似合わない青が、私を支えてくれた日
パワースーツへの憧れ
まだ若かったころ。
私は、パワースーツに憧れていた。
ダークスーツ。
青いシャツ。
そして、赤いネクタイ。
できる人は、こういう服を着ている。
そんな単純な憧れだった。
だから、むさぼるように買い集めた。
クローゼットには、青が増えていった。
夜の海のような青。
冬の朝の空のような青。
その色を見ると、不思議と背筋が伸びた。
少しだけ、自分が強くなったような気がした。
でも、現実は少し違った。
私は童顔だった。
顔色も、どちらかというと青みがかった方だった。
「青系を着ると、少し寂しく見えるね」
そんなことを言われることがあった。
鏡を見る。
確かに、そう見える日もあった。
それでも、私は青を選んだ。
好きだったから。
そして、青を着ると、
まだ何者でもなかった自分が、少しだけ大きくなったような気がしたから。
君は青じゃない
でも、私は気づいていなかった。
ショップの店員さんは、いつも言ってくれた。
「よくお似合いですよ」
その言葉を疑わなかった。
きっと、優しさだった。
そして私は、自分が聞きたい言葉だけを受け取っていた。
そんなある日。
ずけずけと物を言う友人と、服を買いに行った。
いつものように、私は青い服を手に取った。
その瞬間だった。
「それは違う」
怒られた。
私も驚いた。
店員さんも驚いた。
でも、友人は譲らなかった。
「君は青じゃない」
そう言われた。
勧められたのは、暖色系の服だった。
テラコッタ。
深いワインレッド。
少しくすんだ緑。
半信半疑で試着した。
鏡を見る。
なるほど。
確かに、こちらの方が自然だった。
顔色が柔らかく見える。
表情が少し明るく見える。
社会人になって5年目の頃だった。
私は初めて、
好きな色と似合う色は違うのだと知った。
似合う服を着る日々
それから私は、似合う服を着るようになった。
人から見て自然な色。
自分の輪郭に馴染む色。
それは、それで心地よかった。
服選びで迷うことも減った。
けれど、
青が嫌いになったわけではなかった。
ある日。
ここ一番のプレゼンを任された。
何日も準備した。
夜遅くまで資料を直した。
眠る時間を削って、最後まで磨いた。
そして、当日の朝。
服を選ぶ段になって、迷った。
似合う色か。
好きな色か。
鏡の前に立つ。
しばらく考えた。
そして私は、
青を選んだ。
青がくれたもの
似合わない。
それは分かっていた。
でも、青を着ると、自信が出た。
青。
似合わない。
でも、
青。
自分を信じられる。
青。
最高の心にしてくれる。
見た目は、少しくらい不器用でもいい。
心がプライマリー。
服はセカンダリー。
その日の私は、そう思った。
そして、プレゼンは終わった。
後日。
カスタマーから言われた。
「プレゼン、良かったですよ」
そして、少し笑いながら続けた。
「正直、意外でした。見た目とのギャップがあったから」
その言葉を聞いて、私は気づいた。
そうか。
青は、私を良く見せるための色ではなかったのかもしれない。
青は、ギャップを作ってくれたのだ。
似合わない青の意味
若い頃。
私は、青を着れば強く見えると思っていた。
できる人に見える。
仕事ができる人に近づける。
そんな憧れだった。
でも、少し違っていた。
青は、私を強く見せてくれたのではない。
青を着ることで、
自分の中にある強さを思い出させてくれた。
それだけだった。
人から見た自分。
自分が感じている自分。
その間には、いつも少し隙間がある。
その隙間に、
自分だけが知っているものが残っている。
好きなもの。
憧れ。
譲れない感覚。
それは、必ずしも似合う形をしているとは限らない。
それでも青を着る日
今でも、ときどき青を着る。
似合わないと知りながら。
鏡の前で、少しだけ迷いながら。
でも、その青を見ると、
若かった頃の自分と、今の自分が静かにつながるような気がする。
人は、1色ではない。
似合う色もある。
好きな色もある。
誰かに見せたい色もある。
自分だけが知っている色もある。
どれか1つだけが、本当の自分ではない。
テラコッタを着る私もいる。
青を着る私もいる。
どちらも、私だ。
似合わない青も、私の色だった。
あなたにも、誰かには似合わないと言われても、
なぜか手放せないものがあるだろうか。
あなたにも、なぜか忘れられない景色や言葉はありますか。
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