光の国で --ウルトラマンとウルトラセブンが戦ったなら
畳の上で
畳の匂いがした。
夏休みのある日、幼馴染と本気で殴り合った。
理由はもう覚えていない。
菓子の取り合いだったか、テレビのチャンネルだったか。
とにかく、殴り合った。
腕を掴み、歯を食いしばって。
相手を傷つけることしか考えていなかった。
でも、殺そうとは思わなかった。
その一線は、どこにあったのか。
怒りは本物だった。
それでも、殺すという選択肢は、はじめから無かった。
血が繋がっていないのに、なぜだろう。
私には妹がいる。
でも妹とは、殴り合った記憶がない。
殴り合うような男の兄弟を、私は持たなかった。
もし彼が、血の繋がった兄だったら。
もっと強い何かが、拳を止めたのか。
それとも、もっと深く憎み合ったのか。
確かめる方法は、私にはない。
光の国の夜に
窓の外が、青かった。
そんな夜に、ふと思った。
ウルトラマンとウルトラセブンが戦ったら、どうなるのだろう。
二人は兄弟だ。
同じ光の国から来た、同じ使命を持つ戦士。
もしその二人が、本気で拳を交えたら。
子供っぽい問いに見えるかもしれない。
でも私には、これがずっと重く見えていた。
自分が持たなかった何かを、二人に重ねていたのかもしれない。
殺すための光
十字を組んだ手のひらから、光が伸びる。
あの光が触れると、怪獣は真っ二つになる。
倒すためじゃない。
消える。
ただ、消える。
額の刃が、回転しながら首元へ飛ぶ。
あれも、倒すためじゃない。
切り離すための刃だ。
二人が戦えば、いつかその光が、あの刃が、互いに向く。
兄弟が本気で戦えば、殺し合うのだろうか。
血の歴史
カインは、アベルを殺した。
義経は兄に追われて、衣川で死んだ。
源氏と平家も、もとは同じ血だった。
兄弟が殺し合うのは、人間の歴史では珍しくない。
でも、ウルトラマンとウルトラセブンは人間じゃない。
正義のために生まれた、光の戦士だ。
その二人が、互いを敵と見なす瞬間があるとしたら。
そのとき、光はどちらを照らすのだろう。
正義の隙間
二人が戦う理由が、たしかに存在し得る。
私が恐ろしいのは、そこだ。
ウルトラマンも、ウルトラセブンも、地球を守る。
同じ夕焼けを、二人とも見ている。
それでも、対峙する。
守り方が違うからか。
何を守るかが、違うからか。
同じ光でも、届く場所が違うことがある。
片方の足元には、逃げ遅れた子供がいる。
もう片方の背後には、まだ見えない街がある。
どちらも、守ろうとしている。
それでも、拳を向け合う。
たぶん、これはウルトラマンだけの話ではない。
昼下がりの声
彼と仲直りしたのは、喧嘩の次の日の昼だった。
蝉の声が、やけに大きかった。
どちらが謝ったか、覚えていない。
たぶん、どちらも謝らなかった。
ただ、いつものように顔を合わせた。
日差しの中に、二人でぼんやり立っていた。
気づいたら、別の話をしていた。
仲直りは、謝ることだけじゃないのかもしれない。
同じ道を歩くこと。
同じ店の前で立ち止まること。
どうでもいい話を、またすること。
でも、それは血の繋がった兄弟の仲直りと、同じものだったのか。
妹とは、そもそも拳を交える必要が無かった。
比べる相手が、私にはいない。
光の中に
ウルトラマンとウルトラセブンが戦ったなら。
その後、どうなるのだろう。
どちらかが死ぬのか。
それとも、倒れた互いを見て、何かを思い出すのか。
光の国の夜明けに、二人が並んで座っている。
そんな景色を、私はよく思い浮かべる。
言葉はない。
同じ光の中に、ただいる。
それで、十分なのかもしれない。
スペシウム光線は、放たれなかった。
アイスラッガーは、戻ってきた。
光の国の朝は、静かだ。
その静かさの意味は、まだわからないままでいい。
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