さくらももこが大好きだから誰か聞いてほしい
ズブズブズブズブ
何かに足が嵌った。びっくりしてあがこうとするが、足はびくともしない。
ピーヒャラ ピーヒャラ パッパパラパ〜♪
今度は何か見える。陽気でちょっとマヌケなおじさんがぐるぐる踊っているのが見えてきた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
私がアレを手に取ったのは大学4年の冬。ちょうど卒論を書いていて、それが佳境も佳境という時期だった。
ふらりと息抜き程度に立ち寄った本屋では、その年の夏に亡くなった偉大な作家の「ありがとうフェア」が行われていた。
だから、これは神さまのイタズラだったと思う。
(いや、神さまもヒマじゃないから、わざわざ卒業がかかった大学生にこんなもの見せても仕方ないから普通に偶然なんだけど)
なんの気なしに手に取った。あー!知ってるけど読んだことない。
1行目を探してペラペラめくる。
すると、エッセイはこんな一文から始まっていた。
水虫といえばたいがいオッサンの持病であり、それにかかると脂足に甚だしい異臭を放ち、その靴および靴下は、家族間では汚物とみなされるという恐ろしい病気である。
ズコッ
ズブズブズブズブ
ピーヒャラ ピーヒャラ パッパパラパ〜♪
カオスだった。それから本屋の硬い地面は底が知れない沼に変貌し、歩きたくても歩けない。ページをめくる手も止まらない。どうすりゃいいんだ。
この伝説が出版されたのは1991年3月25日。前年の1990年に『ちびまる子ちゃん』がアニメ化し、主題歌の「踊るポンポコリン」はレコード大賞を受賞した。
まさに人気絶頂。世間がさくらももこについて気になっている、春うららかな季節に出版されたのが『もものかんづめ』。
その最初のエピソードが「奇跡の水虫治療」。そして最初の一文が先ほどのものである。
もっと他になかったんかい。
いや、人気絶頂なんでしょう?
かっこいい文章書きたくない???
かっこいい人に見られたくない???
作中で父ヒロシも言ってるけど、今あなたは「水虫女」と思われてるよ? それも日本中から?!
物語はまだまだ続く。水虫になったことが家族にも知れ渡ったのだ。
姉は急に冷酷極まりないナチの司令官の様な顔になり、トイレのスリッパは使うなとか、部屋を裸足で歩くなとか、数々のオキテを数十秒のうちにつくりあげ公布した。
天才!!!!!!!
嗚呼、好きだ。水虫になったさくらももこがたまらなく好きだ。
本を閉じた。沼に浸かった足は解放された。
レジに向かうために。
私は水虫になったことはないが、魚の目ができたことがある。(いきなり)
ネットによると、大人になるとできるものだそうだが、奇しくも私は小学生の時になってしまった。サイズに合わない靴を履いていたせいだろう。
最初は「何か点の様なものが足の裏にできたなぁ」とのんびり構えていた。しかし何やら周りの皮膚が盛り上がり、気持ち悪い様相をしていた。
母に見せると、「それ、魚の目だよ」と冷静に告げられ、ドラッグストアに連れて行かれた。
魚の目パッチのようなものを買ってもらい、しばらく付けていたが、周りの皮膚がぐちゃぐちゃになるだけで全く芯に響かない。
芯が大事なんだよ。芯を抜きたいんだよ。
しばらく、魚の目を抱えた足で学校に行った。友達に話しても共感されないし、私だけ暗い事情を抱えて、学校までの足取りが重かった。
もう我慢できない。
絶対にお前を抜いてやる。
戦った。汗をかきながら、足の裏を懸命の見つめ、芯をほじくった。砂場で無意味にスコップで掘り当てる幼児のように、患部をほじくった。砂場も魚の目もほじくりかえったとして宝など待っていないが、魚の目の方がまだ意味があったと思う。
そして私は宝を探し当てた。
魚の目と小学生の私の戦いは私が勝利をおさめて終わった。
さくらももこは1年半におよぶ研究の末、水虫が完治にまで向かったそうだ。
ただの水虫。誰でも知っている普遍的な内容なのに、想像力ですごくすごく面白くなっていた。
そう、想像力なのだ。水虫が面白いのではなく、水虫になった自分を面白がっているだけ。面白い出来事が転がっているわけではなく、面白がっているさくらももこがいるだけなのだ。
さくらももこは面白がる天才だ。
さくらももこにかかれば情けない水虫も大笑いエッセイになってしまう。
私も面白がりたいと思った。
全部、全部面白がりたい。
それからさくらももこに見事沼落ちした私は1日に1冊、エッセイ本を購入し、読破した。
もちろん、卒論の最中にである。
「さくらももこが面白いせいで卒論が書けませんでした」
なんて言うことなく、大学を卒業した。社会人になり、自分もエッセイを書き始めた。
さくらももこのような面白いエッセイは書けないが、書いている間は自分を面白がれる。
私もさくらももこのようになりたい。
さくらももこ沼に足が嵌った私は、
水虫になった足跡を追いつつも、
魚の目ができた足の赴くまま、
エッセイ人生を歩んでみようと思う。
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いつか本を出版するのが夢です💪