大好きホリーズ:The Hollies「Not The Hits Again」(1989年編集盤CD)
自分が1950~70年代の英米ロック/ポップスにのめり込み、もう一生このまま抜けられないだろうし抜けるつもりもないという人生を歩むことになった原因は、父がFM番組の特番をエアチェックしていたカセットを小学生時代に聴きまくったことだった。音楽にまつわる大抵のことはもう旧ブログに書いてしまったので、そのカセットについても記事にしている。
この3本に入っている83曲こそが、自分の血となり肉となり、汗でも涙でもあるのだ(ちなみにブラッド・スウェット&ティアーズは入っていない)。やはりビートルズの曲が相当数入っているのだけど、後年全作品を聴き尽くした後、あれ、そういえばあの曲はどこに?と思った曲が2つあった。ビートルズと同時代、よく似たスタイルのヒット曲だったために、ビートルズの曲だと思い込んでいたのである。どうやって突き止めたのだったか、のちに判明したバンド名と曲名は、ひとつがモンキーズの「恋の終列車」、もうひとつはホリーズの「バス・ストップ」だった。
どちらも、何千回聴いても胸躍る最高の曲だけど、当時の自分がはまり込んだのはホリーズの方だった。「20 Golden Greats」というベスト盤をレンタルして聴き、「Bus Stop」以外にもビートルズ級の名曲多し!とすっかり虜になってしまった。特にやはりビートルズと同時代の60年代ヒット曲は、「Look Through Any Window」とか「I'm Alive」とか、ポップな3声ハーモニーがキラキラと輝く、幸せな気持ちにしてくれる曲ばかり。
当然ベスト盤の20曲だけでは飽き足らなくなり、ほかの編集盤やオリジナルアルバムを求めて新宿や渋谷の輸入レコード屋街をうろうろすることになる。時は80年代後半、自分は進学校の高校生、同年代でホリーズの話が合う仲間の存在など最初から期待していない。この世界には自分と音盤だけがあればいい。これは基本的に今も変わっていない。
しかしホリーズに関してはその音盤の存在が80年代当時は非常に心許なかった。普通のレコード屋にはかろうじてベスト盤が売られているだけで、オリジナルアルバムは皆無。ホリーズというバンドに関する情報も何もなかったが、音楽誌の広告だか何かで知った西新宿のブート屋や輸入盤屋が並ぶ怪しげな界隈に足繁く通っているうちに、少しずつ音源が集まっていった。See For Milesというレーベルから出ていた編集盤CD「The EP Collection」「Not The Hits Again」の2枚は本当に死ぬほど聴きまくった。しかしそのCDはとっくの昔に下取りに出してしまって今は手元にない。思い出の入った盤というのは単なるデジタルデータではなくて、品物として手元に残しておくべきだったと後悔している。後者については、そのタイトルも「ヒット曲集のほかも聴きたい」という自分の思いとぴったり重なって、思い入れのあまり曲順を再現したYouTubeプレイリストを自作してしまった。
ホリーズを聴けばまず、グラハム・ナッシュのハイトーンを生かしたフロント3人のコーラスワークが耳をつかむ。グラハム・ナッシュといえばホリーズ脱退以降のキャリアの方がロックファンにはずっと有名だろうし、デヴィッド・クロスビーと美しい声を重ねるハーモニーは唯一無二だと思うけど、ホリーズのリードヴォーカル、アラン・クラークとのパワフルなコンビも自分にとってそれと同等以上に大切。上記の編集盤では「Please Don't Feel Too Bad」のハーモニーが本当に好き。
さらに、バックを支える演奏力の確かさがこのバンドの肝だと思う。ドラムのボビー・エリオットは同業ミュージシャンに評価が高く、ポールにウィングスのドラマーとして誘われたこともあったらしい。ビートクラブでの生録スタジオライブを見ると、強力なフィルインがビシバシ決まって本当に格好いい。「I Can't Let Go」の演奏は実家の近くのレンタル屋で借りられたビートクラブのVHSビデオに収録されていて、高校生時代にダビングして何度も繰り返し見た。
リードギターのトニー・ヒックスも、ツボをしっかり押さえたギターワークが随所で輝き、3声ハーモニーの一番低い重要なパート(ジョージと同じ)も確実な安定感で支えている。高い演奏技術を持っているのに「バンドのギタリスト」に徹していて、必要以上に前に出ない。音作りのセンスは抜群で、「Not The Hits Again」にも収録されている「Hard Hard Year」の間奏のギターソロは、知らない人が聴いたらびっくりすると思う。1966年に発表された曲なのに、ギターの強烈な歪み方が60年代中期とは思えず、20年ぐらい先を行っているサウンドなのだ。当時流行のファズには聞こえない。こんな音どうやって出したんだろう。オリジナルアルバムでは4作目の「Would You Believe?」(1966年)に入っている。
トニー・ヒックスの息子のポール・ヒックスも音楽業界に入り、ジョージの息子ダーニと組んでthenewno2というバンドをやったり、ジョージの「All Things Must Pass」や「Living In The Material World」の50周年リリースにもダーニと一緒に制作スタッフとして関わり、新ミックスを手がけたりしている。ビートルズとホリーズのリードギタリストの二世同士がコンビを組んでジョージの作品を後世に伝える役目を担っているなんて、自分的には熱すぎる話である。
「Not The Hits Again」の選曲は、グラハム・ナッシュが元気いっぱいに活躍していた初期の曲がほとんどだけど、脱退直前の1968年作「Wings」が1曲目に入っていて、今にして思うと選曲者が何かを言わんとしていることが強く感じられる。まもなく一緒に組むことになるニール・ヤングの「Expecting To Fly」にぴったり歩調を合わせた美しい曲で、ナッシュはホリーズを英国のバッファロー・スプリングフィールドにしようとしていたに違いない。
のちにCS&Nで発表する「Marrakesh Express」と「Lady Of The Island」も、元はホリーズの曲として発表しようとしてほかのメンバーに拒否され、このことが引き金になってナッシュはホリーズを脱退してしまう。ロックを取るか、ポップスを取るかの別れ道だったのだろう。ナッシュ脱退後のホリーズの音楽は、ベスト盤に入るようなヒット曲には相変わらず素晴らしいものがあるけど、アルバムはちょっと退屈してしまう。それでもこれは単に指向の違いであって、ロックだから正義だなんて考え方を自分はしない。ロックが正義ならポップスも正義であり、ナッシュと同じようなハイトーンが出せるメンバーを補充して活動を継続したホリーズは、リスナーをポップな音楽の力で幸せにすることが至上命題なのである。メンバーの強靱な芸能精神があったからこそ、ナッシュがいた時期のホリーズはあんなに輝いていたのだろうし、自分にとって一生大切なバンドであり続ける。

