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初めて絵を買う人へ。失敗しないアートの選び方

初めて絵を買うとき、多くの人が少し構える。

「自分に見る目があるのか」
「高いものを買わされないか」
「あとで価値が下がったらどうしよう」
「部屋に合うか分からない」

そう思うのは、かなり自然なことだと思う。

絵を買うという行為は、服を買うこととも、家具を買うこととも少し違う。

毎日使うわけではない。
なくても生活はできる。
それなのに、心のどこかに残り続ける。

だからこそ、最初の一枚は難しい。

ただ、画廊の現場にいると、ひとつ分かることがある。

初めて絵を買う人が失敗する理由は、見る目がないからではない。

多くの場合、選ぶ順番を間違えている。

絵を買うとき、最初に価格を見すぎない


初めて絵を買う人ほど、まず値段を見る。

もちろん、価格は大事だ。

生活を壊してまで買うものではないし、無理をして買った絵は、あとから見るたびに苦しくなる。

ただ、最初から値段だけで見ると、作品が見えなくなる。

「高いか安いか」
「得なのか損なのか」
「将来上がるのか下がるのか」

そこだけを考え始めると、自分が本当にその絵を好きなのかが分からなくなる。

絵を買うときに最初に見るべきなのは、価格ではない。

自分の目が、何度もその作品に戻るかどうか。

これがかなり大事だ。

画廊で作品を見ていると、説明を聞く前から足が止まる絵がある。

理由はうまく言えない。
でも、なぜか見てしまう。
他の作品を見ても、また戻ってくる。

そういう作品は、あとから説明を聞いたときにも納得しやすい。

逆に、説明を聞いて「良さそう」と思っただけの作品は、家に帰ると熱が冷めることがある。

有名な作家だから買う、は少し危ない


初めてアートを購入する人ほど、作家名に安心したくなる。

有名な作家。
美術館に入っている作家。
オークションで高く売れている作家。
SNSでよく見る作家。

もちろん、それらは判断材料になる。

ただし、作家名だけで買うと危ない。

なぜなら、同じ作家でも作品の良し悪しはかなり違うからだ。

人気作家の作品でも、すべてが代表作ではない。
版画でも、作品によって見栄えも需要も違う。
絵画でも、サイズ、状態、制作年代、モチーフ、来歴によって評価は変わる。

「この作家なら大丈夫です」
という言葉だけで買うのは、少し乱暴だと思う。

大切なのは、作家名ではなく、

その作品が、その作家の魅力をちゃんと持っているか。

ここを見ること。

たとえば、色が魅力の作家なら、その色が本当に美しいか。
線が魅力の作家なら、その線に力があるか。
物語性のある作家なら、画面の中に引き込まれるか。
空間性のある作品なら、部屋に置いたときに空気が変わるか。

名前ではなく、作品そのものを見る。

当たり前のようで、これが意外と難しい。

部屋に合うかより、長く見られるか


初めて絵を買う人からよく聞くのが、

「部屋に合いますかね」

という言葉だ。

これはとても大事な視点だと思う。

実際、絵は飾って初めて生活の中に入る。
壁の色、家具、照明、部屋の広さによって見え方は変わる。

ただ、部屋に合うかだけで選ぶと、無難な作品になりすぎることがある。

白い壁に合う。
ソファの色に合う。
インテリアとしてまとまる。

それも悪くない。

でも、絵の面白さは、少しだけ生活に違和感を入れてくるところにもある。

部屋に完全になじむ絵より、
ふとした瞬間に目が止まる絵。
昨日と違って見える絵。
気分によって印象が変わる絵。

そういう作品の方が、長く付き合えることがある。

絵を買うときは、こう考えるといい。

この絵を、半年後も見たいと思うか。
一年後も、まだ発見がありそうか。
疲れて帰ってきた日に、この絵が視界に入って嫌じゃないか。

部屋に合うかは大事。
でも、それ以上に大事なのは、長く見られるかだ。

「資産価値」は最初から期待しすぎない


絵を買うときに、資産価値が気になる人は多い。

これは当然だと思う。

決して安い買い物ではないし、せっかく買うなら価値が残ってほしい。
将来、値上がりする可能性があるなら、それも知りたい。

ただ、初めて絵を買う人に伝えたいのは、ここだ。

最初の一枚から投資として完璧な判断をしようとしすぎない方がいい。

アート市場は、株や投資信託のように単純ではない。

作家の評価、展覧会歴、ギャラリー、オークション実績、作品の状態、モチーフ、サイズ、エディション、流通量。
いろいろな要素が絡む。

しかも、買った価格と売れる価格は同じではない。

画廊で買った作品を、すぐ同じ値段で売れるとは限らない。
売却には手数料もかかる。
市場で人気があっても、作品によって動きやすさは違う。

だから、初めて絵を買うなら、投資性だけで決めない方がいい。

一番安全なのは、

仮に値上がりしなくても、自分が持っていたいと思える作品を選ぶこと。

これに尽きる。

資産価値は、あれば嬉しい。
でも、それだけで買うと、作品を見る時間がつまらなくなる。

画廊では、遠慮せずに質問していい


初めて画廊に入るのは、少し緊張すると思う。

静かすぎる。
値札が見えない。
スタッフに話しかけられそう。
買わないといけない空気になりそう。

そう感じる人もいる。

でも、本来は分からないことを聞いていい場所だ。

たとえば、こういう質問はしていい。

「これは原画ですか、版画ですか」
「額装込みの価格ですか」
「作家はどういう人ですか」
「この作品はどういう技法ですか」
「他の作品と比べて、どこが魅力ですか」
「将来的に売却する場合、どういう考え方になりますか」
「自宅に飾るなら、どういう場所が合いますか」

むしろ、こういう質問に丁寧に答えてくれるかどうかも、画廊を見るポイントになる。

良い販売員は、無理に買わせようとするより、判断材料を渡してくれる。

逆に、不安を煽る言い方をする人には少し注意した方がいい。

「今買わないと絶対に損です」
「この値段では二度と出ません」
「みんな買っています」
「将来必ず上がります」

こういう言葉だけで押してくる場合は、一度冷静になっていい。

絵は、焦って買わなくてもいい。

初めての一枚は、完璧でなくていい


最初の一枚から、正解を選ぼうとしすぎる必要はない。

むしろ、最初の一枚は、自分の好みを知るための入口になる。

買ってみて初めて分かることがある。

朝の光で見たときの印象。
夜に照明を当てたときの見え方。
部屋に入った瞬間の存在感。
季節によって変わる感じ方。
人に見せたときの反応。

これは、画像では分からない。

美術館で見るだけでも分からない。

実際に自分の生活の中に入れてみて、初めて分かる。

だから、初めて絵を買うことは、単に物を買うことではない。

自分の感性に場所を与えることだと思う。

絵を買う基準は、最後は自分の中にある


絵を買うとき、知識はあった方がいい。

作家のこと。
技法のこと。
価格のこと。
市場のこと。
飾り方のこと。

知っているほど、判断はしやすくなる。

でも、最後に決めるのは知識ではない。

その絵を見たときに、自分の中で何かが動くかどうか。

言葉にできなくてもいい。
理由がきれいに説明できなくてもいい。
誰かに評価されなくてもいい。

自分がその絵の前で、少し長く立ち止まってしまうなら、そこには何かある。

初めて絵を買う人にとって、一番大切なのは、正解を探すことではない。

自分の目を信じる練習をすること。

絵は、生活に必要なものではない。

でも、必要ではないものにお金を出すからこそ、その人の価値観が出る。

最初の一枚は、うまく選ぼうとしすぎなくていい。

ただ、安さだけで選ばない。
有名だからという理由だけで選ばない。
販売員の言葉だけで決めない。
投資性だけで判断しない。

そして、何度見ても目が戻る作品があるなら、その感覚を大事にしてほしい。

絵を買うというのは、作品を所有することではある。

でも本当は、自分の生活の中に、ひとつの問いを迎え入れることでもある。

その問いと長く付き合えるなら、最初の一枚としては、かなり良い選び方だと思う。


画廊の現場から、アート市場の一次情報を書いています。

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