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油断した夜

寝かしつけた後は、
母の時間だ。

部屋の電気は落として、
寝た子の隣で、
スマホをいじる。

音は出さない。
画面の明るさも落とす。

この静けさを壊さないように、
呼吸まで小さくなる。

子どもは、
もう寝ている。

はずだった。

コロコロと、
小さな体が転がる。

気づけば、
隣の布団に着地している。

まあ、よくあることだ。

私はそのまま、
スマホに戻る。

油断していた。

次の瞬間。

ゴン。

鈍い衝撃。

何が起きたのか、
一瞬、理解が追いつかない。

遅れて、
痛みが来る。

顔。

正確には、
頬のあたり。

どうやら、
寝返りの途中で、
腕が振り抜かれたらしい。

裏拳。

見事な一撃だ。

子どもは、
目を閉じたまま。

謝る気配も、
起きる気配もない。

完全に、
無意識。

私は、
声を出さずに耐える。

叫べない。
動けない。

起こしてはいけない。

この理不尽さ。

痛い。
でも、
今ではない。

私は、
スマホを置いて、
そっと布団に潜る。

頬を押さえながら、
深呼吸。

時間差で、
じんわりと痛みが広がる。

明日、
腫れてないといいな、
なんて、
どうでもいいことを考える。

子どもは、
何事もなかったように眠り続ける。

母の時間は、
突然終わることがある。

予告なし。
説明なし。

あるのは、
結果だけ。

私は、
天井を見つめながら思う。

今日も、
生き延びたな、と。

母の手帖には、
こういうことも書いておく。

寝たあとでも、
気は抜くな。

裏拳は、
静かに飛んでくる。

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