今後、増えそうな製品や減りそうな製品はありますか?」
「当社で対応できず、他社へ依頼しているものはありますか?」
「当社の価格水準はどうですか?」
「価格以外で評価頂いているところはありますか?」
「改善してほしいところはありますか?」
といった質問です。
毎回すべてを聞く必要はありません。
通常の会話の中で、一つずつ確認し、営業担当者が社内へ持ち帰ることが重要です。
そして、集まった顧客の声を営業部だけにとどめず、製造、設計、資材、品質などの部署と共有します。
顧客の要望を聞くのは営業の仕事ですが、それを実現可能な製品や工程へ変えるためには、複数の部署の力が必要だからです。
営業は、顧客の構想や困りごとを発見する。
設計や技術部門は、それを図面や仕様、工程へ落とし込む。
資材部門は、必要な材料や外部の技術を組み合わせる。
製造部門は、それを安定して繰り返し作れる状態にする。
品質部門は、顧客が安心して使用できることを保証する。
このように考えると、各部署の仕事も、単なる社内作業ではなく、顧客価値を実現するための役割として整理できます。
自社の事業を考える際には、次の三つの質問が役立ちます。
一つ目は、自社は具体的に何をしているのか。
二つ目は、顧客は自社を何のために利用しているのか。
三つ目は、顧客が本当に実現したいことは何なのか。
例えば、
「金属を加工している」
という答えから、
「顧客の構想を、製造できる形にする」
という答えへ進むことができれば、営業活動や設備投資、人材育成の方向も変わってきます。
単に加工能力を増やすだけでなく、顧客の構想を理解する力、加工方法を提案する力、社内外の技術を組み合わせる力も重要になるからです。
自社の事業とは、会社が一方的に決めるものではありません。
顧客が自社の何に価値を感じ、何を期待しているのかによって決まります。
自社は何を作っている会社なのか。
そして、顧客にとっては、何を実現してくれる会社なのか。
一度、この二つを分けて考えてみると、自社の事業がこれまでとは違って見えてくるかもしれません。
