姫は眠りに
眠りに閉じ込められている
全て都合のいい夢
ここでは所謂悪夢が排除されている
私たちが健やかに生活できるよう世界が変わったのだ
今日はどんな夢、見ようかな
リストから恋愛に絞ってみる
初恋、青春、大人……
経験したものばっかり
気持ちを投げ出す
恋愛なんてもうこりごりだ
そう言いながらいつもこの画面を開いている
とっくの昔に諦めたはずなのに
私はまだ夢を見たがっている
もう、しわくちゃなおばあちゃんなのにね
ふっ、と笑い画面を消した
今日はもう自然に夢を見よう
灯りを消し、脳を沈めていく
段々と感覚がなくなり、意識が飛んでいく
ここは、どこ?
状況を知りたくて辺りを見渡す
一面咲き乱れた花
開花する時期の違うものも全て開いている
踏んでしまうのももったいないな、と思いながら足を進めていく
あれ?私、こんな服だったかしら?
向日葵を連想させる明るい黄色のワンピースを着ていた
あんなにも血管が目立っていた手が柔らかな肉に包まれている
誰かが、いる
目の前に、誰かがいる
逃してはいけない、からだ中のアラームが鳴っている
花のことなんて考えずに走った
風とやわらかい香りが私をかすめる
待って
肩に触れた
あの、あなたは――――
ピピピピ
本物のアラーム
ぐっしょりと汗をかいている
肩に触れた右手には花が握られていた
あ、これ
勿忘草だ
なんてまあ、アピールが下手なの
私はまた、笑ってみせた
口だけじゃなく、何もかも不器用なのね
愛を込めて思い出す
今は亡き夫の姿
その後ろ姿は自分の愛した人だった
初恋も、青春も、大人になって今を生きる私も全部あなた
あなただけ
私はあなたと共に生きてきた
そしてあなたは私よりも早く、階段を上っていった
初めてデートしたあの日
向日葵が綺麗だった夏の日
好きだ
その言葉を聞いた
あなたは恥ずかしがり屋であれから一度も言ってくれなかったよね
今思うとちょっと悔しい
それでも私に会いに来てくれたことが嬉しかった
私、いつまでも、あなたのことを忘れませんよ
右手にある花をきゅっと握る
潰れないように、守るように
それでも、ストレートすぎじゃない?
二度目の告白に頬を赤らめる
私、すぐに追いつくから
チューブで繋がれた自分のからだを意識する
意識が夢になってしまえば
私はもう一度目を閉じた
青空があの日に似ていた
今度は私から
あなたに伝えさせて
大好きですよ、永遠に
私も口下手かもね
指を動かす
夢、を選択する
次は喫茶店がいいかしら
あなたと飲むコーヒーの香りを思い出しながら私はそっと目を閉じた
白い服の人たちに囲まれている
不思議、もう苦しくないの
穏やか、タバコの苦い香り
あなたと向き合っている
デートの続きをしましょう
今度はあなたが頬を赤らめていた
ずっと一緒なの、嬉しいわ
忘れ物、返しに来たのよ
あなたの薬指にそっと花を巻き付けた
そっぽを向くその顔が懐かしかった
