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【AI小説】ヴァンパイア・レストランにようこそ(修正前版)

あらすじ

京都・四条烏丸の路地裏に佇む、ヴァンパイアがコンセプトの隠れ家レストラン「棺と十字架」。店を取り仕切る完璧主義の支配人・黒田と芝居がかった副支配人・紅田は実は本物のヴァンパイアだった!

2人が正体を隠して営業する店にある日迷惑なインフルエンサーの男・森川が迷い込む。ヴァンパイアの「恐怖の美食」で彼を追い詰めたはずが、なぜか森川は高時給に釣られてそのままバイトとして働くことに。

そんな中、味にうるさい「人外の団体客」から新メニューの無理難題が店に舞い込む。食材不足のピンチに料理が得意な森川と紅田がまさかの凸凹タッグを結成!? さらに紅田の体に異変が起き、まさかのハムスター化!? 秘密を抱えた主従と人間が織りなす、ゴシック風味のダークなお仕事コメディ!

本編「ヴァンパイア・レストランにようこそ」

皆さんはヴァンパイア・カフェやレストランなるものをご存じだろうか?文字どおり西洋の三大モンスターである「ヴァンパイア」を題材にしたカフェやレストランであり、外観や内装もかなり凝った作りの店も多い。そして架空のものではなく現実世界にも少なからず存在する。京都の四条烏丸にある「棺と十字架」もそういったコンセプトのレストランだ。これはある時店で起きた日常の一幕の記録である…。

ホールから厨房に戻った紅田黒生べにたくろおはドアを閉めた途端、床に座りこんで頭を抱えた。そして「俺…調理方法間違ってないよな?」とぼそっと口でつぶやくと、がばっと立ち上がり半信半疑の目で調理場の台の上に置いていた特製デザート「血の滴るベリーケーキ」の作り方を確認する。手書きのレシピ手順や材料を最初から細かくチェックするがなんら不審な点はない。では…どうして先ほど出したあのベリーケーキにだけ本物の真新しい血液なんぞが混入したのか。

「あ~…そうか俺か。昨夜寝れなくて冷蔵庫に今週ストックしといたやつ、やけ飲みしたんだった」問題は自己解決したが、厨房内には空になった空き瓶やら紙パックが何本も転がっている。いったいどれだけ飲んだのかは記憶がまったくない。そしてこれは間違いなく支配人の黒田から雷が落ちる案件だ。紅田の背後で音もなく厨房のドアが開き、件の本人である黒田真紅郎くろだしんくろうが入ってきた。着こなしたゴシック風の燕尾服の襟を正し、こほんと小さく咳払いする。

「…お取込み中にすみません紅田くん。今お話よろしいでしょうか?」
「えっ、は、はい!支配人。さっきは大嘘ついてその…すみませんでした!!あれに血が混ざったの、完全に俺の不注意でした」
「うん…でしょうね。ホール担当は私が全部やりますから、あなたはさっきのデザートの作り直しと調理だけに今夜は専念してください」

黒田は散らかったりそこら中が赤く汚れた厨房内を見てため息をつく。困ったものだ。いくら同じ吸血鬼とはいえ節操がなさすぎる。本当に彼には加減というものはないのだろうか?紅田はぺこぺこと黒田に頭を下げ、急いで片付けを始める。

「あと数分でクローズですからそれまでは頼みましたよ。ああ、それからお客様がはけてからでいいのでさっきのベリーケーキ、追加でちゃんとしたやつを作ってください。後から一緒に食べましょう」
「え。あれを追加で?別にいいですけど…甘いものはお嫌いじゃあなかったんですか黒田さん」
「今夜は食べたい気分なんです…お願いしますね」

黒田はそう言い残して再び厨房から音もなく出て行った。ドアが閉まると、紅田は掃除もそっちのけで支配人からの注文オーダーを最優先する。紅田は黒地に赤いコウモリと店のロゴが入ったエプロンを身に着けると、散らかった中から器具と材料を素早く選びだした。 ヴァンパイアの鋭敏な感覚は生地の絶妙な空気の含み具合を見逃さない。

焼き上がったのはほんのり薔薇色を帯びた淡いピンクのスポンジ生地。それを常人離れした手際で水平にスライスし、大鍋でじっくりと数種類のベリーを煮込んだ、艶やかな深紅の自家製ジャムを上に幾重にも重ねていく。 仕上げにナイフを入れれば、断面からはまるで本物の血が滴るように真っ赤なジャムが溢れ出す、美しくも妖しいベリーケーキの完成だ。ベリーケーキはコウモリをあしらったデザインの黒いプレート皿に盛りつけ、ラップをして業務用冷蔵庫にすぐインする。そうして紅田は何事もなかったように掃除を再開した。

一方でホールでは黒田が1人で各テーブルの注文から配膳までを本当に一気に捌いていた。紅田がいると分担ができてもっと楽なのだが、今夜の彼はすこぶる調子が悪い。ああいう状態でお客様の前に出すのもどうかとは思ったので厨房のほうに専念してもらった。さて…次はと。

「あのー、すみませーん。オレの頼んだ料理って、まだっすか?」
ふいに黒田の思考を断ち切るように気だるい調子の若い男の声がした。黒田は一瞬苛立ちを感じたがすぐに抑え込み、とびきり上品な営業スマイルを彼に向ける。
「はい。すぐにお持ちしますのでもう少々お待ちいただけますか?」「あーいいけど早くしてよ。オレ早く帰りたいんで」
素気なく放たれた一言に黒田は内心「じゃあもう来ないでください」とツッコんだ。さっきからテーブルでの様子を見ているが、手元のスマートフォンをいじるばかりで食事をしにきたというかんじではない。

黒田は男に深々と礼をして厨房に向かった。小窓と棚に置かれた調理済みの他テーブルの料理の皿の間から奥を覗いて紅田に小さく声をかける。
「…すみません紅田さん5番テーブルの方のお料理今から急ぎで仕上げてくれませんか?さっさと帰ってもらいましょう」
「あ、はい。支配人…なんか、怒ってます?」
「いいえ。ただ彼のマナーがなってないのでこの上なく不愉快なだけですが」
張り付いたような笑顔のまま黒田は答えた。紅田はそこから透けて見える怒りにびくりと体をこわばらせる。

「えと…棺ステーキのブラッドソース添え、焼き加減はウェルダンですね。分かりました。急いで作ります」
紅田は注文のメモを確認して頷いた。黒田も頷き返すと厨房前で少し待機することにした。数分後、黒田は香ばしく焼きあがったばかりの棺の形のステーキと野菜の乗った特製プレートを片手に5番テーブルに向かった。

「…大変お待たせして申し訳ありませんお客様。ご注文の棺ステーキのブラッドソース添えでございます」
棺の形に美しく成形されたステーキ肉の表面は、竹炭を練り込むことで夜の闇のような黒々とした質感を帯びている。ナイフを入れれば中から溢れ出す極上の肉汁と、そこに付け合わせられた自家製のトマトをふんだんに使った特製ブラッドソースの鮮烈な赤色。 食欲をそそる芳醇な酸味と肉の焦げる匂いが一瞬でフロアの空気を支配する。

しかし彼は給仕した黒田を見上げると再びこう言った。
「は?オレ言ったよね、焼き加減はレアでってさ」
テーブルに置かれた棺ステーキの皿を見るなり、男の顔がわかりやすく不機嫌になる。
「え、すみません。すぐに新しいものをお持ちします」
「…いい。もうオレ帰るから。彼女から超イイ店だって聞いてきたのになんかがっかり。会計お願い」
黒田の顔が困惑から徐々に怒りに染まっていく。客は黒田の表情の変化にも気づかず、カウンターに向かい代金の紙幣を数枚置くとそのまま店から出て行った。ぱたん、とドアが閉まると店内がにわかにざわめき始める。黒田は他の客に再度「申し訳ありません」謝ると出口のドアの札をひっくり返して閉店クローズドにした。

数時間後。客がいなくなり静まりかえった店内のホールで黒田と紅田が今日1日の反省会をしていた。問題のあった5番テーブルにオイルランプを灯し、静かな声で2人は話し合う。鮮やかな血のように赤いクロスの引かれた机には先ほど紅田が作り置きしたベリーケーキと棺ステーキの皿が2人分あるがどちらも手がつけられていない。
「レシピや手順は…うん完璧ですね」
「黒田さんその客、次からウチに出禁にしません?俺だったらたぶんその場で1発殴ってますよ」
黒田は紅田からレシピや注文表をもらって細かくチェックしていた。
「と…なると、考えられる原因は彼が私に平然と嘘をついたということですかね」
黒田が紅田に見せた注文表には「5番テーブル、棺ステーキ1、ウェルダン」という彼自身の筆跡による走り書きがあった。

「うわあ…最悪ですねそいつ。黒田さんの話を聞いているとアレですかね…ほら、今流行りの動画配信者とかインフルエンサーとかいう」
「…紅田くんなんですかそれは」
「あれ、黒田さん知らないんですかインフルエンサー?あれですよネットやSNSとかで世間に与える影響力があって、ビジネスとしても情報の発信している人間たちのことですよ」
「なるほど…世間にはそんな者がいるのですね。現代社会にはどうも疎いもので」
いつもは博識な黒田が珍しく白旗を上げている。紅田がインフルエンサーについてさらに解説をしようと口を開いた時、近くからがさっと物音がした。かなり小さな音だったが、ヴァンパイアの聴覚はごまかせない。2人は顔を見合わせ、各テーブルのクロス下を1席づつ覗いては確認していく。入口近くのところにあるテーブルの下を探ると、あの迷惑な若い男が息を潜めて隠れていた。手には録画モードにしたスマホを構えている。

「あら~…もしかして君が例の迷惑客?今の会話って全部撮影してました?困りますよお客様。営業妨害は…ねえ支配人」
「ええ、そうですね。おかしいですね確かに出口からお帰りになったのを確認したはずなのですが…何か当店にお忘れものでもございましたか?」
黒田が例の営業スマイルで笑いかけると、男は大変取り乱した様子で「あ、アンタら、に、人間じゃ…ないのか⁉」とヒステリックに叫んだ。
「ああはい、そうですが」ほぼ同時に黒田と紅田が答える。

「ひっ、ひぃぃ……! う、嘘だろ。ほ、本物のヴァンパイアがいるなんてきいてねえぞ……⁉」
ガタガタと震えてスマホを取り落とす男。 黒田は床に落ちたスマホをさっ、と拾い上げると電源をオフにした。そして男のほうに視線を合わせ直すと銀縁眼鏡の奥の糸のように細い瞳が血に濡れたような赤に発光し始める。

「…まったく困りましたね。当店はあくまでも『非日常的な世界観や設定』を楽しんでいただくための特別な場所です。そこに本物の怪物ヴァンパイアがいる…などとSNSやネットなどに書かれてはこちらも大変迷惑なのです」と黒田が言うと隣から被せるように 「ねえ支配人、やっぱりこいつ、今から厨房連れてって体ん中のハラワタ全部ぶち撒けてスープの出汁にしちゃいましょうよお! ちょうど俺が血のストックも全部切らしてたことですし‼」と紅田が狂気的な目で舌なめずりしながら黒田に提案する。

「や、ヤダ…た、助けてくれ! 誰にも言わない! 絶対に言わないから‼」 しゃがみこんだままの体勢で唇の端から長い牙を剝きだした紅田に目と鼻の先まで接近され涙目で命乞いをする男を、黒田は冷徹に品定めするように見つめる。

「……待ってください紅田くん。彼の血ですが先ほど言った通り日頃の不摂生がすぎてあまりにも美味しくない。それに人間との口頭での約束ほど信用できないものはありません……では、君」 ずい、と黒田もその場にかがんで紅田の横からテーブル下に割り込んだ。
「は、はいぃっ!?な、な…なんでしょう?」
「明日から当店の夜勤ナイトシフトのアルバイト店員として働いていただきましょうか。現状私と紅田くんの2人っきりで切り盛りしていてスタッフの人手が足りなくて困っていたのです。もちろん今夜私にあんな態度をとった君に拒否権はありませんよ…よろしいですね?」

黒田のその提案に「ひひひっ! い~いねえ! ちょうど皿洗いのスタッフが1人欲しかったんだよ! おい、お前、明日から1分でも遅刻したら、そのお大層なスマホをカメラごと噛み砕いてやるからな‼」と紅田が吠えるようにして凄む。男は恐怖のあまり、コクコクと激しく首を縦に振ることしかできなかったという…。 【了】

後日談「満月の夜にお茶会を」

俺の名前は森川達也。大学浪人中、職業なし、実家暮らしの無職。まあ…ネットの世界じゃ「流行りに敏感なインフルエンサー」としてちょっとした有名人…だったかもしれない。それも最近までの話だ。

昼間は意識高い系のビジネスマンやOL、小奇麗な観光客が足早に行き交う四条烏丸からすま。そんな大通りの喧騒から、わざと街灯の届かない細い路地へと折れる。蔦の絡まる古びたレトロなビルの軋む階段を地下へと降りた場所がここにある「棺と十字架」というヴァンパイアの世界観を題材にした一風変わった隠れ家のような雰囲気のレストラン。俺はそこでアルバイトのスタッフとして働いている。

覚えなければいけないことはたくさんあるが、給料がかなり良いので辞めるとは切り出せずにずるずると今日まできた。最初の数日は苦痛でしかなかった両支配人たちとのやり取りも少しは慣れてきた。外へは固く口止めされてるが2人は本物の吸血鬼ヴァンパイアだ。

夕方ごろオープンした店が23時ごろにクローズした後、俺が帰ろうと身支度していると支配人の黒田が呼び止めてきた。「森川くん、帰る前にちょっとよろしいですか。相談があるのですが」そう言って支配人が切りだしたのは、今週末に予約が入っている人外の団体のお客様に提供するための新メニューの考案だった。なんでもこの店の古くからの常連の方たちだそうで、味にもかなりうるさく手抜きが一切できないという。

「頼むよ森川~お前、俺や支配人よりかは現代の流行ってやつにはずっと明るいんだろ?その知識を総動員してさあ、2人で客をあっと驚かせるような料理作ろうぜ」そばにいた紅田がオールバックにした黒髪を芝居がかった仕草でなでつけ、色白の顔を俺のほうにすりよせてきた。ふわりと薔薇のような香りがする。香水だろうか。反対側からは黒田も寄ってきたので両側から挟まれた俺はサンドイッチの具にでもなった気分だ。

「たとえば…お出しする料理はどんなものがいいんですか?お客様にアレルギーとかあったら使えない食材もありますし」俺が返すと、2人はしばし考えたのち「全員アレルギーはないのですが、ただ・・・食べる量が尋常じゃない若い人狼族の方は数人いらっしゃいますね」と黒田が答えた。

「それってどのくらいの量です?」「聞くところによると…ここにある一番大きな大皿で1人につき10数枚ほど」「え、マジですか⁉」俺が思わずつぶやくと、紅田がさっと顔を放し「ウチに今そんなに大量の食材ねえですよ~…支配人」とぼやく。黒田の話によると予約のキャンセルはあちらの都合上できないというのでなんとかするしかない。

団体の予約日まであと3日ほどに迫った。1日目は大失敗。最初に紅田の指示通りに作った試作品のかさ増し用のハツ料理、一口食べた紅田は「……なんだよこれ生臭え。ハツの血抜きが甘えんだよ森川、これじゃ繊細な舌をお持ちの魔女のお嬢さんがたがきっと顔をしかめるぜ」と怒鳴り、黒髪を片手でかき上げた。同時に中に散らされた赤のメッシュが彼の怒りを表すように激しく揺れる。

俺は「だったら下処理を自分流に変えさせてください。牛乳に漬けて臭みを徹底的に抜いて、クミンとかガラムマサラ、さらに隠し味に赤ワインと少量のハチミツで焼き付ければジューシーさを保ったまま、スパイスの香りで生臭みはゼロ、かつ人狼族の方好みのワイルドな血のコクだけが残ります!」と言い返す。

紅田はテーブルに座ってうつむいたまま、色つきサングラスのつるに付いた銀のチェーンを指先でいじり「そこまで言うんなら作ってみろよ。食べてやるから」と低く唸る。実際にその方法で調理してみると先ほどとは味が変わったようで紅田は「……チッ、合格だ」と悔しそうに認めた。

俺と紅田は店がクローズすると空いたテーブルや厨房を使い新作メニューのアイデアを出し合い、何度も試作を重ねた。時には黒田も巻き込み試食をしてもらう。その中で決まったメニューは店定番の「棺ステーキ」特別アレンジに加え新作は自家製卵や生クリームを使った「フルムーン・ジェラート」や写真やビジュアル映えを狙った「色が変わるバタフライピーのドリンク」など創作料理とデザート系数点に決まった。

そんな中で俺はここ数日の紅田の様子が気になっていた。本当にささいな変化なのだが、時おり厨房の隅やホールの外の廊下端で胸元をおさえて苦しそうにしている姿を見かける。両支配人ともヴァンパイアなのですでに肉体は死んでいる、内側にある内臓も当然機能していないはず…だ。ではあれは一体?

「あの…紅田さん、大丈夫ですか?こんなこというのも変ですけど病院行ったほうがいいんじゃ」「…大丈夫だよ森川、気にすんな。こいつは…病院じゃ治療は無理だ、あれは生きてる人間専用だからな。俺は対象外」紅田は元から白い顔をさらに青くさせて無理に笑った。

「し、支配人は、黒田さんはこのこと…知ってるんですか?」「ああ、もちろん知ってる。たぶん…今、2階で取り替えてる真っ最中だろうな」「取り替えるって何をです?」「…だからお前は知らなくていいんだよ…森川。新作メニューの試作に戻ってろ。後から行くから」紅田はそう言って天井を見上げる。俺は言われたとおりに廊下から厨房へ引き返した。紅田はそれを見届けると、ふらつく歩みで2階への階段を上り支配人の私室に向かう。肩で押し開けるようにしてドアを開けると奥に金庫の前にしゃがみ込む黒田の姿が見えた。

「・・・やっぱり作業中でしたか。今日は昼から胸(ここ)の調子が悪かったんでもしやと思ったんですが・・・勘が当たりましたね」「すみません。交換のタイミングが悪かったですかね。あと少しだけ我慢していたたけますか」黒田は金庫の中から取りだした中ぐらいのサイズの瓶の中にある白っぽくなった握りこぶし大の肉塊に慎重に透きとおった琥珀色の液体を注いでいく。その度に紅田が苦しげな表情を浮かべ、吐息まじりの声でわずかに呻く。黒田の手にした瓶の中身は数年前に自ら差し出した「自身の心臓」であり紅田が最も恐れていた「ヴァンパイア・ハンターにいつか狩られるかもしれない」という漠然とした不安を和らげるための苦渋の解決策の結果だった。

「終わりました。厨房に戻ったらどうです。森川くんが心配しているんじゃないですか?」「ああ、それなんですけどね。あいつ、わりと勘が鋭いみたいで・・・まだ明かしてないですがもしかすると・・・気づかれてるかもしれません」紅田が返すと黒田は驚いたように「ほう」とつぶやく。「まあ、あなたには今死んでもらっては困りますから、今週末にいらっしゃる魔女の方々にさらに詳しい対策を聞いておきましょう」「すみません黒田さん・・・よろしくお願いします」紅田は謝ると、黒田に一礼して支配人室を後にした。

しばらくして厨房。俺と副支配人は新作メニューの試作を再開していた。「おい森川!だから棺ステーキのカサ増し用のハツはもっと包丁で細かく叩けって……ぷ、ぷきゅっ⁈」 調理の指示をしていた紅田が唐突に奇妙な声を出した瞬間もわあっと突然謎の煙が厨房内に立ち込める。次の瞬間、調理台のまな板の上にはもこもことした小さな黒い毛玉のようなものが転がっていた。 よく見ると頭にはコウモリのような尖った小さな耳、背中にはこれまた小さな翼が生えていて、首元にはなぜか小さな赤い蝶ネクタイがちょこんと収まっている。

「……は? え、紅田さん急にどうしました……? なんだこれハムスター……? いや、ネズミ?」 『何がネズミだこの無礼者が! 吸血鬼の由緒正しき蝙蝠変身の術がちょっと魔力回路の不具合で若干デフォルメされただけだっつうの、うるっせえ!』 ハムスターもどきと化してしまった紅田はいつもの喧嘩腰の口調と絵に描いたような半月形ジト目で怒ってジタバタするものの、短い手足のせいでその場でただゴロゴロと転がっているようにしか見えない。

そこへ2階から下りてきた黒田が通りかかり、優雅に指先で眼鏡を押し上げて微笑む。 「おや、紅田くん。心臓のメンテナンスの時期は魔力が非常に不安定になりますからね・・・今回はネズミになってしまいましたか」 『だ・か・ら蝙蝠、コウモリですって支配人!くっそ…これじゃ包丁が握れねえじゃねえですか!』 「仕方ありませんね。森川くん、今日の試作はあなたが主導をお願いします。紅田くんは……そうですね、そこで大人しくしていてください」

黒田はそう言うと厨房にあった小さなステンレス製のたらいにぬるま湯を張りそこに料理用の食用薔薇(エディブルフラワー)の花びらをパラパラと浮かべた。 「ほら、君の好きな薔薇風呂ですよ」 『おおっ! 気が利くじゃねえですか支配人!』 さっきまであんなにキレ散らかしていたハムスターもどきの紅田は嬉々としてたらいの中に飛び込むと、小さな翼や手足を器用にパタパタさせながら薔薇の花びらの間をスイスイと楽しそうに泳ぎ始めた。

俺は薔薇の湯に浸かって『ぷはあ、生き返るぜ……』と極楽そうな顔をしているハムスター化してしまった紅田を見下ろし内心で(……いや、急に満喫してんじゃねぇよ。ていうかハムスターになった紅田さん、めちゃくちゃ可愛いなチクショウ……)というツッコミを放棄して黙々とドリンクに使うバタフライピーを煮出し始めるのだった。

薔薇風呂をひとしきり満喫した後、そのままコウモリとハムスターが合体した中途半端な姿のままで『あ〜いい湯だった』とつぶやき調理台へ戻ってくる紅田。 『おい、ジェラートの冷やし込みが足りねえぞ!』と今度は調理台の上をあっちこっちトコトコと忙しく走り回りながら、小さな前足で俺が作業しているボウルを叩こうとするが体が軽すぎるのでボウルはびくともしない。

俺が「紅田さん、危ないからそこ歩かないでください!あ、待って、それ今作ったばかりのバタフライピーのシロップですから踏まないで!」言うが早いかまな板や調理台の上を走り回っていた紅田はシロップを入れた皿に落っこちて、腹あたりの毛だけが紫色に染まってしまい、『ぷきゅーうっ⁉︎何てことしやがる!』とさらに大騒ぎする。

俺に散々叱られた後、紅田はふきんで優しく包まれて回収された。手近なボウルに急いでネットで調べた蒸したさつまいもや茹でてほぐしただけのささみ肉などを一緒に入れてみると、さっきの薔薇風呂で疲れたのかものすごい勢いで頬袋につめこみながら食べて始める。後から思ったが姿がハムスターっぽいだけで中身は副支配人のままなのでそんなに気にしなくてもよかったのかもしれない。

予約当日。厨房では夕方の開店前から俺と紅田で食材の仕込みや準備が始まっていた。この3日間は自宅に帰らずにレストラン2階の空き部屋に泊まりこんでいた。家族に電話とメールで事情を連絡したがあまり相手にはされておらずあっさりと了承される。

「おい、手え止まってるぞ森川。急げよ」「あ、すみません」紅田は魔力の流れがやっと安定したのかハムスター状態から解放されていた。だが、時おり前触れなくハムもどき化してしまう。そうなると作業がまったく進まないので困るのだが…今夜は大丈夫そうだ。たぶん。

「あん?な〜にニマニマ笑ってやがる。あれか、俺がハムスターもどきになったやつ思い出してんのか?大丈夫だよ、ここ数日は変化ねえからな」「それはよかったです」紅田は棺ステーキ、ドリンクとジェラートなどの仕込みをほぼ同時進行でやりつつ「心配すんな」というふうに胸を張る。

ホール側では黒田がテーブルのセッティングをしていた。近所の花屋から取り寄せた紫陽花などの季節の花々を花瓶に生け、ディナーの雰囲気に合いそうな食器などを選んでいく。クロスは夜の闇のように深い青紫色。ポケットに入れていた懐中時計の文字盤を確認してパチン、と蓋を閉める。予約は20時きっかりなのでまだ少し余裕がある。

「お2人とも準備は順調ですか?あと数分ほどでお客様が到着されますよ」黒田は厨房に行き、中に声をかける。俺と副支配人はそろって準備OKを伝えた。黒田が頷くとその顔の横を数羽のカラフルな蝶が通りすぎ、セットされたテーブルへひらひらと飛んでいく。そうして支配人や俺たちの目の前で蝶がゆるやかに着飾った女性たちに姿を変えた。黒田が彼女たちに気づいてすばやく一礼する。魔女たちは「誰もいないわね。ちょっと来るの早すぎたかしら」などと小声で囁きあっている。

「…お久しぶりね黒田さん。あら、厨房の紅田の隣にいるあの子は新しいスタッフさん?」奥にいるクラシカルなデザインの黒い夜会ドレスをまとった女性がそっと近づいて話しかけてきた。黒田は「ええ、先週入ったばかりの新人くんですよ」と答える。彼女は玄野深沙くろのみさといい、紅田の心臓に関する件で封印や管理方法に至るまでの全て担っているある意味主治医的な存在だった。

早く到着した現代の魔女たちと黒田がテーブル付近で歓談しているとカランカラン、と店の入り口のドアベルが激しく鳴り、夜の冷気と共にドタドタと騒がしい足音が響いてきた。

「うおー!腹が減った!黒田の旦那、美味い肉早く出してくれよ、あるんだろ」そう叫びながら入ってきたのは仕立ての良い服を着てはいるが、どこか野性味を隠しきれない体格の良い若者たち――すなわち人狼族の面々だった。

「いらっしゃいませ。今夜は皆様のために特製のアレンジ料理をご用意しております」黒田がいつもの笑顔で彼らを魔女たちの反対側の席へと誘導する。予約客が全員揃ったことで厨房の空気は一瞬で跳ね上がった。

「おい森川!人狼の野郎どもが来やがったみてえだ!例のステーキは一気に焼くからな、遅れるんじゃねえぞ!」 「了解です紅田さん!ハツのカサ増しステーキ、10枚一気にいきます!」

赤メッシュにサングラスの元の姿に戻った紅田と俺はこの3日間の試作で培ったコンビネーションを爆発させる。ジュウ、という鉄板の上で肉の表面が焼けていく激しい音と共に、クミンやガラムマサラなどの強いスパイスの香りが厨房を満たした。

「オイオイ、なんだこの美味そうな匂いは!?」俺と紅田が焼き上がったばかりのステーキの大皿をホールに運ぶと、人狼族の若者たちは途端に目を輝かせてハツのステーキに食らいつく。よく見ると狼の耳と尻尾が隠しきれておらず全員どちらかが出たままになっていた。

「すんごく美味いな、誰だよこれ作った奴!」ステーキを貪るように食べる彼らの狂宴と賞賛のコメントを前に、俺は厨房の裏で「よし!」と小さくガッツポーズを決めた。

「さて、お次はデザートと当店の新作のドリンクでございます」黒田が恭しく魔女たちのテーブルへとグラスを並べる。透明なグラスに入った、夜空のように深い青色のバタフライピー。深沙さんが「素敵、綺麗な青ね」とグラスの中を覗き込む。

「あ、あの…こちらにこのシロップを注いでみてください」俺が緊張しながらグラスと一緒にテーブルへ置いたレモンシロップの入った小さなピッチャーを勧めると、彼女たちは楽しげにそれをグラスに注ぎだす。

その瞬間、グラスの青かった液体がまるで夕暮れから夜に変わる空のように、鮮やかな紫色からピンク色へと移り変わっていく。その上に浮かんでいるのは、濃厚な卵と生クリームで作った黄金色の「フルムーン・ジェラート」だ。

「キャー!なにこれ可愛い!」「めちゃくちゃ映えるじゃない!」「ちょっと黒田、これ動画に撮っていい⁈今すぐSNSにあげちゃうから!」「……失礼ながら皆様、神聖なる魔女の集会をネットワークであれ流すのは規約の違反です。どうか今夜はカメラは収めていただけませんか?」

現代の文明の利器とも言えるスマートフォンを使いこなしてはしゃぐ100歳をとうに超えている魔女たちに、19世紀のクラシックスタイルを崩さない黒田が明らかにひいている。普段とは違うそのギャップがおかしくて、俺は厨房から思わず吹き出しそうになった。

ひと通り料理を出し終え、お茶会がひと段落した深夜。今宵の特別な宴に大満足した様子の深沙さんが厨房の片付けをしていた俺と紅田、そして黒田のほうへと歩み寄ってきた。

「彼から話には聞いていたけれど、それにしても紅田さんあなた、今夜は一度も例のハムスターもどきってやつにはならなかったわね。心臓のメンテナンスの時期にしては体内の魔力も驚くほど安定してるし…」「へっ、そりゃあ俺の気合いですよ深沙さん」紅田がサングラスを長い指先で直しながら返すと深沙さんはくすり、と妖艶に笑って俺の顔をじっと見つめた。

「それは…たぶん違うわ。ふうん、なるほどね…理由が分かったかもしれないわ黒田さん」 「ほう。私にもお聞かせいただけますか玄野様」 「紅田さんの心臓は彼の死への恐怖から切り離されてあの瓶の中。だからあの子の肉体は常に冷えきって、魔力が暴走しやすかった。でもね――」深沙さんが俺の肩をポンと叩く。

「この3日間、この森川くんと料理のことで本気でぶつかり合って、熱くなって、必死に頭を動かしたでしょう?その人間の持つ『生』のエネルギーと、創作意欲が紅田さんの死んだ身体にはいい刺激…というか安定剤になってたのよ。人間の持つ活力って、時としてどんなに複雑な魔法の培養液よりも人外の特効薬になるのよきっと」 「え? 俺の料理が……?」

驚く俺の隣で紅田は話を聞きつつ「はあ?何言ってんだよ深沙さん、そんなわけ……ないじゃないですか」と、赤のメッシュの隙間から耳まで真っ赤にしてそっぽを向いてしまう。黒田はいつもの完璧な微笑みを浮かべ、パチンと再び懐中時計をポケットに収めて俺にこう言った。

「ふむ…森川くん。君に支払う高い時給には料理の他に『副支配人の家庭の医学』としての代金もどうやら含まれていたようですね。今後もうちの店に不可欠なスタッフとしてよろしく頼みますよ」

ホールも厨房もすべての片付けが終わり、深夜の3時。疲れ果てた俺は今夜の特別手当入りの紙幣でパンパンになった財布をジャケットのポケットに押し込み、レトロなビルの軋む階段を上って地上へと出た。

昼間のオフィス街の喧騒がまるで嘘のように静まり返った四条烏丸の大通り。見上げると、雲一つない夜空に本物の満月が煌々と輝いていた。

(……あの店に不可欠なスタッフ、か。まあ…ハムスターになった紅田さんは死ぬほどに可愛かったし、あの黒田さんも嫌いじゃない)

「うーんまあ、もうしばらくは…この無職の生活でもいいかな。なんか楽しいし!」俺はそう小さくつぶやいて、冷たい夜風に背中を押されるように実家へ帰る駅への道を足早に歩き出した。 【了】

番外編「数百年前、始まりの夜に」

あの賑やかなクローズドイベント、満月の夜のお茶会から少し後のことだ。店の閉店後、俺はふとした拍子にあの「コウモリとハムスターが合体したような姿」に再び変身してしまい、空きテーブルのふきんの上に設置されたたらいの薔薇風呂に浸かっていた紅田さんにこの店でアルバイトを始めてからずっと気になっていたある疑問をぶつけてみた。

「あの、紅田さん。紅田さんってその……最初から吸血鬼ヴァンパイアだったんですか?」食用薔薇の花びら数枚を頭に乗せたままぷかぷかと浮いていたハムスターもどきの紅田さんが一瞬動きを止め、半月形のジト目を俺のほうに向けた。

『あ?なんだよ急に。お前そんな話が聞きてえのか?またそのうち話してやるから今夜は大人しく帰れよ』
「いや、あの時黒田さんが『メンテナンス』とか言ってたし、紅田さんはこないだ病院が生きてる人間専用だって言ってたからもしかして…昔は人間だったのかなって思っただけで」

薔薇の花の甘い香りが湯気となって広がる静かなホールで、紅田さんは『ふん、なあんだ。お前にしちゃ鋭いな』と小さく鼻を鳴らした。そして、たらいの縁に短い前足をかけ、遥か遠くを見つめるような目をする。

『そうだよ。お察しのとおり俺は元々はただの人間だ。それももう…何百年も昔の話だがな』

紅田さんがそう言って俺に話し出したのはまだこの国に洋館やレトロなビルなんて影も形もなく、夜が今よりもずっと暗く深く、今はどこかに隠れてしまった本当の「怪物」たちが闇を支配していた時代の話だった。

当時、紅田はとある町に暮らす貧しい孤児だった。その日暮らしの泥棒まがいの生活を送り、激しい飢えと寒さから路地裏でのたれ死ぬ寸前だった。冷たい雨が降る夜、幼い頃から肺を病んでいた紅田は激しく血を吐いて動けなくなった。

(ああ、俺の人生…ここで終わりか。今死んだら誰も俺のことなんか覚えちゃいねえんだろうな)

そう諦めて目を閉じた時、いつやって来たのか目の前に1人の男が静かに佇んでいた。今と変わらない、完璧に仕立てられた漆黒の外套コート。冷徹なまでに美しい容姿。銀縁の眼鏡の奥にある瞳はまたたく星さえ凍りつかせるような、また深い闇を思わせるような冷たい輝きを放っていた。

それこそが吸血鬼の始祖――この世には数人しか存在しない「真祖」と呼ばれる絶対的な存在のうちの1人、黒田真紅郎だった。黒田は路地裏に転がる薄汚れた人間の子供をまるで道端の石ころでも見るかのような無感動な目と表情で見下ろした。

「…哀れなものですね…人間の命とは。これほどまでに脆く、簡単に火が消えそうになるのですから」
息も絶え絶えの紅田はその圧倒的な存在感に恐怖するどころかその男の美しさに思わず目を奪われ、掠れた声でこう言い返していた。

「……うる、せえよ。……あんた……こんな俺を、ここまで、笑いに……来たのかよ」
その言葉に黒田はほんの少しだけ意外そうに眉を動かした。死を前にしてなお、自分という「絶対的な捕食者」に牙を剥く人間の子どもがもの珍しかったのかもしれない。黒田はゆっくりと長い膝を折り、紅田の泥まみれの顔に冷えた指先で触れた。

「なるほど。君はまだ…死にたくはないということですね」「……当たり、前だろうが……。俺はまだ……何にも、成し遂げてねえ……美味いもんだって、腹いっぱい食って、ねえんだ……死ねるかよ……‼」
黒田はくす、と静かに微笑んだ。それは幼い彼に対する慈悲ではなく、本当に彼のただの気まぐれだったのかもしれない。

「…面白い。ならば私の永きに渡る退屈の良い暇つぶしになっていただきましょう。ただし、私と同じ闇の世界に堕ちれば……二度と光の下を歩くことはできませんよ」
「か、構う、もんか……! 闇だろうが何だろうが、あんたに這いつくばって、生き延びてやるよ……!」
それが2人の契約の瞬間だった。黒田は自らの手首を鋭い爪で傷つけ、そこから溢れ出た極上の「真祖の血」を紅田の口元へと数滴滴らせた。

お前さ、自分の身体が作り替えられる激痛というものを感じたことってあるか?内側から焼き尽くされるような熱さの中で、紅田のツヤのない黒髪には黒田の血の象徴である「鮮やかな赤のメッシュ」が発現し、瞳も彼と同じ深い紅色へと染まった。長年病に侵されていた肺は黒田の血を受けたことで急速に再生し、紅田はこうして吸血鬼としての永遠の命を得たのだ。

それから数百年の間。紅田は黒田の眷属こどもとして彼に影のように寄り添い、共に生きてきた。真祖である黒田の力は強大だったが、それゆえに眷属である紅田は常に吸血鬼を狩るハンターたちの標的にされた。真祖を殺すことはできなくとも、その眷属を狩ってやろうとするハンターは後を絶たなかったのだ。何度も何度も死線を潜り抜けるうちに、紅田の心の奥底には「いつか自分も狩られるかもしれない」という消えない恐怖が濃く刻まれていった。

それを見かねた黒田は紅田の漠然としたその恐怖を取り除くため、ある秘術を試してはどうかとある時提案した。それが脳の次に弱点である心臓を体外に切り離し、魔女の深沙が作った魔法の培養液の中で厳重に封印と管理をすることだった。

心臓が体の中にさえなければ、たとえ胸を杭で何度貫かれようとも紅田の体が灰になって消えることは決してない。だがその代償として紅田の体内に流れる魔力は非常に不安定になり、たまにこうして奇妙な姿に変身してしまうという副作用が残ったのだが――。

『まあなんだ……そういうわけだ。あの黒田の旦那は冷徹そうに見えて、偶然拾った俺という玩具を壊したくないっていう、妙な独占欲があるだけってことさ。あとな、真祖の血の直飲みはお勧めしねえ。その後3、4日くらいは高熱出して寝込んだからな。もし支配人にヴァンパイアにならないかって誘われたら断れよ』たらいから出てきてバスタオルがわりのふきんの上で、ハムスターもどきの紅田さんは自分の小さな前足を見つめながら自嘲気味に笑った。

紅田さんの話を聞き終えた俺はしばらく言葉が出なかった。普段はやる気がなさそうで、すぐに怒鳴る副支配人。完璧でカタブツの支配人。2人の間には人間の俺には到底理解できない、数百年に渡る「血の絆」と「主従の歴史」があったのだ。

「……そっか。大変だったんですね、紅田さんも」『おい、俺に同情すんなよ森川。お前もヴァンパイアにするかんな‼︎』「いや、そんなこと言われても…今の紅田さん、ちなみに手のひらサイズですからね?」『くっそお、早く元の身体に戻りてえ……! ほらほらおセンチな昔話は終わりだ。とっとと家に帰りやがれ!』紅田さんがちっちゃな手を振りながら怒鳴るが怖くはない。俺は「じゃあ、お先です。また明日の夜に」とリュックを片手に入り口から外に出た。

冷酷な真祖と、その血を分け与えた眷属。そんなおどろおどろしい過去が上司2人の間にあろうと、今の俺たちの戦場はこの「棺と十字架」というレストランなのだ。

今度黒田さんと紅田さんを誘って実家に来てもらおうかな、アルバイトを始めたけどまだ家族に全然紹介してないし…などと俺は勝手に週末の予定を立てつつ、夜空を見上げる。そこには6月の血のように赤い三日月が輝いていた。【了】

★この作品はGoogleGemini 3.5Flashとアイデア出し、共同執筆を行っています。フィクションであり実在の団体や人物、事件とは一切関係ありません。

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