「送る・読む・まとめる」をAIに任せたら、調達課長の仕事はどう変わったか
前回の記事では、ChatGPTに「最悪のシナリオ」を考えさせることで、管理職が見落としやすいリスクを事前に洗い出す方法を紹介しました。
しかし、リスクに気づくだけでは仕事は終わりません。
取引先へ確認メールを送り、届いた回答を読み、内容を整理し、対応の優先順位を決める必要があります。
調達課長として働く私にとって、この「送る・読む・まとめる」は、日々繰り返される業務でした。
そして気づけば、一日の多くの時間をメール処理に費やしていました。
ChatGPTやCopilotを業務に取り入れてから、この流れは大きく変わりました。
AIに任せたのは判断そのものではありません。
判断の前段階にある、大量の定型作業です。
今回は、「送る・読む・まとめる」をAIに任せることで、調達課長の仕事がどのように変化したのかをご紹介します。
調達課長なのに、メール処理で一日が終わる
調達部門には、日々さまざまなメールが届きます。
納期遅延の連絡
生産能力の回答
品質問題の報告
値上げの要請
工程変更の申請
見積書の提出
材料不足の情報
社内からの確認依頼
いずれも簡単に無視できる内容ではありません。
特に負荷が大きいのは、複数の取引先へ同一内容を一斉に確認する業務です。
例えば、供給リスクを確認するために100社へ次のような質問を送るケースがあります。
現在の生産能力に問題はありませんか。
材料の入手状況に懸念はありませんか。
今後3か月以内に納期へ影響する可能性はありますか。
100社への送信自体は、一斉メールの仕組みを使えば短時間で完了します。
しかし本当に負荷がかかるのはその後です。
取引先からの回答は、同じ質問に対しても表現や粒度が大きく異なります。
問題ありません。
現時点では問題ありませんが、今後の受注状況によっては残業対応が必要です。
材料の入荷が遅れており、一部品目に影響する可能性があります。
詳細は添付資料をご確認ください。
これらを一通ずつ確認し、重要度を判断し、Excelへ転記する。
未回答企業を抽出し、再送対応を行う。
以前は、この一連の作業だけで数時間を要していました。
1.「送る」をAIに任せる
最初にAIへ任せたのは、取引先へ送付するメール文案の作成です。
従来は、伝達内容を整理し、文章を作成し、失礼のない表現かを確認する必要がありました。
さらに、必要な回答が得られるよう、質問の構成や順序にも配慮が求められます。
現在は、ChatGPTに以下のように指示しています。
取引先へ、生産能力および材料調達リスクを確認するメールを作成してください。
回答期限は8月21日です。
回答項目は箇条書きとし、返信しやすい形式にしてください。
丁寧かつ要点が明確に伝わる文章にしてください。
すると、数秒でメールのドラフトが生成されます。
ただし、そのまま送信するわけではありません。
会社名、対象品目、期限、表現などは人が確認し、必要に応じて修正します。
AIに任せているのは「ゼロから文章を作る工程」です。
最終確認と送信判断は人が行います。
また重要なポイントとして、回答フォーマットの設計があります。
生産能力:問題なし/懸念あり
材料調達:問題なし/懸念あり
納期影響:なし/あり
影響開始時期:
対象品目:
必要支援:
このように回答形式を統一することで、後工程の集計負荷が大幅に軽減されます。
AI活用においては、「どうまとめるか」だけでなく、「どう回答させるか」が重要になります。
2.「読む」をAIに任せる
次に変化が大きかったのは、受信メールの確認プロセスです。
従来は受信トレイを上から順に確認していました。
しかし件名だけでは重要度が判断できないケースも多く存在します。
「ご連絡」
「確認のお願い」
「今後の対応について」
一見すると通常の連絡でも、本文には「来週から供給停止」といった重要情報が含まれていることがあります。
そこで、社内ルールの範囲内で利用可能なAIを活用し、以下の項目を抽出するようにしました。
件名・送信者
要点
重要度
必要対応
回答期限
返信案
さらに、優先順位付けの基準も明確にしています。
納期遅延
品質問題
供給停止
値上げ要請
承認依頼
期限が近い案件
これにより、すべてのメールを同じ順序で処理する必要がなくなりました。
まずAIの要約で全体像を把握し、重要度の高いものから原文を確認します。
AIに判断を委ねているのではなく、「人が確認すべき順番」をAIに整理させている形です。
3.「まとめる」をAIに任せる
最も効果が大きかったのは、取引先回答の集約業務です。
回答データをAIに渡し、次のように指示します。
取引先からの回答を会社別に整理してください。
「問題なし」「要確認」「緊急対応」の3段階に分類してください。
懸念内容、対象品目、影響時期、必要対応を一覧化してください。
未回答および回答が曖昧な企業も抽出してください。
すると、表現の異なる回答から共通項を抽出し、一覧表のドラフトを作成してくれます。
分類状況次の対応問題なし現時点で懸念なし定期フォロー要確認一部懸念あり追加ヒアリング緊急対応供給影響が顕在化対策会議・支援判断回答不明確判断材料不足再確認未回答期限内未回答再送・電話確認
ただし、AIの出力をそのまま最終成果物として扱うことはありません。
必ず原文と照合し、内容の正確性を確認します。
AIが整理し、人が確定する。
この役割分担が重要です。
AI導入前と導入後で変わったこと
AI導入前後で、業務の時間配分は大きく変化しました。
AI導入前AI導入後メールを一から作成AIドラフトを修正受信順にメール確認重要度順に確認手作業で転記AI集約結果を検証全社を均等に対応重点企業に集中作業後に判断早期に判断へ移行
削減されたのは業務そのものではなく、「管理職が手作業で行う必要のない工程」です。
その結果、以下の業務に時間を再配分できるようになりました。
供給リスクの高い取引先対応
納期遅延の原因分析
需要と供給能力の突合
値上げ要請の妥当性確認
部下との対応方針検討
上申資料の整理
取引先との対策協議
AIが生み出したのは単なる余剰時間ではなく、「意思決定に使える時間」でした。
調達課長の仕事は「全件処理」から「例外対応」へ
100社から回答が返ってきても、すべてを同じ深さで確認する必要はありません。
本来注力すべきは、供給リスクが顕在化している一部の企業です。
AIによる一次整理により、業務は以下のように分解されました。
通常案件:AIで整理
注意案件:担当者が確認
重要案件:管理職が判断
調達課長の役割は、全件処理ではなく、
異常の早期検知、適切なエスカレーション、意思決定です。
「送る・読む・まとめる」をAIに任せることで、ようやく本来の管理業務に集中できるようになりました。
AIに任せてはいけないこと
一方で、すべてをAIに委ねることはできません。
以下は必ず人が確認すべき領域です。
宛先・会社名・対象品目
回答期限・数量条件
添付資料の有無
納期・品質・価格の最終判断
AI要約と原文の整合性
対外表現の妥当性
機密情報・個人情報の取扱い
情報セキュリティルール
AIは高精度な文章を生成できますが、誤りを含む可能性もあります。
そのため、AIの出力は「完成品」ではなく「精度の高い下書き」として扱う必要があります。
今日から使える3つのプロンプト
1.取引先への依頼メール作成
取引先へ〇〇を確認するメールを作成してください。
回答期限は〇月〇日です。
回答項目を箇条書きにし、返信しやすい形式にしてください。
丁寧かつ要点が明確な文章にしてください。
2.受信メールの優先順位整理
以下のメールを「緊急」「要対応」「情報共有」に分類してください。
各メールについて要点、対応内容、期限、返信案を整理してください。
納期遅延・品質問題・供給停止・値上げ・承認依頼を優先してください。
不明点は「要原文確認」としてください。
3.取引先回答の集約
以下の回答を会社別に整理してください。
「問題なし」「要確認」「緊急対応」に分類し、懸念内容・対象品目・影響時期・対応方針を一覧化してください。
未回答・曖昧回答・追加確認が必要な企業も抽出してください。
まとめ――AIに仕事を奪われたのではなく、本来の業務を取り戻した
「送る・読む・まとめる」は本来必要な業務です。
しかし、管理職がすべてを手作業で行う必要はありません。
AIにドラフトを作らせる。
AIに重要情報を抽出させる。
AIに回答を整理させる。
そして人が確認し、判断し、対話する。
この役割分担により、調達課長の仕事は「メール処理」から「リスク判断」へと変化しました。
AIは代替ではなく、本来業務へ戻るための支援ツールです。
ただし、AI活用が進むほど新たな課題も生まれます。
「あの資料はどのチャットにあったのか」
「どこまで指示したのか」
「同じ説明を繰り返している」
業務は効率化された一方で、今度はAI管理という新たな負荷が発生し始めました。
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AI活用により業務は効率化しましたが、その一方で新たな混乱も生まれました。
どのチャットに何を保存したのか分からない
指示内容の履歴が追えない
同じ説明を繰り返してしまう
次回は、実際に経験した3つの失敗と、それが「AIを役割別に分ける」という発想につながった経緯を紹介します。
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