失敗はくり返す
もう終わったと思っていた。
残り時間は、ゼロ。
表示は切り替わり、
あとは乾燥だけ。
疑いもしなかった。
何の話かというと、
わが家の食洗機の話だ。
二人暮らしサイズの、
小さな食洗機。
一日の終わりに回すのが、
すっかり日課になっている。
置き場所がないので、
キャスター付きのレンジラックに乗せて使っている。
使わないときは、
壁際の定位置へ。
使うときは、
シンクに寄せて、
排水ホースをシンクの中に入れる。
毎回同じ。
何度もやっている。
今回は、
少し早めに回した。
だから、
乾燥の段階になったら定位置に戻して、
朝に動かさなくていいようにしよう。
そう考えた。
ちょっとした、
気遣いのつもりだった。
シンクからホースを抜いて、
軽く振って水を切る。
そのまま、
食洗機の上にホースを回し、
吸盤で固定。
……したはずだった。
これで良し。
そう思って、
リビングで少し休もうと、
背中を向けた。
その瞬間。
カタン。
嫌な音は、
いつも同じタイミングで鳴る。
嫌な予感も、
いつも同じ。
振り返る。
さっきまで、
食洗機の上にあったはずのホースが、
だらりと垂れ下がっている。
床は、
もう、光っている。
ジャージャーと、
無情に排水は続いている。
思考より先に体が動く。
ホースをつかんで、
シンクに戻す。
水は止まる。
ああ。
声は出ない。
キッチンマットは、
当然のようにびしょびしょだ。
床も、
しっかり濡れている。
私は、
しばらくその場に立ったまま、
状況を眺める。
やってしまった。
前にも、
似たようなことがあった。
あのときも、
大丈夫だと思って、
同じように背中を向けた。
そして、
同じ音を聞いた。
失敗は、
忘れた頃に、
同じ顔で戻ってくる。
学習したつもりでも、
慣れたつもりでも、
油断は、
ほんの一瞬で入り込む。
私は、
キッチンマットを剥がして、
床を拭く。
洗って、
干して。
いつもの後始末。
特別な教訓はない。
ただ、
次からは、
ちゃんと最後まで見ること。
それだけ。
失敗は、
くり返す。
でも、
拭いて、
片付けて、
また日常に戻る。
それも、
母の手帖に書いておくことにする。
