見出し画像

遠回りの、レシピ。#5「一週間で、決めた。」

妻からメールが入ったのは、仕事中だった。

「すごいことが起きた!帰ってきたら話す」

それだけだった。何があったのか皆目見当がつかないまま、仕事を終えて家に帰った。

妻から話を聞いて、最初は理解することを忘れていた。ケーキ教室の先生から電話があって、お店を移転するから後を引き継がないかと言われた。一週間で返事をしてほしいと。

そのお店は、ケーキ教室だけじゃなくケーキとコーヒーが飲める場所でもあった。いつも二人で通っていた、大好きな空間だった。内装はそのまま使っていい、先生もそれを望んでいると聞いた。

しばらく二人で黙っていた。

最初の2日は、堂々巡りだった。

できるかな。お金はどうする。いくらかかるんだろう。銀行って貸してくれるのか。同じ話が何度も何度も繰り返された。答えが出るわけでもなく、夜が更けていった。

3日目に、やろうと決めた。

特別な瞬間があったわけじゃない。ワクワク感が溜まりに溜まって、ボルテージが最高潮に達した。それだけのことだった。チャンスの腕を掴む時というのは、いつもそういうものかもしれない。

4日目と5日目はお金の算段をした。

銀行に相談して、どこまで借りられるか。自己資金はいくらあるか。改装にどのくらいかかるか。数字を並べていくと、できなくもないという輪郭が見えてきた。

6日目、お店になる場所の周りをウロチョロした。

韮崎駅前から130メートル。田舎の駅ではあるけれど、朝は通勤客が流れ、昼は買い物客が行き交う。昼と夜、何度も同じ場所に立って人の流れを眺めた。どこまで集客できるか、正直わからなかった。でも立っていると、なんとなくいけると思えてきた。

7日目、先生に電話した。「やります。」

この外観もケーキ屋さんのまま

中華料理店を退職して、昼間はお店作り、夜は資金作りのための飲料工場の夜勤に入った。朝帰ってきて仮眠をとり、またお店に向かう。テーブルと椅子はDIYキットで買って組み立てた。フローリングの床を塗り直した。製菓用のキッチンを飲食店仕様に作り替えていった。

6月1日、ひっそりとOPENした。

がんばった。よくがんばった。


いいなと思ったら応援しよう!

NON|暮らしを編集する人 読んでくれてありがとうございます。チップは今後の記事を書き続けるための資金にします。宮古島からぼちぼち書き続けます。