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医師が、レントゲンを見たまま5分間、動かなかった。

恋愛相談に230回以上乗ってきたりんのすけが、
人生で一番長い5分を過ごした話。

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会社の健康診断で、引っかかった。
肺が要検査だと。

まあ、そんなこともあるやろ。
そのくらいの気持ちで、
検査結果を持って、病院に行った。

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診察室。

医師が僕のレントゲン写真を、
シャウカステンに差した。
あの、白い光の箱ね。

そして、そこから。

医師が、動かなくなった。

写真を、見たまま。
一言も、喋らない。

それまで笑顔があった医師が、
真顔になって、こちらの存在を無視しているかのように、
レントゲン写真に見入っている。

いや、視線を見ると、
明らかにある一点を見ていたかも。

それが、肺の中にある白っぽい部分。

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5分。

たぶん、5分くらいだったと思う。

看護師は誰も来ない。
普通、看護師って医師のそばにいるよね。
その時には、だれもいないのよ。
変な静けさが、逆に怖かったね。

体感では、5分ではなく50分…かも。

「長い。長すぎるやろ」
「なんか言うてくれ。頼むから。汗」

医師の横顔が、だんだん歪んでいく。
眉間にシワが寄って。
口を、への字に結んで。

「……あ。これ、あかんやつや…」

素人の僕にもなんとなくわかった。
言葉なんか、いらんかった。
あの顔が、全部、物語っていた。

急に怖くなり、
心臓が自分でもわかるくらい、
バクバク鳴っていたのを覚えてる。

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やっと、医師の口が開いた。

僕は、身構えた。

「来週、画像を専門に見る先生が来るので。その時に、聞いてください」

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「は?…え、それだけ?」

「5分も黙っといて、それだけ?」

そして、次の瞬間、僕は理解した。

「あ、この先生。誰かに、振ったな…」

自分では言いたくないから、
来週の専門の先生に押しつけた。

「そういうことやろ。先生。そこまで顔に出しといて…さ」

聞くのも怖いけど、
このまま保留も怖い…

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僕は、そのレントゲン写真を、
しっかり目に焼き付けて帰った。
白い影の位置も、形も。

で、家に着いて、何をしたか。

ググったよ。

「レントゲン」「白い影」「病名」

……告知前に検索しては、
いけなかったのにね。

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案の定、怖いものが三つも出てきた。

肺炎。
結核。
肺がん。

「…まじか…どれもやばい」
「…もっと簡単な病名じゃないの?泣」

記事を読み進めた。
すると、こう書いてあった。

肺炎と結核は、激しい咳を伴う。

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……。

マジかよ。

咳。
咳、してまへん。
まったく、してない。

それどころか、今から100メートル、
全力で走れるくらい、普通や。

つまり。

…消去法で、残るのは…。

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目の前が、グルグルした。

これ、比喩やなくてマジで。

誰にも、まだ何も言われてない。
医師からは「来週聞いてくれ」としか聞いてない。
なのに、僕は、自分で。
自分に、宣告してしまった…。

家の、パソコンの前で。一人で。

なんか、今までの人生が
走馬灯のように蘇ってきたよ。
完全にあの世に行くモード。ヤバすぎ。

なにも告知されていないのに先走ったがために、
知らないでいいこれからの事を考えてしまった。

今の仕事をしている場合と違うなと思った。

そうだ。いっそのこと
告知されたら退職しよう。

うん、嫁も怒らないだろう。
大義名分ができたかも…。

読者のみなさんは絶対に信じないだろうが、
これで会社をやめれると思ったら少し、気が楽になった。

ていうか、少しうれしい。笑

こんな感覚は経験がない。
ショックで感情がバグったのかもしれない。
しかし、実際にホッとした自分がいて、
なんか嬉しかった感覚は確かにある。
自分でも不思議だった。

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そこからの三日間は、
肺がんについて徹底的に調べた。
もう、ヤケクソかつ開き直りや。

生存率も、手術の方法も、全部。

「知らんまま怖がるより、知って怖がる方がマシや」

そう思ったんやと思う。
たぶん、それしか、やれることがなかった…。

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三日後。

覚悟を決めて、病院に行った。

専門の先生が、ずばり言った。

「肺がんの可能性が、かなり高いです」

「……知ってる」

「三日前から、知ってるよ」

不思議と、取り乱さなかった。
三日かけて、自分で自分に
宣告し終えたあとやったから…。

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「どうされますか?ここでも対応できますが、
行きたい病院があれば紹介状を書くので言ってください」

僕は、間髪入れずに答えた。

「済生会病院でお願いします」

先生が、ちょっと意外そうな顔をした。

そりゃそうや。
告知された直後の患者が、
ショックも受けずに病院名を即答するんやから。

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実はね。

あの三日間、僕は病名だけを調べてたんやない。

最寄りの病院の、
肺がんの手術件数も、全部、調べてた。

中堅の病院は数を公開してない。
でも、日赤と済生会は、ちゃんと数字を出してた。
で、済生会の方が、胸腔鏡の手術が多かった。

だから、済生会。

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僕は、たぶん、
そういう男なんやと思う。

怖くて、目の前がグルグルして、
死ぬかもしれんと思いながら。
その手は、検索していた。

手術を申し込む際の
細かな段取りや書類の提出などすべて自分で対応した。
嫁さんは多忙なため、
難しい上に自分の事は自分でするさ。

医師に身内を呼んでと言われ、
嫁と母親と兄貴がきた。
兄は母親を送るための付きそい。

その際もテキパキと事務員と話していたら、
後ろで母親が兄貴に話す声が聞こえた。

「あの子見て。今から手術する人には見えなくない?
やたら元気で動いてるよね~」と。

そりゃそうだ。
我が家の壁には、
家訓が書いてあるから。

「自分の事は自分でする」

嫁が筆書きしたやつね。
それを忠実に守っていたわけだ笑。

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こうして、僕の入院と手術が、決まった。

手術まで、一か月。

この一か月が、なかなか、
とんでもないことになるんやけど。

その話は、また今度。

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