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「制約充足」型デザインワークは今後も生き残るか?


デザインの仕事というと、「何もないところからビジュアルを考える」「コンセプトを作る」「美しいレイアウトを発明する」といった創造的な作業が想像されるかもしれない。しかし実際の商業デザインの現場には、それとはかなり性質の異なる仕事が大量に存在する。

すでにテンプレートがある。写真も支給される。商品名も価格も説明文も決まっている。フォント、文字サイズ、配置位置、余白、色、画像解像度、ファイル形式、ファイル名に至るまで細かな規定がある。デザイナーの仕事は、それらを間違えずに所定の場所へ配置し、規定されたデータとして納品することである。

こうした仕事を、ひとまず「制約充足型デザインワーク」と呼んでみたい。

この仕事は、生成AIが普及したこれからの時代にも生き残るのだろうか。結論から言えば、仕事そのものは残る。しかし、人間が一件ずつ制作する仕事としては大幅に縮小する可能性が高い、である。
そして生き残る人間の役割も、「作る人」から「システムを管理し、例外を処理する人」へ変わっていくのではないかと思う。


「デザイン」ではなく「制約充足」である

この種の仕事では、自由度は意外なほど低い。

たとえば一枚の販促物を作る場合でも、

商品写真、商品名、メーカー名、商品説明、内容量、価格、税込価格、地域名、注意書き、といった要素の種類はあらかじめ決まっている。

さらに、「商品写真はこの範囲」「価格は右下」「説明文は上部」「特定の文体に統一」「この文字表記は禁止」「媒体によって書き出し形式を変える」「一定の塗り足しを付ける」「ファイル名ではスペースを使わない」「特定の記号を使用しない」「管理番号を指定位置に配置する」といった規則が加わる。

実際の制作ガイドラインを見ると、媒体によって使用ソフトやPNG/PDFの使い分け、画像解像度、背景色、アウトライン処理などまで細かく定められている。

コピーにも「です・ます調に統一する」「特定の漢字表記を別の表記に統一する」「一定条件では販促文言を表示しない」といったルールが存在する。

つまりこれは、純粋な意味での造形問題というより、入力された素材を、多数の制約条件を満たすように出力する問題なのである。ここに、この仕事がAI・自動化の影響を受けやすい最大の理由がある。


淘汰されやすい作業①

商品情報の流し込み

もっとも自動化しやすい。

商品マスターに、「商品名」、「メーカー」、「規格」、「売価」、「税込価格」、「説明文」、「地域」、「写真ファイル名」、などが登録されていれば、テンプレート内の対応する場所へ自動的に流し込めばよい。

人間がExcelを見ながら商品名をコピーし、Illustratorへ貼り付ける必要は本質的にはない。これはAIすら必要ない。CSV、データベース、スクリプトだけで十分実現可能である。むしろ人間によるコピー&ペーストには、「一行ずれた」「別商品の価格を入れた」「容量だけ前の商品が残った」といった事故が発生する。データベースから直接流し込んだほうが、速いうえに安全である。


淘汰されやすい作業②

税込価格などの計算

これも人間が行う理由がほとんどない。

税率、端数処理、表示規則が決まっているのであれば、プログラムで計算できる。むしろ危険なのは、税抜価格だけ更新して税込価格を更新し忘れるようなケースである。

金額Aから金額Bを計算できる関係なのに、人間に両方を入力させる設計そのものが危険なのだ。「同一の情報から生成できるものは、一度だけ入力する」。これはDTPというよりデータベース設計の問題である。


淘汰されやすい作業③

ファイル名の生成

実務では、「スペース禁止」、「区切り文字はアンダーバー」、「特定記号禁止」「管理番号+媒体名+商品名」など、ファイル名にも細かなルールがある。

実際、制作ガイドラインでもスペースや特定記号、環境依存文字を禁止し、命名形式が細かく規定されている。これを人間が毎回キーボードで入力する意味はほぼない。案件番号や商品情報を読み取って、管理番号_媒体種別_商品名のように自動生成すればよい。しかも保存時に、

禁止文字、全角/半角、連続スペース、桁数、必須項目を自動検査できる。こうした仕事はかなり早い段階で人間の手を離れるだろう。


淘汰されやすい作業④

管理番号の配置

商業印刷では、制作物そのものにはほとんど見えない小さな管理番号が重要だったりする。位置、文字サイズ、色などに細かな指定があり、確認用として欄外にも同じ番号を表示する、といった運用もある。

興味深いのは、実際の制作ルールでも「同じ管理番号を二度手入力せず、コピーして使用する」という考え方が明示されていることである。これはすでに、人間は同じ情報を二度入力すると間違えるということを制作現場自身が認識しているということだ。ならば最初から管理番号をシステム側で発行し、すべての必要箇所へ自動配置すればいい。

極めて自動化向きの作業である。


淘汰されやすい作業⑤

定型的なコピー修正

生成AIが特に強い領域である。たとえば、「語尾をです・ます調にする」「『楽しめる』を『楽しめます』へ変更」「特定の漢字をひらがな表記へ統一」といったルールは、従来なら校正担当者が確認していた。しかしこれは現在のLLMならほとんど瞬時に処理できる。さらに単純な置換規則なら、AIを使わず正規表現だけでもよい。今後は原稿を入力した瞬間に、「文体違反」「禁止表記」「規定文字数超過」「価格表記異常」などがリアルタイムで警告されるようになるだろう。人間が最終的に確認するとしても、チェックに必要な人数は減る。


淘汰されやすい作業⑥

写真の切り抜き

以前はPhotoshopで商品写真のパスを一本一本切ることが、かなり大きな作業だった。ここはすでに急速に自動化されている。人物、食品、パッケージ、家具などの背景分離精度は非常に高くなっている。もちろん透明な容器、ガラス、湯気、細い髪、複雑な反射など難しい対象は残る。しかし、100枚すべてを人間が切り抜く時代から、AIが100枚処理し、人間が失敗した5枚を直す時代へ移行する可能性は高い。仕事量として見れば劇的な減少である。


淘汰されやすい作業⑦

画像の配置と基本トリミング

テンプレートの画像領域が決まっているなら、

「写真の長辺を合わせる」「商品全体が見えるように配置する」「背景いっぱいに拡大する」といった処理も自動化できる。さらに画像認識を組み合わせれば、商品の中心位置、人物の顔、食品本体などを判断して、自動的にトリミング位置を決められる。現在でも「object fit」の高度版のような処理は十分可能である。


淘汰されやすい作業⑧

書き出し作業

制作現場では意外に大きな時間を消費する。媒体AならPDF。媒体BならPNG。解像度はいくつ。背景は白。アートボード単位で書き出す。特定媒体ではアウトライン処理を変える。こうした規則も、条件分岐そのものである。実際のガイドラインにも、媒体ごとの保存形式、解像度、背景、アウトラインの扱いなどが明文化されている。明文化できるということは、かなりの部分がプログラム化可能だということである。「担当者が設定を覚えている」状態から、媒体を選択すると正しい形式で勝手に出力される状態へ移行するのが自然だろう。


淘汰されやすい作業⑨

サイズ・塗り足し変更

A5なら四辺に一定量。横長媒体なら左右と下だけ。あるサイズでは変更なし。こうした規則も完全に機械的である。実際、媒体サイズによって異なる塗り足し量や方向が明文化されている。つまり、
媒体種別 → アートボードサイズ → 塗り足し
という対応表を作れば済む。「前回どうだったっけ」と人間がマニュアルを見る必要はなくなる。


では、人間には何が残るのか

ここまで読むと、「全部自動化されるではないか」と思えてくる。しかし実際の制作現場には、自動化が難しい仕事が残る。興味深いことに、それは「デザイン能力」だけでもない。むしろ、例外への対応能力である。


残りそうな作業①

写真がおかしいと気づく

たとえば支給された写真が、解像度不足、色がおかしい、商品が古いパッケージ、別商品の画像、一部が切れている、背景と商品が同化している、といった問題を抱えていることがある。AIは「画像を配置する」ことは得意でも、「これは今回使ってよい写真なのか?」という業務上の意味まで常に正しく判断できるとは限らない。特に商品パッケージの新旧違いなどは、画像だけから判断するのが難しい。ここには人間による確認がしばらく残る。


残りそうな作業②

長すぎる商品名への対応

テンプレートでは商品名が2行までなのに、3行になってしまった。

これは非常によくある。自動処理なら、「文字を小さくする」「字間を詰める」「3行にする」などの解決策を出せる。しかし、どこまで小さくしてよいのか。ブランド名を別扱いにするのか。商品名を略してよいのか。クライアントに確認すべきなのか。ここには判断が必要になる。デザインとは、このような制約同士が衝突したときの優先順位付けでもある。


残りそうな作業③

コピーそのものがおかしいと気づく

AIは文法を修正できる。しかし、「この説明、本当に商品の特徴になっているだろうか」「写真とコピーが食い違っていないか」「食品なのにこの表現は誤認を招かないか」といった判断になると、単純な文体チェックでは済まない。特に広告では、意味の正しさだけでなく、何を消費者に約束している文章なのかまで理解する必要がある。ここには編集的な判断が残る。


残りそうな作業④

原稿同士が矛盾していると気づく

これは実務で非常に重要である。Excelでは500円。PDF原稿では480円。商品写真には450円と印刷されている。どれが正しいのか。AIは矛盾そのものを発見できる。しかし最終的に、「どの情報を正とするか」は商流や発注経路を理解していなければ決められない。自動化が進むほど、人間には、データを入力する能力より、データの信頼性を判断する能力が求められるようになる。


残りそうな作業⑤

「今回は例外です」を処理する

業務システム最大の敵である。普段ならPNGなのに今回はPDF。通常商品では不要な注記が今回だけ必要。通常位置ではロゴが隠れるので変更。一部店舗だけ価格が違う。一商品のみ発売日が違う。現実の業務には、この「今回だけ」が大量に存在する。自動化システムは通常系に非常に強い。だが例外が増えるほど条件分岐が複雑になり、人間が介入したほうが早くなる。

したがって将来の制作担当者は、通常処理をする人ではなく、例外処理をする人になっていくだろう。


残りそうな作業⑥

「なんとなく変だ」を判断する

これは案外重要である。数値上は正しい。規定にも違反していない。しかし商品が小さく見える。価格が弱い。写真とコピーが喧嘩している。余白のバランスがおかしい。隣に並べると一枚だけ浮いている。こういう問題はルールとして完全に定義することが難しい。もちろんAIも徐々に評価できるようになるだろう。それでも、「この売場で、このシリーズの中に並んだときどう見えるか」という文脈的な判断には、人間の経験が依然として重要になる。


残りそうな作業⑦

クライアントの曖昧な指示を解釈する

「もう少し目立たせてください」「前回みたいな感じで」「ちょっと高級感を」「ここ違和感あります」こうした指示は、制約条件として記述されていない。しかも「目立つ」と「上品」はしばしば衝突する。AIは案を出すことはできるが、「この担当者が『目立つ』と言うとき何を意味しているか」まで理解するには、過去のやりとりや企業文化の知識が必要になる。この翻訳作業はかなり長く人間に残ると思う。


残りそうな作業⑧

最終的な責任

最も重要なのはここかもしれない。広告物に価格間違いがあった。別商品の写真を掲載した。店舗でデータが開かなかった。印刷してみたら文字が消えた。こうした事故が起きたとき、「AIがそうしました」では業務は成立しない。誰かが、「このデータで出してよい」と承認する必要がある。したがって完全自動化よりも、自動生成+人間による承認という構造が長く残る可能性が高い。


「10人のデザイナー」が「2人の制作管理者」になる

だから、この種の仕事が消えるかどうかを考えるとき、「仕事が存在するかと「何人必要か」を分けて考えなければならない。販促物そのものはなくならない。商品写真も必要だし、価格も表示する。店頭POPもWebバナーも必要だろう。しかし現在、10人が1日かけて100種類を制作している仕事を、将来も10人で行う合理的理由はない。商品データを流し込めば自動的に100種類が生成され、AIが画像を切り抜き、コピーを整形し、禁止表記をチェックし、ファイル名を生成し、必要な形式に書き出す。人間は生成結果を一覧で確認し、問題のある10件だけ修正する。そうなれば、10人の制作オペレーターが、2人の制作管理者になることは十分考えられる。「仕事が消えないから安心」とは言えないのである。


生き残るには「速いオペレーター」にならない

では、この仕事をしている人間はどうすればよいのか。Illustratorを速く操作する能力だけを競争力にしないことだと思う。

ショートカットを覚える。スクリプトで一括処理する。生成AIを使う。CSVからレイアウトを生成する。画像の自動切り抜きを導入する。自動校正を入れる。書き出し処理を自動化する。そして最終的には、

原稿

商品データ化

写真との紐付け

コピー整形

自動レイアウト

自動チェック

PDF・PNG生成

人間による例外確認

ワークフローそのものを設計する側へ回る。すると職種の性格が変わる。

「DTPオペレーター」から、デザイン制作システムのオペレーター/設計者になるのである。


制約を守る人から、制約を設計する人へ

制約充足型デザインワークがなくなるとは思わない。むしろEC、デジタルサイネージ、SNS広告、店頭媒体など媒体数が増えれば、同一の商品情報から大量のクリエイティブを生成する需要そのものは増える可能性さえある。ただし、一枚一枚を人間が手作業で組版するという工程は、大幅に減っていくだろう。

だから問題は、「AIにデザインの仕事を奪われるか」ではない。もっと具体的には、自分が今やっている工程のうち、どこまでがルールとして記述可能なのかを考えたほうがよい。ルールとして完全に説明できる仕事は、いずれかなりの部分が自動化される。逆に、曖昧な指示を解釈する。矛盾を発見する。例外を処理する。品質を判断する。工程そのものを改善する。事故が起きない仕組みを作る。こうした仕事の重要性はむしろ高まる。これから制約充足型デザインで生き残る人は、最も速くテンプレートへ流し込める人ではない。「なぜこのルールがあるのか」を理解し、それを自動化し、なお自動化できない例外を処理できる人なのではないだろうか。


https://www.itmedia.co.jp/news/article/2608/04/2000000377/


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