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ごめんねも、本心だった|ショートショート


ひとりだけどうしても苦手な女の子がいた。


眉毛が濃くていつもフリフリピンクの洋服を着てた、よくしゃべる子。


意地悪なことを言ってくることがあったし、家がお金持ちで、可愛い文房具や洋服を買ってもらえることを自慢気に話してくる子だった。

それが羨ましいとも思えないし、ただ聞き流せばいいだけのことなのに、笑いながらまたその話?と、上手に流せなかったからいつも一方的に話を聞いていた。


その日は、体育のプールの授業だった。


照りつける太陽がコンクリートでできたプール床の温度をぐんぐん上げて、2秒も足の裏をつけられないくらい熱くなっていた。


シャワーエリアに向かう途中、またいつもと同じようにその子は自慢話。


あまりの暑さに、その子の声が遠くに聞こえるようでボーッとしていた。


そして何を思ったのか、シャワーの順番待ちをしている彼女の背中を突然後ろから強く押してしまったのだ。

この時の記憶は曖昧で、シャワーに勢いよく突っ込んだと思った次の瞬間、その子はバランスを崩してコンクリートの床に倒れた。

ジャリっと鈍い音がして、両膝から大量の血が出ていた。


ドクドクと流れる鮮血は、いつものシャワー風景に登場してこない色彩だった。


シャワーの水は絶えずザーーーっと流れていて、あの子の泣き声、周りの悲鳴、水音、血が混ざって、全部全部まとめて排水溝へ吸い込まれていった。


転んだ瞬間から大泣きしていたけれど、一体何が起きたのか分かっていないようにも見えた。


だから多分、私が押したとは思っていない。
先生が来てすぐにこの転倒事件は「不注意で転んだ」という形に整えられていった。


濃い眉毛を歪めてメソメソと泣きながら保健室に行く姿を見て、なんて事をしてしまったんだと後悔したと同時に、いい気味だと笑ってしまった自分がいた。



その後、私はその子と距離を取るようになった。意識的に避けていた、と言った方が正しいかもしれない。


「あの時…押したでしょ。」
そう言われるのが怖かった。

もしそう聞かれたら、嘘が下手な私は違うよと言えなかっただろう。


大人になってから知ったのは、相反する二つの感情が同時に存在することは、別に珍しくないということだった。


罪悪感と、軽い快感。
ごめんねと、いい気味。

どちらかが嘘だったわけじゃない。
どちらも、本心だった気がする。


夏が来る度に時々思い出すけど、この時のことは誰にも話していない。